2010年07月23日

金曜日の調整報告 【 プラチナ・プラチナ Pt. ALLOY インクが切れる・・・ 】

2010-07-23 01今回の依頼品はプラチナ・プラチナ。純銀軸にプラチナ合金製のペン先が付いているモデル。昔は定価1万円で、どこの文房具屋でも売っていたような品だが、当時としては値段が圧倒的に高かったせいか、けっこう売れ残っていた。

それが、ここ10年くらいの萬年筆ブームで、あっというまに店頭から消えたようじゃ。それがだんだんと中古市場へ回ってきているのが現状かもしれない。

2010-07-23 022010-07-23 03プラチナ合金製ニブの特徴は首軸の象嵌。これがあればプラチナ合金製ニブ、なければホワイトゴールド製ニブ・・・だったかな?拙者は国産は1983年以降の新品(のごく一部)しか購入していないので、よく知らない。

このペン先は非常に硬い。従ってインクフローで書き味を稼ぐしかない。この個体は、過去に拙者がペンクリで調整しているらしい。覚えてはいなが、スリット開きの癖が物語っている。

2010-07-23 042010-07-23 05症状は数文字書くとインクが切れるということ。依頼人はペン先とペン芯とが離れているからでは?と想像しているようであった。通常はこの程度の隙間でインクの流れが止まるほど雑な設計ではないので、色々試してみたが、たしかにすぐにインクが切れてしまう。

分解する部品がペンクリでは持ち合わせていなかったので、預かっての修理となった。

2010-07-23 06首軸の金属部分は左に回せば簡単に外れる。もちろんゴム板で掴み、渾身の力を加えて左にねじる必要がある。かなりあっけなく外れるので、内部を清掃する場合などは便利!

2010-07-23 07ペン先ユニットは、前から押してもなかなか後退しないので、汎用の修理道具を使った。この器具をどこで入手したのかは覚えていないのだが、萬年筆専用というわけではなさそう。

これでペン芯の管の部分を摘んで引っ張ってみたら、ペン先ユニットは簡単に後退して外すことが出来た。忘れないようにここに記録しておこう。

2010-07-23 08はずれた状態が左画像。左寄りの部分にある黒いものはOリングらしい。ただのドーナツ型ではなく、片台形の断面を持つドーナツのような形状。これは、プラチナ専用に作ったのかな?もっとも昔の出荷数なら特殊Oリングを作るなどは屁のカッパだったかもしれない。

2010-07-23 092010-07-23 10ペン先は高温のお湯に浸けてペン先を膨張させればすぐに外れた。前からペン芯に差込むという設計じゃ。

このペン芯画像を見て驚愕した。ハート穴の下あたりが、醜くナイフのようなものでえぐられている。これでは毛細管現象がほとんど働かない。当然、あっというまにインクが切れてしまう。

どうしてこのような改造が施されたのかはわからない。以前調整したときには、ペン先のスリットがギチギチにい閉じていてインクがほとんど出なかった。ひょっとして以前の利用者は極細字が好きだったので、スリットを縮め、インクもほとんど出ないようにしたかったのかもしれない。それでペン芯を掘ったのか?

あるいは、インクフローを良くしたかったが、スリットを開くことを思いつかず、空気の流入量を上げようと、ハート穴の下を掘ったのか?

いずれにせよ愚挙というしかないが、またくの素人ではなく、ペン先まで分解出来、なおかつ、萬年筆のインクが出る仕組みまである程度理解している人の仕業であろう。

なぜこういう修理を施したかの、理由がわかれば、正しい方法を見つけ出すことも出来るのに・・・残念じゃ。

ペン芯をヒートガンで温めて、上に反らし、ペン先と密着させてみたが、インクの出はかわらない。試しに純正のブルーブラック・カートリッジインクを入れてみたが、やはりペン先の先端部にあるインクを使い切ると書けなくなる。萬年筆を激しく振って先端部にインクを溜めると、またしばらくは書けるという状態。

これはメーカー送りして部品交換(あればだが・・・)しか方法はない。修理失敗・・・と思ったのだが、ふとプラチナカーボンインクなら大丈夫かも?と思いついた。

プラチナカーボンインクは粘度が異様に高いので、インクが紙に吸い込まれると、どんどんペン芯からインクを引き出していく。この引きの力に期待して、カートリッジをプラチナカーボンインクに変えてみると・・・

おお!インクが途切れない!原稿用紙4枚、続けて書いても大丈夫!かくして、この萬年筆はプラチナカーボンインク(カートリッジ)専用として蘇った。

このまま使うも良し、メーカーの部品在庫があることを願って修理に出すも良し!出来れば後者が望ましいと思うがな・・・


【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間



Posted by pelikan_1931 at 05:00│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
先日、運よくこの万年筆を格安で入手しました。
インクづまりや、ニブのがたつきなど問題がありましたが、
このHPを参考に自己解決することができました。
かっちりとした造りのいい万年筆です。

これからも引き続き勉強させていただきます。
Posted by 万年筆初心者 at 2013年09月13日 20:39
 遅ればせながらコメントします。

 辛辣に書きますがどうぞ悪しからずご了承ください。

 まず、後日のパーカー75の例にも見られますが、知識が生半可な者がニブではなくペン芯をいじりまわすという暴挙は絶対にやめるよう、今後WAGNERとしても組織的に訴えてゆくべきだと思います。

 さもなければ、今後は中古品を買うかどうしようか迷っているときに、ここまで分解して見なければ不具合が分からないこととなり、実にriskyであるばかりでなく、実際にこのような故障品に出くわしてしまったなら、経済的に損失でさえあります。手にとって見ることが可能な状況であればともかく、写真と説明文だけで判断するネット・オークションではなおさらです。出品者がここまで分解して説明文を書ける能力を有しているかも疑問です。

 さて、この個体ですが、私としましてはこのまま所有者の方がカーボン・インク専用萬年筆として使用し潰すことを提案します。このペン芯がパーツとして入手可能か否かはさておき、全く不具合のないこのペン芯はカーボン・インクを通せば直ぐに詰まってしまうでしょう。
Posted by monolith6 at 2010年07月29日 21:46
本日、依頼者本人がいらっしゃる。
今後の対策を考える必要がありそうじゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2010年07月25日 07:51
カーボンさん、サイズが全然違います。
ペン先の大きさが違うのでそれに伴ってペン芯も違う物が付けられております。
Posted by 二右衛門半 at 2010年07月24日 21:26
既にお二方がコメントされておられますが・・・

私が知る限りでは、オープンニブになる前のシープなんかが同じようなペン芯でしたね。首軸の構造も同じかと。

ベラージュやリビエールは似ていますが、形状が若干異なります。

もっとも、プラチナ・プラチナを持っていないのでサイズは検証できていません・・・。
Posted by カーボン at 2010年07月24日 20:36
あ、矢印が逆さまやった。
Posted by 二右衛門半 at 2010年07月23日 21:01
↑に同じく。
ちなみにメーカーには部品在庫はないと思うに1票。
ペン芯素材のプラスチック自体が既に劣化しかかっているそうです。
Posted by 二右衛門半 at 2010年07月23日 21:00
 このタイプのペン芯の付いたモデルなら結構ありそうな気がしますから、ジャンクで入手してニコイチで修理できそうですね。
Posted by しまみゅーら at 2010年07月23日 15:35