2012年09月07日

金曜日の調整報告 【 1950年代 Montblanc No.144 ペン先交換 】

12今回の生贄は2本のMontblanc No.144。もちろんテレスコープ吸入式の1950年代もの。1950年代のNo.14Xの中では拙者がもっとも好きなブツじゃ。
No.149やNo.146など胴体の径が太い物、そして胴体の径に対する胴軸の厚さが相対的に低い物は、物理的な変形が大きく、残念な状態の物が多い。
はっきりいえば、修理しようとして不用意に首軸を捻るとポロっと生首状態になりがち。

それと比較すればNo.144やNo.142は極めて丈夫で、生首は経験したことがない。今回の依頼は、吸入機構が生きている個体に、別の壊れた個体からペン先を移植するというもの。

左上画像でいえば、上側の長いインク窓のモデルについているペン先を短いインク窓のモデルに移植・・・ということ。
長いインク窓のモデルに短いインク窓のモデルから内部機構を移植し、さらに短いインク窓のモデルについているクーゲル・ニブを長いインク窓のモデルに移植した方が(物語としては)面白いと思うのだが・・・

35上が長いインク窓の拡大図で、下が普通のインク窓。長い方が緑色で美しく、模様もくっきりとしているのだが、内部機構がさび付いて容易には動かない状態になっている。
直るような気もするので、今回のペン先交換が終了したらトライしてみよう。
ペン先とペン芯は、長いインク窓のモデルは直接首軸に突っ込むタイプで、短いインク窓のモデルではソケットを首軸にねじ込むタイプ。
すなわち長いインク窓のモデルの方が古い設計ということになろう。

46長いインク窓についているペン先は上でItalicに近いBニブ、そして下側はクーゲルのOBであろう。見事に鶏のトサカのように盛り上がっている。
クーゲルの書き味が通常のニブと違うのは理解しているのだが、なぜクーゲル・オブリークのペン先が必要だったのかは今もって理解出来ない。
左手首を巻き込んで書く人がクーゲルの書き味を望んだとしか思えないのだが・・・
今までに使ったクーゲル・ニブでええなぁ・・・と思えたのは自分で調整したKMだけ。あとはもっさりとした感触がいまいち好きになれなかった。
厳しい競争に揉まれたの切れのある東京の蕎麦と、田舎のおばあさんが競争に揉まれることなく自宅用に何十年も同じ製法で作り続けている蕎麦を比べるような感覚。
もちろん後者がクーゲル。ほのぼのとした書き味ではあるがキレが無い。そのあたりが、依頼人がペン先交換したい一番の理由かもしれない。

7こちらは長いインク窓のモデルからはずしたペン先をピカピカに磨いたもの。プラチナ鍍金はほとんど剥がれていたので、思い切って金一色に近い状態に磨いて斑をとった。
この方が豪華に見えて瀬者の好み。そもそも胴体に銀色が無い萬年筆のペン先をバイカラーにするのは大嫌い。'50のNo.149はキャップリングに銀色部分があるから許せるが。

89こちらが移植したペン先を調整したもの。スリットは一旦開いてからペン芯に乗せたまま少し絞った。
1950年代のNo.144はドバドバのインクフローよりは、筆圧に応じてインク流量が変わるように調整した方が面白いことに最近気付いた。

10仕上げ調整にはかなり悩んだ。ツルツルに調整したら現行品の書き味に勝てない。といってザラザラだと戦前のNo.134の方が書き味としては面白い。さてどうするか?
ということで、ザラザラ調整した一部だけをツルツルに研磨してみた。うん、これはいい!王子と乞食が同居しているような書き味になった!この調整にはコツがある。実は少しだけ背開きにする・・・
普通は絶対にしない背開き調整が、この【王子と乞食調整】の場合だけには、実に良い味を出してくれるのじゃ!


【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備2h 修理調整0.5記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 
Posted by pelikan_1931 at 09:30│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆調整