2012年01月11日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.234 1/2 14C-F インクボタ落ち! 】

2012-01-11 01今回の依頼品はMontblanc No.234 1/2  14C-F。テレスコープ(回転吸入)式だがブラインドキャップ付きという奇妙なモデル。実際に触るのは初めてじゃ。

依頼内容は、インクがボタ落ちするのを直すこと、そして、ペン先をスタブ調に調整することの2点。実はこのペンポイントは既にItalic / Stubに研磨されているのだが、ボタ落ちが邪魔して本来の能力を見せることなく、運び込まれてきたのだろう。

2012-01-11 022012-01-11 03ペン先とペン芯を分離してペン先だけを弄んでいて気がついたのだが、まるで薄い鋼のような弾力を持ったペン先じゃ。

尻軸には【F】と印された刻印があるが、ペン先の形状はBで、それをItalicかStubに研いである。当時のBはItalicとほとんど変わらない字を書けるが、この個体もFというよりはItalic的な筆跡が書けるはず。

2012-01-11 04インクボタ落ちの原因は2つ考えられる。一つはピストン弁が緩くてインク室に空気が後ろから流れ込んでくること。もう一つはペン先とペン芯との間の隙間にたっぷりと溜まったインクがボタっと落ちること。

今回は両方に対応した修理を施すことにする。このモデルが優れているのは、インナーキャップが深いこと。従って間違っても当時のNo.14XやNo.24Xのように天井に衝突したペンポイントがキャップを捻る力でひん曲がってしまう・・・という事故が起こらない。もっとも、【234 1/2はインクが乾きやすい・・・】等のクレームを受けてNo.14Xが開発されたのかもしれない。

2012-01-11 05こちらは調整前のペン先段差。これでは依頼者が好きな左右のはらいを書く際にストレスを感じてしまうであろう。

まずスリットを少しだけ拡げ、内側を調整した後で、エラの部分を握って多少スリットの寄りを戻してみよう。この弾力でこの程度の細さなら書き出し掠れ対策としてのスリット開きは不要と考えたからじゃ。

どうやってこのペン先を作っているのかはわからないが、板バネのようなビョ〜ンという強い弾力がある。従って調整もどりも大きそうなので、やや過ぎるくらいに曲げておいて、調整もどりした時にちょうど良い感じになるようにする。

それにしてもどうやったらこういう弾力が出るのであろう?丸善140周年の鍛造物と比較すると、剛性がまるで違う。反応が強くて速いのじゃ。拙者は弱くて遅い反応が好きだと信じていたが、これを握って気が変わった。強くて速いのもイイ!

2012-01-11 06インクがボタ落ちするということで外した吸入ユニット。No.139などと同じく、後ろ側から簡単に外れる。1950年代のNo.14Xの修理ではコルク交換は首軸を外して行うが、この時代はユニット毎外れるので非常にやりやすい。なぜ止めたのかな?おそらくは紡錘型ではこの機構を採用するとデザイン上の制約を受けるからであろう。そこを克服して作られた限定品、フィッツジェラルドはやはりすばらしい!

2012-01-11 07なぜボタ落ちしたかだが、コルクは新品に近かった。また蝋でカバーするなどの基本的な部分は完璧。なんせ拙者が学んだ先からの購入と思われるので、間違いはない。では何故?

それは胴軸内の太さにムラがあり、太いところと細いところがあること。たまたま太いところでコルクが止まっているときには、空気がインク室内に後ろから入り、インクを押し出したりしていたのであろう。

そこで一回り大きなコルクを使う事にした。蝋で覆った後、時計用のシリコングリースをコルクと胴軸内壁に塗って、強引に滑らせるように内部に押し込んだ。ピストンは多少硬くなるが、これで空気漏れは無いはず。

もしインクボタ落ちがペン芯性能に起因しているものなら温度や気圧の変化に影響されるが、内径不安定対策ならこれで十分!

2012-01-11 082012-01-11 092012-01-11 10最後にStub化であるがこれには手を焼いた。ビンビンに剛性の高いペン先が少しだけ背開きになっている。この少しだけというののを直すのに時間がかかった。

ペン先とペン芯との間の隙間は、ペン芯をヒートガンであぶってやや上に反らし、ペン先のカーブとペン芯のカーブが合うように変形した。これでボタ落ちも減るであろう。ことインク保持能力に関しては、古いペン先ほど駄目!拙者はVintage萬年筆にインクを入れて持ち歩いたりしない。

キャップを捻ってインクが飛び出す時、万一他人がいたら・・・と考えるとリスクが大きすぎる。むかし、心の広い上司のワイシャツをインクまみれにしたことがある。心の狭い拙者がそういう仕打ちを受けたら・・・と考えると、とても持ち歩く気にはならない。拙者よりも心の狭い方はうじゃうじゃいるので・・・

段差調整は、通常なら曲げ工具を使えば30秒くらいで直るのだが、その工具は既に広島大会会場に向けて送っていた。やはり工具が不足すると生産性が格段に落ちる!

調整に2時間ほどかかったのは久しぶりだが、なんとか満足のいく書き味になった。この時代のMontblancは、切れ味の鋭い書き味を持っている。ペン先のレスポンスが速いので、横書きで字幅に抑揚をつけた字を書くのには最高かもしれない。縦書きならばもっと相応しい研ぎはあるが・・・


【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整3h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整