
本日の依頼品は仙台大橋堂の漆塗り軸。蒔絵や螺鈿などではなく、漆を盛り上がるように塗った軸。しかも違う色を幾層にも重ねて塗ってある。拙者は蒔絵には詳しくないが、塗りは好き。ただ、こういう盛り上げるように塗り上げる細工には、工芸品として抵抗がある。実は以前、手慰みで塗りをやったことがあるが、素人がやると結局はゴテゴテした仕上がりになってしまう。それと区別が付かないのじゃ。もっとも、それはピカソの絵を子供の落書きと言うに等しいのかもしれないが・・・

工芸品としてはともかく、筆記具として見れば、このゴツゴツした塗りの萬年筆は優れている。軸が軽いので、キャップを後ろに挿さなくてもバランスは良い。
ネジは一条なのでかなり回さないとキャップが外れない。従って外出先でメモを取るようなシチュエーションには向いていない。自宅で和服でも着て、小説家気取りで、髪の毛など掻きむしりながら、言葉を紡ぎ出すような時に最適な萬年筆に思われる。


ペン先は太字だが、まん丸なペンポイントが付いている。これが仙台大橋堂の太字の特徴。聞くところによればペンをひっくり返しても書けるように・・・との配慮だとか。
拙者はペンをどう倒しても書き出し掠れが無いようにするための秘策ではないかと考えている。想定でスイートスポットのような平面をペンポイント上に作り込めば、必ずその角度に合わない人も出てくる。しかし球が半分に割れた形状であれば、かなりペンを捻らなければスリットは紙に触れ、インクは出てくる。
これなら対面販売で調整に長時間時間をかける必要もないし、重い研磨機械を運ぶ必要もないから・・・


こちらがペンポイント。まさに球じゃ。一般にもこの状態で出荷してくれるオプションがあれば、これから調整を勉強しようという人がこぞって購入するであろう。自分にあったスイートスポットを表にも裏にも自由に作り込むことが出来る幻のペンポイントじゃな!

ペン先を首軸から抜いてみると、根元に【Sailor】の刻印がある。ずっと以前から仙台大橋堂はセーラーのニブに自社の刻印を施して販売している。
表面のOHASHIDOなどの刻印はレーザーではないかもしれないが、周辺の飾り文字はレーザー刻印であろう。

左画像の下はWAGNER 2010の刻印。こちらは100本限定のため、コストがかからないレーザー刻印を選んだが、何千本にも施す刻印ならば専用の刻印機を作った方が安いのかもしれない。
最近では手軽にレーザー刻印が出来るので、100本単位であれば、一本2000円程度で特殊刻印をしてもらえるはず。企業の創立記念日などに利用してはいかがかな?発注は文具店経由でやるのが確実じゃ。


こちらが調整後のペンポイント。まずはスリットを拡げインクフローを良くするのだがけっこう難しかった。スリットを拡げようとすると、ペン先が反ってしまい、ペン芯と離れてしまうという現象が起こった。通常のセーラーのペン先では発生しないような現象・・・そこでペン芯を反らせ、その上にペン先を乗せてからヒートガンであぶってペン芯が自然に寝るのを見ながら一瞬のタイミングで水に入れて固定するというVintage Montblancのペン芯に適用する技を使った。
ペンポイントは球形を研磨し、依頼者の筆記角度に従って大きなスイートスポットを削り込んだ。いろいろなペーパーやラッピングフィルムでツルツルに仕上げた後で、ペンポイントの表面を2500番の独逸製耐水ペーパーで荒らした。
これにセーラーの黒インクを入れて書いてみると、シュルシュルという筆記音を出しながらインクがスムーズに紙の上に流れていく。決してヌラヌラではなくシュルシュルじゃ。
萬年筆で太字に嵌ると、最初はヌラヌラに行くのだが、そのうちだんだんとヌラヌラに飽きて、筆記音がする調整に興味を示す。4人に3人の割合でそうなるのだが、WAGNERの定例会に頻繁に参加している人だと、他人の言葉にも影響されて、10人に9人がそうなっていく。
今回の依頼者もヌラヌラでは物足りない・・・と感じているようなので、こういう調整にしてみた。このあと引き渡し時に、微調整をすれば【
自分の手にぴったりこない。何故かわからない。どこをどう調整すれば自分お手に合うようになるのか?】と悩んでいた依頼者への素敵な回答になるであろう。
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(3)│
mixiチェック
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萬年筆調整
なるほど。手持ちのシェーファーBニブ2本をルーペで見ると、どちらも確かに研ぎがあります。ともに新品で入手したものなので、第三者の手が入ってるとは思えません。この状態でメーカーから出荷されたものと思われます。勉強になりました。どうもありがとうございました。
この万年筆は引っかかるとか、フローが悪いとか特に目立って悪いところはないのになぜか手に合わず、悩んでいました。引き渡し時の微調整で悩みが解消されるとは!その時を楽しみにしています!
ところで質問ですが、ペンポイントが球状の理由は書きだし掠れを防ぐ目的とのことですが、同じ球状をしているシェーファーのBニブも同じ理由によるものなのでしょうか?