2012年08月31日

金曜日の調整報告 【 Pelikan 1931のペン先を Pelikan 100のペン先と交換 】

1今回の依頼品はPelikan 1931。そう拙者のハンドルネームの由来となった万年筆じゃ・・・というのはウソ。拙者のハンドルネームは勘違いから決まった。
資料を調べないで決めたので、Pelikanが初めて萬年筆を作った年を1931年と間違えてつけた。
その後、1929年だったと判明したが、いまさら変えるわけにもいかない・・・という時に、そうだPelikan 1931があるではないか、それを由来ということにしよう!となったというのが真相!

ということで、それほど Pelikan 1931には思い入れがない。初めて購入した時は定価16万円の4割引で9.6万円だった。その後も1本入手しているが、それは初期のペントレで物々交換によって入手。
当時はまだ、このPelikan 1931の魅力に気付いていなかった。

ベースは1930年代のPelikan 100の派生モデルであり、大きさも機構もかなり忠実に再現されている。尻軸はエボナイトで出来ているので紫外線で変色し、それがまた良い風合いを出している。

2Pelikan 1931の特徴として、キャップを締めた状態では非常にコンパクトだが、キャップを後ろに挿すと長くなる。
これは尻軸の一部にしかキャップがささらないからで、後のハッパフミフミ万年筆などと同じ設計思想。
このPelikan 1931が唯一失敗したのが、首軸先端部の径が広すぎること。この径が、キャップの内径とほとんど変わらない個体が多かった。
従ってキャップを締め、キャップを緩めてから強く引っぱると、インクが水鉄砲の原理で吸い出されて、キャップ内がインクでびちょびちょになった。
これを直すには、首軸先端部を耐水ペーパーで擦って空気の通りを良くすること。ただ、こうするとせっかくの美しい造型が台無しになるので、拙者はインクを入れないで保存している。
この個体にも処置が施されているが、これは拙者がやったものじゃ。これを知らないひとの多くは、使う度に漏れるインクに四苦八苦していることだろう。
もちろん、大丈夫な個体もあるとは聞いたが、拙者が見たのは全て不具合があった。
もっとも拙者のところへ持ち込まれるのは、ほとんどが不具合が有るもの。医師が【うちに来る患者は全て病気持ちだから、日本人は全て病気持ちだ】というのと同じ判断はするつもりはない・・・

3こちらは吸入機構。これは胴軸に逆ネジでねじ込まれている。従って左にまわせば外すことが出来る。ただし、ヒートガンで金属部分を暖めてからでないと外れないケースも多いので要注意。また一番上の画像にツーショットで乗っているPelikan 101N復刻は、この部分が弱い樹脂製なので、回すと内部でペキっと折れる確率が高いのでやらないようにな。

41930年代のPelikan 100と同じように、Pelikan 1931も左のように完全分解できる。
この後の緑軸、青軸はセルロイドの痩せで軸がボコボコになるという不具合が出たが、この18金無垢モデルと、ロールドゴールドのモデルは軸トラブルは皆無!

やはり長期間楽しむには金属軸が最適かもしれないな。もっとも落とすとすぐに凹むので、無傷の軸でないと我慢ならない拙者のような人間には、金属軸は眺めるだけの存在でしかないが。

5今回の依頼は書家の方からいただいた。筆と同じように立てて書くので、オリジナルのニブでは硬くて話にならない。そこでPelikan 100に付いていたニブと交換してほしいというもの。
上が修理清掃前の状態。全体的に小さな傷だらけだし、ハート穴から先がうねっていて、先端部だけが辻褄があっている状態。

まずは、ペン先の左右のカーブを揃える必要がある。ここで活躍するのがボーグルーペとANEXの135ミリの通常ヤットコ。コレは先端部が小さくて非常に作業しやすい。
もちろん捻くりまわすので、掴んだところには小さな傷が付く。それに関しては、後で耐水ペーパーと金磨き布で擦れば綺麗に落ちる。
その状態が下側画像。良く見ると先端部のカーブもやや鋭角になっているのがわかるかな?より柔らかさを強調するために、ニブを少し薄くすると同時に、先端部を鋭角に加工した。

6まずは、この状態で本体にペン先をネジ込み、ここから書き味調整をしていく。それにしても美しい姿じゃ。何故Pelikanが金無垢モデルをシリーズ第一弾に持ってきたかが良くわかる。
これでペン先が柔らかかったらいうことはなかったのだが、単に18金になっただけで、この世の物とは思えないほど硬いペン先だったのが、このシリーズがすぐに終わってしまった理由?
その反省を生かしてか、Pelikan 101N復刻版には通常より柔らかいペン先が付いている。

78こちらが調整後のペン先。筆を持つ時のように万年筆の尻軸近くを持ち、90度の筆記角度で筆圧ゼロから筆圧最大まで一気にぐゎっと線を引くかれる。
書き出し掠れも、筆記途中のインク切れも許されない。従ってVintage用のペン芯では役に立たず、M400と共通のオリジナルペン芯にPelikan 100のペン先を乗せるしかない。
また筆に近い線を出すため、お辞儀は弱め、スリットの寄りは弱め、ペンポイントの表面は少し荒らして書き出し掠れが無いようにしつつ、ペン鳴りも押さえるという微妙な調整。
とても定例会会場でチャチャっと出来るような調整ではない。

910実は、当初はペン先とペン芯との間に大きな隙間が出来ていた。それをペン芯を反らすことなく、ペン先とペン芯を結婚させるにはペン先のカーブをペン芯に合わせる事が必要になる。
ペン芯を反らせてペン芯先端部とペン先とだけが密着するような調整では、筆記途中に筆圧をかけるとインクが切れてしまうことが判明し、調整を全面的にやりなおした。

ペン先調整とは、ペンポイントを研磨したり、スリットを拡げたり狭めたりすることだけではない。
ペン先のカーブをペン芯に合わせて曲げることや、逆にペン先のカーブに合わせてペン芯の一部を研磨することも含まれるのじゃ。


【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 10:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整 
この記事へのコメント
眞やさん

古山画伯の戦略【修理調整方法をネットで公開すれば、壊す人が続出し、結果として萬年筆が数多く売れる・・・】を忠実に実施しているだけですよ。
Posted by pelikan_1931 at 2012年09月02日 05:31
nomiya1010 さん
首軸付近を持って、筆のように書くなら・・・VintageのWatermanなどは海外では人気がありますよ。
Posted by pelikan_1931 at 2012年09月02日 05:29
5
ありがとうございます。
金沢大会では前の調整を修正して頂き感謝です。
ハンドルネームの由緒正しい云われも理解いたしました。

万年筆はその時代の象徴で、現代ならばPCそのものかも知れません。
多くの人が関わった技術が時代と共に使われなくなっていくのは悲しいです。
技術の継承にご尽力される師匠には感服致します。
Posted by 眞や at 2012年08月31日 12:45
ハンドルネームの由来を読んで私の読みがハズレていたことがわかりました。
ペリカン社が1929年に製造を始めた最初期モデルにはモデル名(番号)がなく、後追いで1931年に命名されたので1931はPELIKAN 100の命名年だと思っていました。
Posted by Mont Peli at 2012年08月31日 11:34
5
今回の記事、大変興味深く、読ませていただきました。
万年筆を使いはじめて一年あまり、自分にあった万年筆を見つけたいと思って色々さがしていました。
最近、思っていたのは、筆のように立てて書くのが愉しい。
このような書き方に合う、万年筆をみつけ、調整して使ってみたいと思いました。(^-^)
私の場合は、首軸近くをもちますが、、、。
Posted by nomiya1010 at 2012年08月31日 10:50