2012年04月27日

金曜日の調整報告 【 CROSS アポジー ブラックラッカー 18K-F 落として曲がって生贄に! 】

01最近クロス製の萬年筆を使う事がなくなった。修理以外で最後に使ったのはいつだったか覚えていない。タウンゼントだったはずなのだが・・・

以前はクロスの萬年筆はPelikanがOEMで作っていると言われていた。少なくともインクは容器も成分もまったく同じで、Fountainpen Inks a Samplerのグレッグ氏も【まったく同じものだからテスト結果は省略・・・】とか書いてあった記憶がある。

ところが今回アポジーを見て、流石にPelikanが作っているという感じはまったくしない。コンバーター込み、インク無しで全重量42.7g、胴体24.7g+キャップ18g・・・かなり重い!拙者が使っているM800がインク込みで30g弱。

02030405この金属の塊のような萬年筆を落としたらペン先は曲がるのは確実。しかもクロスのペン先は18Kで柔い。過去に何度も出てきている表現だが、柔いのと柔らかいのとはニュアンスが違う。

柔いというのは、素材自他に粘りが無く、力を加えると加え終わったときの形状で固定されること。すなわち粘土を指で押すような感覚で曲がってしまう。

これは実は製造上は非常に都合が良い。あまり戻りを計算しなくてもいったん曲げれば形状は固定する。ところが落としたり、強筆圧をかけたりするとすぐに形状がかわり、引っ掛かりが出てくる。そのために柔い素材では大型ニブは作れず、アポジーのような小型ニブにしているケースが多い。一時期Omasが柔い大型ニブを使っていた事があったが、またたくまに姿を消した。

それにしても見事に曲がったものじゃ。しかも先端部をよく見ると研磨したような痕がある。曲がったままで何とか書けるようにしたいといじったのか、元々なのかはわからないが・・・

06 左がペン芯。なんの捻りも無いペン芯じゃな。もちろん自社生産ではなくペン先メーカーに依頼して汎用品で合う物を選んだのであろう。なんとなく100個で10円の材料費・・・みたいなペン芯だなぁ。こういうのを見てから国産のペン芯を見ると心が洗われるような気がする。ペン芯から【意志】が読み取れるのじゃ。

0708ひん曲がったペン先を元に戻す場合は、ヤットコで伸ばした後、金の表面を削って段差解消をする。ところがこのアポジーのように銀色の鍍金が施されているペン先は表面研磨が出来ない(鍍金が剥がれて金色ペン先になる) 。

そこで画像のようなヤットコを東急ハンズで購入し、掴む部分を5000番の耐水ペーパーで時間をかけて研磨した。従って掴む部分は鏡面に近い状態!これでつかみ傷の確率は小さくなる。

0910今回は盛り上がった所をヤットコの腹でそーっと押さえただけで曲がりは直った。これもペン先が柔いおかげなのだが微調整には難儀する。

真っ直ぐに伸ばしてから調整が終わるまでに2時間を要した。その間、ずっと研磨と試し書き。どうやらこのペン芯は1度抜くと緩くなり、再度押し込んでもペン先がグラグラするように思う。そこでペン先の根元にアロンアルファを塗って太らせ、それにペン芯を添えて首軸に突っ込んだところ、以前よりはマシになった。 


1112こちらが横顔。以前の無様な状態からウソのように回復した!ただやはり少しはペン先のお辞儀は残っているので、書き味改善用の研磨は必要なのだが、これに嵌まった・・・(涙

しばらくペントレの準備で調整をサボっていたら感覚がなかなか戻らない。しかも朝なので猫がぎゃぎゃー鳴いているし、雨音も高い。実は調整の最終確認に最も重要なのは目でも指先の感覚でもなく、耳!すなわち音で引っ掛かりを確認している。そういう意味では最悪の状況で確認しようとしていたわけじゃ。

40年前、大学の実験室で聴力検査や視力検査を実験授業の一環としてやったことがあるが、その時に拙者の聴力は犬並み・・・との評価を得た。今でも耳栓をしないと雑音がうるさくて寝られないが、耳栓をすれば数分で熟睡できる。その耳にたよった調整をしているので、耳が遠くなったらアウト。大事にしなければ・・・


【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1h 修理調整3記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 
Posted by pelikan_1931 at 08:30│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
なるほど、アクセサリー用品も何か使えそうですな。
Posted by pelikan_1931 at 2012年04月27日 21:42
画像の平ヤットコ、アクセサリー用でしょうか。
アクセサリー用工具って掴み部のギザギザがなくて先端も細いから万年筆の修理に良さそうですね。
女性向けに作ってあるのが多いから、師匠の「黄金の左」には小さすぎるかも??

でも、ハンズで買っちゃうんなんて、つまんない。
どうせなら、WAGNERご一行様で浅草橋のビーズ屋に行って、女性専用車両に
間違えて乗り込んだオッサン状態で周囲から浮きまくってる姿を見たかったなぁ。
両国から一駅だから、言ってくれればペントレの時に案内できたのにー!!

Posted by ハ音記号 at 2012年04月27日 13:45