2012年08月23日

筆記具関連四方山話 【 もうダメだと思っていたPelikanの古い奴 】

1本日紹介する萬年筆に付いていたペン芯。ずいぶんと不思議な形状をしている。ペン先からインクの通り道を辿って行くと、途中でそれが途切れているように見える。
ペン芯中央右の大きな穴は空気の通り道。これはペン芯の裏から続いている。では、インクの通り道はどうなっているの?
実は、インクの通り道は、途中までペン芯の裏側にある。そこに2本の溝が切られ、右からインクがやってきて、ペン芯が急に太くなるところで、垂直に登る通り道がある。
そこを通って登ったインクが、画像に見える2本のインク溝を通ってペン先まで運ばれるのじゃ。

2そのペン芯とペン先が納められているのが、この胴軸。どうやってもコレ以上は分解できない。というか、ここまで分解できたのもラッキーだった。
尻軸は捻っても外れなかったのだが、ボーグルーペで良く見ると、捻れば尻軸機構が外れそうな気がした。
そこでM800と同じく逆ねじだろう・・・と想定して右にグッと捻ったら外すことが出来た。尻軸機構が逆ネジというのは、Pelikan 100の時代から変わっていない。

実はこのモデルは、Pelikan M60の初期モデル。少し後には同じくPelikan M60でペン先の形状が違うモデルも発表されている。
最初のモデルは15,000円、二番目のモデルは24,000円だが、ペン先が14金から18金に変わっている。また後者はカートリッジ・コンバーター式。

3左が初期モデルのペン先。ペン先の太さを示す【B】がうっすらと刻まれているが、ペン先を外さないと読むことは出来ない。
重要なメーカー刻印すら首軸に隠れた部分に刻印するというのは、当時大流行したParker 51に悪影響をうけたのかもしれない。
当時は伝統的な萬年筆の美しい形が、みなParker 51を真似た流線型になり、萬年筆としては一番おもしろくない時代。
Pelikanも多角化の影響で瀕死の状態だったのではないかな?生き残りをかけて開発したPelikan M シリーズだが、成功には至らなかった模様。
Pelikan M60の後期型のペン先は、ST.Dupon'tの同時代のモデルと同じ。早い話がPelikanがOEMで作っていたことになる。この後期のペン先はなかなか良いのだが・・・

45この前期のペン先はどうも味気ない書き味。そこでスリットを開くことにした。まずは0.2ミリの隙間ゲージをスリットにねじりこんでまっすぐにハート穴まで下ろす。
その後、スリットの両側に盛り上がった金をボーグルーペで確認しながら1200番程度の耐水ペーパーで削り取っていく。
最後に表面を金磨き布でゴシゴシと磨いて耐水ペーパーの傷を消滅させるのじゃ。その状態が右側の拡大図。
良い按配にスリットが開いている。以前の状態だと、スリットの寄りが強くて書き出しでかなり筆圧をかけないとインクが出て来なかったのじゃ。
どっかで見たことのある形状だなぁ・・・と思ったら、Pilotのエラボーのペン先に少しだけ似ている。エラボーには明確な目的が感じられるが、M60ではどうにも必然性が見つけられない。

6こちらが分解した尻軸ユニット。なんと尻軸の金キャップ内部の接着剤が剥がれて尻軸が抜けてしまっている。
これはピストンがあまりにきつかったので、力いっぱい捻ったら接着剤を剥がしてしまった!ということなのであろう。
ここから各部品をグリースアップし、ピストン弁の表面はサンドペーパーで荒れを取り、再アセンブルしてから胴軸にねじ込んだ。

7こうやって眺めているだけなら、非常に美しいデザインだと思う。ST.Dupon'tが、我が社の萬年筆も作ってよ!と言ってきてもおかしくはないほど垢抜けている。
しかし萬年筆は最後は筆記バランスとインクフローを含めた書き味の好みで決まる。残念ながらこのM60のペン先にはそれをコントロールするパラメーターが少ない。

8910出来るのはスリットを拡げてインクフローを改善することと、スイートスポットを作り込んでヌラヌラ感を出すことだけ。
しかも特定の個人をターゲットにしていない場合は、万人向きの調整で我慢するしか無い。でもやるとやらないのとでは大違い! 
インクをつけて書いてみると、思ったよりも柔らかい書き味。いや、柔らかいというよりも、柔い感じ。 好みの書き味ではないが、カワイイから許そう!

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(1) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 萬年筆紹介 
この記事へのコメント
この時代のペリカン、実用として一本、使っています。
Posted by 二右衛門半 at 2012年08月23日 07:02