今回の依頼品はMorison 屋久杉万年筆で、ペン先は兜木銀治郎製の14K-F。非常に軟らかいと言われているペン先だが、書いてみるとかなり抵抗感がある。依頼人の感想は、【カリカリしていて、よそよそしく、思うように書けない。文字が下手に見える・・・】というもの。
ペン先を拡大してみると、ものすごく寄りが強い。これでインクが出ている方が不思議と思われるほど!
ペン先にMorisonの刻印があるとは知らなかったが、シンプルで実に綺麗なペン先じゃ。てっきりMorrisonだと思っていたが、刻印を見るとMorisonとrは1個のみ。美しい形状だが、このカーブだと首軸に入っている部分は短かそう。
横から見ると、ほとんどお辞儀をしていない。従ってスリットを拡げてインクが通るようにすれば、かなりふんわりとした感じの書き味になるはず。
またペンポイントは完全な丸研ぎでどこにもスイートスポットが無い。いくらなんでもこりゃひどい。ひょっとするとこのMorison向けに出荷された兜木ペンは、店頭での多少の研ぎを前提としていたのか、あるいは、長期間かけて自分の書き癖になじませる事を前提としていたのか・・・
かなり硬いペンポイントなのでスイートスポットを作らなければ、とても飼い慣らせない。依頼人の筆記角度に合わせて、小さなスイートスポットを作り込んでおく必要がある。
ペン芯は関西方面で作られていた物と思われる。櫛切りもスリットも綺麗だが、唯一、先端部の仕上げが美しくない。せめて最先端部の形状だけでも整えておくことにする。
こちらがスリットを開いた状態のペン先。想像通り首軸内部に入っている金は短い。従ってペン芯の上でズレやすい。
このあたりの手抜きが無いのが1980年代のMontblanc No.149。敵?ながらあっぱれ!
このスリットを開くのには非常に苦労した。いくら開いてもすぐに戻ってしまう。当時の鍛造したペン先の特徴なのかもしれない。調整戻りも大きいので、しばらくは確認が必要じゃな。
こちらがスイートスポットの作り込みが終了したペンポイントの横顔。ほんの少し研いだだけなのだが紙当たりは大きく変化した。
Vintage万年筆の調整における拙者の(最近の)方針は、販売当時の書き味を生かす事。調整が終わった萬年筆であっても当時の書き味の名残を残していなければならないと考えている。
このMorisonにセーラーの黒インクをつけて書いてみると・・・ああ、兜木銀治郎は、こういう書き味が好きだったんだ!とわかってしまう。適度な柔らかさがあるにもかかわらず、書いていて飽きない心地よさ。使うほど、長時間書くほどに良さがわかってくるような書き味じゃ!
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間