
今回の依頼品は1980年代のMontblanc No.149。胴体、ペン先を総合的に考えれば、1970〜80年代は最も流麗な形をしたNo.149の時代ではないかと考えている。1950年代のフォルムは何となく垢抜けないし、1960年代は尻のリングが片方だけテーパーというアンバランス。1990年代に入るとペン芯がプラスティック製になってしまう・・・


その黄金時代のNo.149の中でも14Cで穂先の傾斜が美しい、いわゆる【開高健】型のペン先の美しさは他を圧倒している。
今回の依頼品は、BBにもかかわらずペンポイントの両側が丸く研ぎ上げられている。多少捻っても書き出し掠れが無いように調整したのであろう。ペンポイントの表面がかなり荒らされている事から見ても、以前の利用者はかなり書き出し掠れに悩んだあげく、お嫁に出してしまった・・・と想定される。


横顔を見ると、かなり研いではあるのだがスイートスポットの作り込みがされていない。極太調整の場合にはスイートスポットが無いと、どうしてもゴツゴツした書き味になってしまう。特に独逸製のBBや3Bにおいては。
依頼者の感想は、【つまらない書き味なので直して欲しい】というもの。確かに筆記してみて楽しい書き味ではない。昔なら20年かけて手なずける必要ありと判断されたであろうが、調整が一般的になった現在では、この手の調整は意外と時間はかからない。
神経を使うのは、最後の書き出し掠れ調整だが、これだけは対面で実施しないと完璧には出来ない。理屈を超えた世界があるのでな・・・。今回は対面調整の前までの作業を行った。

黒インクを使っていたと思われるが、ピストンがかなり硬い。ピストンを外してみると、弁の横にもインク滓が付着している。この滓が胴軸内壁との摩擦を上げていた原因!
放置すると内壁を削ってしまうので早めの処置が必要。超電解水を噴霧するとあっという間に綺麗になった!これにシリコングリースを塗れば、数年は大丈夫じゃ!

こちらが外したペン先。この美しさは尋常ではない。神田うの様や沢尻エリカ様のような独特の魅力にあふれている。このペン先をルーペで眺めだすと時間が過ぎるのを忘れてしまう。

ペン先のスリットは狭い。詰まってはいないのだが、若干背開きで内側のエッジの処理も甘かった。それがゴツゴツした書き味の原因。
そこで画像のように、まずは、スリットを開いて背開きを解消した。この状態でペン芯に乗せ、首軸に突っ込んでからスイートスポットを作り込んでいく。スイートスポット作りは、かならず筆記状態に組み上げてから行って下され。

依頼人の筆記角度に合わせて多少寝かせた筆記状態でスイートスポットを作り込んだ。先端部の両側が既に丸められているので、そこを削る手間が省けたので、ずいぶんと楽だった。
インクをつけて書いてみると、以前と全く違った書き味。これが【開高健】が楽しんだ書き味なのか! ・・・ というのは大げさだが、No.149としては極上の書き味になった。
【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
Posted by pelikan_1931 at 08:30│
Comments(5)│
mixiチェック
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萬年筆調整
149の14K-Mを師匠に調整いただきましたが、今だ腑に落ちません。しかし、今の自分が好む書き味が、明日も同じという事はないと思い、ときどき取り出しては使い、溜息をついて、また次だなぁ、と思い片づける日々です。
調整ありがとうございます。この万年筆は80年代MB149のブランド力にもかかわらず、というかそれしかないと言うべきか、私にとっては本当につまらない書き味で全く愛情が持てませんでした。そのため美しいと思ったことがありませんでした。しかし、こうしてUPされた画像を見ると美しいと思えます。
ペン先調整のマジックは、書く喜びを感じさせると同時にペンに対する愛情や愛着を生み出すことでもあるのだと気づきました。あるいは、生命のない所にいのちを吹き込むことであると言えるかもしれません。いのちがあるところには喜びがあり、だからこそよみがえったペンは喜びを感じさせると同時に、愛情を注げる対象になるのですね。何か感心しています。