今回の依頼品はPelikan M420 18C-Bじゃ。まったくの新品未使用品。海外からの入手と聞いた。すなわち国内の代理店や店頭を経由しないで手に入った物。
こういう品の特長は、店員によるペン先交換を経ていない確率が高いこと。これはPelikan萬年筆の工場出荷時の品質を把握するのにまたとないチャンス。しかも太字のペンポイントを持つペン先の出荷時の状態はぜひ見てみたいと思っていた。
ボディはキャップと尻軸が純銀製。トレドとまったく逆の作りだが、拙者の好みとしてはトレドのバランスの方が手に馴染みそう・・・
ペン先のスリットは僅かに開いているが、インクフローはかなり不足気味に感じた。
書き味としてはカリカリやザラザラではなく、ゴリゴリ。これはペンポイントの外側が紙に当たった時に出る音。すなわち丸め不足。これは極太のペン先にはありがちな状況だが、現行のMontblancでは、このあたりの処理が見事!我らがPelikanは太字になるほど守勢に回っているようじゃ。
こちらは横顔。かなりペンを立てて書くような仕上がりになっている。実際筆記角度80度くらいで書くと、なかなか良い感じなのだが、寝かせて書くと最悪の書き味。スイートスポットを作り込む必要がある。
ところで・・・ペン先とペン芯との関係に破綻はない。一度分解して再調整するにしても同じ位置関係にセットするであろう。これは極めて珍しい。いままでPelikanの調整でペン先とペン芯をばらさないで調整したことはなかったが、今回初めて【そのまんまインクフロー調整】が出来そうじゃ。
左側が調整前の画像。これもスキャナー利用。なんとPelikanで何かと問題になる段差がない。段差はやはり国内の店頭で発生しているらしい。
調整前はスリットも多少詰まり気味ではあるが、なんと言ってもペンポイントの裾が外側に張ってる。この張り部分が紙に当たってゴリゴリという書き味になる。そこでスリットを拡げ、裾を丸めた状態が右側。まだ仕上げはしていなくて削った直後だが、Pelikanの太字系ではこれくらいの丸めは必要。これを筆記によって丸めていくのも一興だが、数年の期間を要することになろう。若人は試してみる価値はあるが、老境に入った拙者は、チャチャチャと耐水ペーパーで削る方を選んでしまう。
ちなみに、右側の画像は仕上げ前じゃよ。これから多少の平面だし、磨き、荒らし・・・などの作業が続くので悪しからず。
こちらが調整の終了したペン先。首軸との位置関係は変わっていない。外してないから当然じゃ。
そしてスリットはかなり開いた。筆圧が下がってくると、書き出し筆圧も限りなくゼロに近くなる。とりあえずインクが紙に滴る・・・ことが要求される。流れのよいインク、引きの強いインク、ペンポイント表面に粒子が残りやすいインク・・・などを使うことが、書き出し掠れを防ぐ策じゃ。
もちろん、ペンポイントの表面をザラザラに荒らしておくのも対策の一つ。そういう意味で、筆圧が低く、ぬらぬらの書き味が好きなのであれば、書き出し掠れは気にしない!という意識を持った方が気が楽じゃ。両方を両立させるような調整は長続きしない。ちょっとした筆圧の加減で戻ってしまう。
筆圧が低ければザラザラは感じないので、拙者は自分用の調整では、最後に表面を多少荒らして書き出し掠れを防いでいる。
こちらが調整後の横顔。5枚目の画像と比べると、どのように調整したかが良くわかろう。太字を酷使で飼い慣らすには、これだけ削り取らねばならない。しかもこう綺麗には削れない。やはり萬年筆は調整によって早く手に馴染ませる方が精神衛生上は良い。苦難を乗り越える【楽しみ】を得ることが目的ならはなしは別だが・・・
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間