今回の依頼品はMontblanc No.644。黒軸に金貼りのキャップが付いたモデル。ウィング・ニブのタイプもある。
これには一時、かなり傾倒したものだが、ある日、クリップで軸に傷がついてしまう事を発見して、一気に気持ちが引いた記憶がある。金貼りキャップは、まだ目立たないのだが、銀色キャップの場合はえらく目立つ。特にクリップをつまんで捻った時についた傷は悲惨!
今回の依頼内容は・・・健康診断と言うことだったが、明らかにインクは吸わない。どうやらコルクが収縮しているらしいな。
こちらが上から見た画像。ちょうど良い位置にセットされているように見えるが、これではペン先はグラグラでインクフローも安定しない。
ペン先を固定するソケットのタイプが首軸と合わないらしく、しっかりとソケットにペン先をセットしてねじ込んでいくと、ペン先がずいぶんと上の方まで首軸に隠れてしまう。
またペン先の端々が紙に引っ掛かってまともに筆を進められない。右側画像に見るように、エッジがここまで尖っていると、いくら筆圧を下げても紙の繊維にエッジが引っ掛かる。従って周囲をもう少し丸めてしまう必要がある。
こちらは横顔。Vintage Montblancの王道どおり、OBBのペンポイントには厚みというものが無い!
カリグラフィーに使えや!とツッコミを入れたくなるようなペン先じゃ。ところが、筆記角度が安定すると、このイタリックの書き味に必ず嵌る時期がある。なにせ、かなり字が上手く見えるのでな・・・
ばらしてみると、これだけの部品に分かれた。もちろん、器具無しでここまで分解できるわけではない。
首軸を胴軸から外す際には、ヒートガンで首軸を温める。また吸入機構を胴軸の後ろから外すには、テレスコープ専用の工具が必要になる。長い時間書けて先人が経験的に積み上げてきた技を苦もなく入手できる時代になった。これからは情報戦ではなく、技術戦になる。すなわち、だれが完璧に修理出来るか?が問題となる時代になってきた・・・
今回の個体についていたコルクは左側。おそらくは専門店で交換したばかりであろう。
ところがコルクを乾燥させてしまったために、胴軸内部よりもかなり径が小さくなってしまい、空気が横からすり抜けて・・・インクが吸入できない!という状態だった。
そこで新たにVintage No.144用のコルクを削り、軸内径と同じ太さに揃えた上で、イボタ蝋の結晶を熱で溶かしたものに手早く浸したコルクを使うことにした。それが右側画像の右側じゃ。
左は研磨前のペン先。ただし調整の一環ということで、スリットだけは多少開いてインクフローをよくしておいた。
そして研磨した後の画像が右側。右側のペンポイント先端部の右側を丸めた!これによって愕然とするほど書き味が良くなった!
Vintage Montblancの書き味を堪能したいならば、No.144かNo.146の修理風景を頭にたたき込んでおく必要がある。すなわち、記憶によって技術を伝承するのじゃ!やりかたはBlogに書いてある。それをどう実現しているのかを見るのは為になる。
【 今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間