2010年07月09日

金曜日の調整報告 【 Matador Garant 994 14K-EF カリカリ! 】

2010-07-09 01今回の依頼品は久しぶりのMatador。このBlogを始めるズ〜っと前、海外の万年筆店からMatadorの高級ラインを取寄せた事がある。まだ独逸マイナーブランドに妄想を抱いていた頃のこと。

書き味は期待通り柔らかで気に入ったのだが、作りの雑さが気になった。戦前の独逸製品は、米国などから見れば、【安かろう悪かろう】の代表と見なされていたと聞いた事があるが、たしかに当時のParkerやSheafferと比べると、軸の作りは2ランクくらい下といえよう。素材の研究が足りなかったのか、今から見れば変形しているものが多い。一方で当時の米国製品はまったく狂いが出ていない。

その中で、MatadorはMontblancなどと比較しても非常に頑丈に作られていて、狂いも少ない。MontblancのNo.13Xとよく似た作り。ペン芯の精度ではPalikanには劣っているが、Montblancとはどっこいどっこい。

2010-07-09 022010-07-09 03依頼者によればこの萬年筆はカリカリして書きにくい。特に早書きするとまったくダメとのことじゃ。

そもそもペン先が首軸から出過ぎている。それほどHoldが強くない首軸なので、しっかりとペン先とペン芯を押し込まないと、筆記中に左右にブレてしまう。またペン先に大きな段差があるように見える。

2010-07-09 042010-07-09 05横顔を確認すると惨い段差があるように見えるが、これは寄りが強すぎて書き終わった時のペン先の段差状態が残っているだけ。ちゃんとそろえれば、その状態で止まる。

そこで寄りを弱めることが必要になるのだが・・・軟らかいペン先の寄りを弱めるには時間がかかる。せっかくスリットを開いても、調整戻りが発生する。時間をかけて微調整を繰り返す必要がある。拙者の場合は経験上、どれだけ調整戻りをするかわかっているので、過調整しておくという技を使っている。一週間経過すればちょうどよい状態になる。

2010-07-09 06このモデルはMontblanc No.13Xと同じく、完全分解出来る。これによって胴軸内部の清掃も可能となり実にありがたい。精度はともかくとして、拙者がNo.14XよりもNo.13Xの方が好きなのは、この完全分解が簡単という理由による。

2010-07-09 07こちらはピストン。表面には蝋が塗られているのだが、多少凸凹があるのでイボタ蝋を追加で塗っておこう。また胴軸との摩擦抵抗が大きいので胴軸内部にシリコングリースを塗ることにする。

2010-07-09 08こちらは清掃後のペン先。多少寄りを弱くしてある。また一応のペンポイント研磨も終わらせている。

最近ではペンポイントの研磨も二段階で行っている。粗研ぎはペン先単体で行い、首軸にセットしてから仕上げ研ぎという手順じゃ。以前は分解した状態で仕上げ研ぎまでやり、それに合せてペン芯を調整していたが、最近では多少能率を考え、手抜きしている。

2010-07-09 092010-07-09 10こちらができあがり。細字のため、スリットの開きは最小限にした。また引っ掛かりが多かったので、かなりペンポイントは丸めた。

スイートスポットは削り込みつつも、当時のMatadorらしい書き味も残すという程度の仕上げにした。Vintageを現代の風味に仕上げてもおもしろくないのでな。それにしても懐かしい書き味になった。


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間



Posted by pelikan_1931 at 11:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
yamamotoしゃん

独逸のVintageの中でもMatadorは出来が良いですね。どこもへたっていません!
Posted by pelikan_1931 at 2010年07月10日 14:02
調整どうもありがとうございます。画像ではよく見えませんが、軸とキャップに彫られたバーレイ模様と、キャップリングの細かな装飾が好ましいです。派手派手しくないけど、こじんまりした端正さがあって、作られた時代を感じます。見てると落ち着きます。こういうところがヴィンテージのよい所ではないかと。
Posted by yamamoto at 2010年07月10日 13:23
めだかしゃん

Vintageの独逸物には、必ずといってよいほど穴が空いています。キャップを抜く際に空気を逃がし、インクが飛び散らないようにするためです。
ちゃんと設計されたものでは、穴はインナーキャッップと密着する首軸先端部よりも後ろにあり、キャップを締めた時に、ペン先が乾かないようになっています。
Posted by pelikan_1931 at 2010年07月10日 07:57
キャップの左右に穴が開いているように見えますが、マタドールにはよくあるのでしょうか。
それにしても、軟らかそうなニブですね。
Posted by めだか at 2010年07月09日 21:55