2012年05月03日

筆記具関連四方山話 【 中園先生を惹き付けたのは・・・ 】

@01ペントレが終了すると、拙者はしばらくは虚脱感と喪失感に苛まれる。これは毎年のこと。ペントレ初日には、めずらしい限定品やお値打ち品が先にお嫁に行くのはどのブースも同じだが、拙者のブースの2日目は多少様相を異にしている。

拙者が愛用し、萬年筆研究会【WAGNER】の定例会で皆さんに試筆してもらっては調整狂いを微調整し、ほぼ完璧になったものが、ほぼ全てお嫁に行ってしまう。それらには安い値段はついていない。

オークションでなら新品をもっと安く買うことが出来るような値段がついている。箱はないし、よく見ればスレくらいは当たり前についている。要するに【売りたくないよ】という価格設定で、書き味自慢をしているものなのだが、これが2日目に限り嫁入り日和となる。

さんざん試し書きしたあとで、勇気を振り絞って決断されるようなのだが、こちらは【へっ?買うの?】てな反応となる。お嫁に出して嬉しい気持ちを上回る喪失感があるのじゃ。

しかたなく他の萬年筆を引っぱりだして慣らしを始めるわけだが・・・今回の第一号はPelikan Golf。ご存じPelikanの限定品の中で最も人気が低いモデル。今回も新品未使用18C-M(PF)を30,000でペントレに出していたが、約1名を除いて誰も手に取ろうともしなかった。Golf=ダメ限定品という烙印を押されているらしい(もっとも拙者とらすとるむさんが押した烙印かもしれないが)

ただ一人の例外が【世界の萬年筆】の著者である【中園宏】先生。既に萬年筆から和時計を経由して、現在では大相撲グッズのコレクターとして有名で、有名な行司の衣装などもお持ち。

物を見る眼力はお持ちだが、最近の萬年筆事情には疎い(はずの)中園先生が拙者のブースにいらして50本ほどの萬年筆を一本ずつ時間をかけて検分された。そして【これは良く出来た萬年筆ですね。インク付けて書いてみて良いですか?】とおっしゃたのがPelikan Golf 18C-M(PF)だった。通常、未使用の展示品は試し書きNGというのが萬年筆研究会【WAGNER】の暗黙のルールだが、今回は中園先生が選ばれた萬年筆に意外性があって、【良いですよぅ〜】と答えた。

先生は丁寧に試筆され、【いいバランスの萬年筆ですねぇ、書き味は酷いけど・・・】とおっしゃった。これにはショックを受けた。調整済みだったのだ・・・

@02@03未使用品でも調整を施してあるが、それはペーパーで仕上げただけで、試し書きはしていない。形を整えたり、段差調整をし、少し表面を舐めて引っ掛かりを取っているだけで、スイートスポットなどは作り込んでいない。その状態で(何万本もの萬年筆を書き試されたことのある)中園先生に試筆されれば・・・酷い評価も当然!

そこで今後、ミニ・ペントレに出す萬年筆はほぼ全て調整後の自信作だけにしてみようかと考えた。手始めに中園先生絶賛のPelikan Golfを、(どーむ商店の看板商品のように)、毎回展示し、いろんな人と【こんなもん誰が買うの?】【い〜んです。看板商品が売れたら看板なくなってしまうでしょ!】というどーむ説法を楽しもうと思う。

そして毎回何人かにインクを入れた状態で数分間試筆してもらう。そうすると毎回調整が狂う。それを自宅で微調整を繰り返す。この10人から20人の方とやりとりすると、書き味は徐々に上昇していく。自分の手にだけ最高の書き味だった萬年筆が、万人に感動を与える書き味に変化していく。その最高潮の瞬間に試筆した人だけが至高の書き味を手に入れられるという図式じゃ。

@04さっそく(たしかにひどい書き味の)Golfを自分の手に合わせて研磨し、インクを入れて書いてみる。なぜGolfが人気薄かといえば、ゴルフクラブとボールの飾り物が筆記のじゃまになるから・・・と言われていた。ではこの突起が利用できないか?と右手人差し指がドライバーとパターの両方に右から添えるように持ってみると・・・絶妙に良いバランス!筆記角度は通常より下がるし、やや右捻り気味となる。(戦場カメラマン氏と同じくらいの筆記角度)

こう持つと力が抜け、筆圧ゼロでの筆記が可能となった。これを何人かに書き癖を付けてもらい、その度に微調整を繰り返すことによって、数ヶ月後にはすばらしい書き味となり、拙者をさんざん楽しませてくれたあとで、4万円くらいでお嫁に行く・・・のだろうなぁ。

1万円の付加価値を10〜20人の人につけてもらう・・・ということになろうか。購入時の価格は450ドル程度(当時の相場は90円/ドル)なので、未使用箱付が中古になっても値段が変わらない、ドル相場で考えれば、むしろ値上がりしている!ということになる。

実は同じような状態で慣らし運転中の物が何本かある。

@05こちらはWAGNER 創立五周年記念モデル。ベースはシルバーン・トクで、書家で萬年筆研究会【WAGNER】会員の黒墨(くらすみ)先生に書いて頂いた文字を浮き上がらせてある。ペン先はWAGNER 2007と同じ材質のものに変更。これをさんざん調整してやっと完璧な書き味になったものが、前回の関西地区大会でお嫁に行った。

そこで一本新品を引っぱり出してきて調整し、実用に供している。まだまだ完璧な書き味ではなく、尖った書き味じゃ。これを何人かに使ってもらうことによって、いつかはお嫁に行ったブツよりも悦に入る書き味に変化するだろうと期待している。おそらくはあと三ヶ月ほどかかりそう。

@06そして今回、一番ショックだのが島桑!生涯最高の書き味!と悦に入っていたのだが、値札を付けたのが間違いで、既にドルチェビータ未使用品を購入されていた方が、【あれ返品するからコレを!】と奪うようにして持ち去ってしまった。この虚脱感は大きく、結局はとなりのブースで島桑を売っていたひとにメールし、新しい一本を入手してしまった。そして第一次の調整を終え、20人にいじって貰う場に日曜日デビューの予定。もちろん、今回は値札は絶対に付けない!

おそらくは今まで手にした1万本近くの萬年筆の中で、最高に手に馴染む萬年筆5本のうちの1本!他の4本は、Sheaffer、Pilot、Montblanc、Pelikan各一本。全て1983年以降のモデルで全て限定生産品。(限定品とは限らないが定番品ではない)

@07こちらは前回の高松大会で、ガマと大型トレードの末に入手したPilot 742。実は拙者は企業ロゴが彫ってある萬年筆が好き。なおかつ未調整だったので、それ以降も一切研いでいない唯一の萬年筆。使いながら書き味が良くなるというのを実験中。はや2年になるが書き味は一切変化が無い。立てて書くと絶妙な書き味で調整不要。寝かせて書くと腹が少しだけ引っ掛かる。おそらくはPilotの設計基準よりも低い筆記角度で拙者が書くからであろう。これが使い続けることによってこなれるのか無理なのかを試したい。

なを初めて未調整の萬年筆を長期間使ってわかったのだが、普通の持ち方で書くのであれば、Pilot 742 14K-Mに調整を施す必要はまったく無いということ。相当筆記角度や捻りに対する許容度があるのに驚いた。筆記角度70度から80度くらいで筆記すれば、名人調整よりも萬年筆らしい書き味に研がれている。滑らずひっかからず、独特の紙への食いつき具合も抜群。ヌラヌラの研ぎに慣れてしまうと、忘れてしまいがちな萬年筆本来の書き味。これを思い出させてくれるこのPilot 742だけはミニ・ペントレに並ぶ事は今後ともあり得ないはずじゃ。調整のベンチーマーク用として一生使い続けるであろう。

@08そして熟成中のParker 75。これは先日紹介した。ペン先がプリミアの18K-Bに換装してある。2週間経過して、やっと首軸内部のインク保留機構とペン先がインクの味を覚えたらしく、インク流量が減ったにもかかわらず書き出しスキップが消えた。

拙者は金ペン堂さんの名言、【ペン芯はインクの味を覚えるから、一度インクを決めたら絶対に変えるな!】というのは、実はParker 75を前提とした話だろうと勝手に想像している。

インクの種類を変える際の首軸内部の完全清掃にかかる時間は、Parker 61の比ではない。特にブルーブラックを入れていた古いparker 75の清掃には気が狂うほどの工数と時間がかかる。洗ってもティッシュを突っ込んでふいても・・・いつまでたってもインクが出てくる。最近ではアスコルビン酸を濃く溶かした熱湯を試験管に入れ、それに首軸を尻側から沈める。そうすると完全清掃したはずの首軸から青い液体が一筋上に立ち上っていく。それが途切れたところで試験管を指で塞ぎ激しく上下に撹拌する。この作業1回にかかる時間が1時間ほど。これを10〜20回繰り返せば、首軸内部は完全に綺麗になる。なを10回のうち1回はロットリング洗浄液で、1回は超電解水をアスコルビン酸水溶液の代わりに使っている。

@09そしてこちらは、これから調教に入る予定のOmas Italia'90。拙者の独断としては、ミドラーの最高峰は右向きダンテ?ではなく、絶対にItalia '90の緑軸。この14金ペン先の柔らかさは尋常ではない。趣味文Vol.22のP.118も参考に!

Posted by pelikan_1931 at 10:00│Comments(7) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆紹介 
この記事へのコメント
ありゃー、そうでしたか!?
Fなら自家用でしたか? むむむ、、、。
師匠のOmas好き、趣味の文具箱でも拝読いたしました。
Italia`90の低筆圧好みの書きごご地は、ちょっとほかにはありませんね。
でも、師匠ご指摘のとおり、時折ダダをこねます。まるで、かつてのイタリア車のようです。(笑)
Posted by watarow at 2012年05月14日 12:34
watarowさん

14K-Mです。Fであれば自分で使います(笑
Posted by pelikan_1931 at 2012年05月12日 04:00
みーにゃさん

他の人・・・というのがwatarowさんでは?
Posted by pelikan_1931 at 2012年05月12日 03:59
師匠、このOmas Italia`90は、Mですか? Fですか?
お目にかかれるときには、もはやお手元にはないでしょうね!?
Posted by watarow at 2012年05月10日 17:28
Omas Italia'90!数年前、師匠に試筆させてもらって柔らかな書き心地に驚愕した万年筆!また触ってみたいなぁ☆(その時は購入を迷ってひとめぐりしているうちに他の方の手に渡ってしまいました)
Posted by みーにゃ at 2012年05月10日 01:22
ガマさん

あれは国産萬年筆の奥深さを教えてくれる逸品です。
Posted by pelikan_1931 at 2012年05月07日 08:34
ま、まさかあの742をまだ持っておられて、しかも萬年筆愛好家なら誰もが知りたい内容の実験がまだ継続中だとは……。嬉しいと同時にビックリしました。

企業ロゴ等が入っている萬年筆はガマも好きです。もっとも、どこの何の会社が何を目的に作ったかを探求する意味で……。主にネットを通じて調べるだけなので、探れる限界というものはありますが、このひと時が一種の謎解きみたいに思えて楽しいのです。
Posted by ガマ at 2012年05月05日 00:50