今回の依頼品はスネーククリップ付きのMontblanc No.234・1/2じゃ。製造されたのは1952年〜1954年だがクリップは第二次世界大戦以前の形状と同じ。
ブラインドキャップ式の吸入機構を採用している。同時代のNo.14Xはテレスコープ式を使っているので、それの廉価版の位置付けじゃ。
なをNo.234・1/2が製造中止になると時を同じくしてNo.25Xシリーズが発売された。後継モデルと呼ぶべきであろう。なを同時代の中級モデルとしてはNo.24Xがあったが、これも1954年に製造中止となっている。
1952年〜1954年は萬年筆不作の年かもしれない。ちなみに拙者も1952年生まれ!やはり不作か・・? ペン先は詰まっている。しかも多少背開き気味。この時代の背開きは手強い。曲げても、時間が経過すると元に戻ってしまうことがある。まるで形状記憶合金のよう。鍛錬した14金は調整しにくい!
その点、最近の純度の高い金はすぐに変形する。調整も加工も簡単じゃが、高い筆圧の人には使えないかもしれない。そういう危惧があるからこそ、ペン先の厚みを増やしてガチガチにしているのかな?
綺麗に研がれたクーゲルだが、かなりペンポイントが曲がって取り付けられている。それを難なく研いでいる。当時のメーカーのペン先研ぎの技師の技はすごかったなぁ・・・
大量のペン先が運び込まれて、次から次へと猛スピードで研いでいた・・・と思われる。毎日毎日朝から晩まで研ぐのは相当苦痛だったはず。趣味でちゃらちゃらと研ぐのは精神集中もしやすいが、労働としてやるのは拙者には無理じゃな。 こちらがスネーククリップ。ヘミングウェイと同じ形状をしているのがわかるかな?
ヘミングウェイはNo.139を軸色を変えてコピーしたものであるのは誰もが知っているが・・・拙者の希望はNo.146ベースの限定品をスネーククリップで作って欲しい。出来ればNo.136あたりの復刻ということで・・・それなら10本は買う! 例によってトサカのようにめくれ上がったペンポイント。この部分は、研がなければ意味がない。
クーゲルは縦横の字の太さを揃えるのが第一目的で作られたはず。ということは大きめのスイートスポットが無ければなし得ない。にもかかわらず接紙部分が尖ったままというのでは話しにならない。
ひょっとすると、クーゲルはペン先調整を前提として売られたのかも知れない。細字のクーゲルはともかく、太字のクーゲルで未調整でも絶妙に書ける個体に出会ったことはない。 首軸からペン先とペン芯を抜くのに苦労した!ヒートガンで温めても首軸が緩まない。仕方なくお湯に首軸を浸けて何度もピストンを上下させ、首軸内にこびりついたインクを除去した。
3時間後にようやくペン先だけが外れ、その後ペン芯をなんとか引っ張り出して完全洗浄した。いやはや手強い奴だった。
ちなみにペン芯の溝はインク滓で詰まっていた。スキマゲージでさらったら夥しい量の滓が出た。ロットリング洗浄液、超電解水、エアーダスターで何度もペン芯の洗浄を繰り返して、やっと綺麗になった。
ペン芯とペン先のカーブが合っていないので、ヒートガンでペン芯のカーブを調整し、一方ペン先もツボ押し棒でカーブを変え・・・最終的には空気とインクが綺麗に交換できる位置関係になった。 しかる後にスリットを開いた。これも可能な限り調整戻りが少なくなるように少しずつ曲げていった。
経験上急激に曲げると、後々の戻りも大きいような気がしているので・・・誤解かも知れないが・・・
同時に背開きだったペン先も、多少腹開きに変えた。クーゲルで背開きだと書き味はガリガリになってしまうのでな。 最後に依頼者の筆記角度に合わせてスイートスポットを作り込んだ。依頼者は日常使用を目的としているので、ある程度クーゲルの個性を殺してでも、スムーズな筆記感になるように微調整した。
トサカの根元の部分を研磨してスイートスポットとした。超ぬらぬらの書き味の中にも、ホンの少しだけクーゲルの香が残ったような書き味。まさに絶妙じゃ!これが依頼者の手元に渡るまでに調整戻りしてしまわなければ良いのだが・・・
【 今回執筆時間:7.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整4.5h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間