今回紹介するのは、プラチナのショート軸。先日の関西地区大会にて、みずうみのあくま氏からジャンク品として3本5千円で入手した中の1本。
なぜジャンク品扱いされたかと言えば、インクがペン先や首軸付近にこびりつき、金属を溶かし、ペン芯のスリットを塞ぎ・・・復活する目処が立たない状態であった。残り2本のジャンク品は、ペン先が無い、ピストンが壊れている・・・というもの。【半一族】ですら一瞥だにしなかった・・・といえば、その状態がわかろう。
しかし、このプラチナだけはどうしても復活させたかった。なんせ大好きなプラチナ製ミュージックニブが付いているのじゃ。
東京に戻ってきてからすぐに分解して洗浄して水に入れたのだが、分解してもペン芯が外れない。しかたなくアスコルビン酸を溶かした水に3日間入れてブルーブラックの成分を溶かそうとしたり、ロットリング洗浄液に4日間つけてカーボンインクの粒子を溶かそうとしたり。
それでも首軸側から水を注ぐと、真っ黒なインクが出るので、最後は熱湯に洗剤革命を溶かした液を超音波洗浄器に入れ、中に首軸を入れた。これで、水と直接接する部分の汚れは取れたはずだ。その後も少量の各種液体を首軸側から入れ、エアーダスターの圧力で強制的に洗浄する作業を繰り返した。
このように半透明のペン芯が完全に綺麗になった状態を作るのに大半の時間を費やした。11月13日早朝から始めて23日の23時に終了した洗浄作業。こんなに時間を掛ける価値があったのだろうか・・・
これがあったんですな!この首軸に付くミュージックのペン先は、拙者がまだ萬年筆を細々と購入していた頃に学会の仲間が使っていた物と同じ(軸も同じはず)。当時、拙者もPilotのミュージックニブ(5号ペン)は持っていたのだが、彼の萬年筆を書かせて貰い、あまりの書き味の差に愕然とした記憶がある。
悔しいので、素知らぬふりをしていたので、それがどういうモデルかを把握していなかったのだが、元町で出会った瞬間に【アレだ!】と気付いた。このミュージックに出会わなかったら、そこそこの萬年筆で満足し、高みに堕ちる事もなかったかもしれない・・・それほどショックを与えてくれたミュージックニブ!
もちろん分解したことはなかったので、今回初めて構造を知ることが出来た。加工の誤差を減らすために様々な工夫が成されている。製造本数が多かった時代の設計だなと改めて感心した。
こちらが清掃・調整が完成した軸。ミュー復刻版未使用を除外(金ペンではない)すれば、拙者が持つ唯一のショート軸。心配したが、それほど持ちにくくはない。
書き味は期待していたとおり。以前より書き味に関しては、かなり厳しくなっているはずだが、そうではあってもこのミュージックのペン先の書き味は秀逸。これを凌ぐ書き味は、#3776用のミュージックペン先しかあるまい。ことミュージックペン先に関しては、プラチナ製が世界一だと評価している。まだ体験していないミュージックニブとしては、噂段階でしかないが、モンブラン No.14X用にビクポーク仕様のミュージックがあるらしい。そちらも近々体験できるかもしれない。
いずれにせよ、拙者を本格的に萬年筆の魔道に誘い込んだ名品に引き合わせてくれたみずうみのあくま氏に感謝!