2012年10月08日

月曜日の調整報告 【 Faber-Castell 250周年記念 エレメント 18C-B ややコテ研ぎ・・・ 】

1今回の生贄はFaber-Castell 250周年記念のエレメント。同じものを拙者も以前は持っており、2011年11月3日のBlogでも紹介した。
価格は忘れていたが、スネークウッドと同じ税抜きで15万円と非常に高価!おそらくはそれほど売れなかったと思われる。
限定品と歌うなら現行品との大きな差別化が必要だが、同じシリーズの現行品とさほど差別化が無いにもかかわらず価格が1.5倍以上?というのでは愛好家の理解は得られない。
限定数量は世界で2500本だったが、売れたのかなぁ?今になって世界限定250本のペンシルを購入しておかなかったのを後悔している。もし0.7ミリ芯だったら、大好きなFaber-Castell  0,7m 2B芯の搭載先としては最強だったのに・・・とたった今気づいてしまった。

23昨年の記事では【ペンポイントが大玉のままではなくちゃんと成型されている。これは大きなプラスポイント】と書いたのだが、どうやらこれはペンポイントを機械研ぎしたせいであろう。前回紹介したものとのペンポイントの研ぎの類似性から、これはParker Duofoldと同じく機械研ぎと判断した。Pelikan M800用のペン先と大きさは一緒だが、仕上げはこちらの方が上じゃ。
また250周年記念モデルのペン先の裏側には、こちらの画像のように、ロジウム鍍金とともに、細かい傷が無数につけられている。これは傷をつけてから鍍金したものであろう。
インクの保持力をあげるための細工。10年以上前、長原先生のペンクリで、その効果をうかがった事がある。

45うひゃー!こちらもコテコテ研がれているなぁ〜。でも10月5日の記事で紹介したPelikan M320のペンポイントの研ぎよりはマシだと思ったのだが・・・

6このペンポイントをマイクロスコープで拡大しかものをみると、単なるコテ研ぎではなく、苦労してスリスリしているうちに、多面体の研ぎになっていることがわかる。
これはサンドペーパーを机の上に置いて、その上で角度をつけながら引っかかる部分を少しずつ研いでいった結果じゃ。
これを見てもわかるとおり、サンドペーパーを机の上に置いて問いでも状態は悪くなりこそすれ、絶対によくはならないのじゃ。
やはりサンドペーパーを手に持って作業すべきであろう。どのようにするのかは萬年筆研究会【WAGNER】に参加し、調整師に聞けばすぐに教えてくれよう。
美しい形状に研がれたペン先のすべてが書き味が良いとは(まったく)言えないが、書き味のよいペンポイントはすべからく形状も美しいのは事実。まずは美しく研ぐ技は身につけておく必要がある。


7こちらがペン先をペン芯と分離した状態のもの。いつ眺めてもスキャナーの上に直接置いてScanしたペン先画像は美しい!
ペン先とペン芯をゴム板ではさんで引っ張れば抜けるのだが、その際にペン芯のフィンを折らないように気をつけること!
左画像ははずしたペン先を掃除し、先端部のスリットを少しだけ拡げた状態。スリットの拡げだけならペン先とペン芯を首軸につっこんだままでも出来る。
しかし、より精密な調整を目指すのなら外した状態での段差解消やスリット調整をする方がはるかに効率的じゃ。

8こちらはペン芯。セーラーのペン芯のように左右非対称に設計したり、パイロトのように二重ペン芯にしているわけでもない。
にもかかわらず、インクフローなどには特に問題はない。このペン芯は大手ペン先製造メーカー製とよく似ている。
おそらくはOEMでそちらから供給しているはずじゃ。シンプルで無駄もないが華もないペン芯だなぁ・・・

10多面体にメチャクチャに研がれたペンポイントを直す方策を考えてみたのだが・・・やはりStubに研ぐしかなかろう。
まずは先端部を落として無駄な突起を無くし、書き出しでのピントのズレを解消する。
ようく見るとペンポイントにも金鍍金が施されているのがわかる。セーラーもそうだが金のペン先にさらに純度の高い金を鍍金するのは野暮以外の何者でもない。
出荷時だけ見栄えが良ければあとはどうなってもいいや!という消費者軽視の臭いがする。
セーラーではキャップリングやクリップにもペン先と同じ金鍍金を施したモデルもあるが、擦ればすぐにとれてしまう。萬年筆愛好家があの24金鍍金を賞賛するのを聞いたことがない。
逆に24金鍍金を残念がる意見は日常会話として出てきている・・・

9こちらがコテ状態を解消したあとのペンポイント。思ったより綺麗に仕上がった。一番大変だったのは、中央の切り割りの内側に大きく切れ込んだ部分。いわゆる馬尻調整!
まずはこれを平面に直してから再度形状を整え、それが終わってから少しだけエッジを落とすのじゃ。

誤解している人も多いが、ペン先の書き味を直す最善の方法は、形状を整え、スリットを調整し、最後にエッジを落とすこと。
絶対にエッジを落とすことから始めてはいけない。いわんや机の上にサンドペーパーを置き、その上でスリスリとやるのは自殺行為。それでも出来るのだが、相当な訓練が必要。
拙者でもやらない事を、数ヶ月に一回しか調整しない人がやって完璧に成功するわけがない・・・でしょ!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整1記事執筆2h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
「創造の域」(誤)---「想像の域」(正)です。
Posted by Mont Peli at 2012年10月23日 08:34
FPNの「有名作家はどんなペン(万年筆)を使っていたのだろう」というスレッドの中で、投稿者がヘミングウエイが使っていたのではないかとして列挙しているのが「モンテグラッパ」、「エスターブルック」、「パーカー51」です。
執筆以外の用途で万年筆を使うことはあったと思いますが、原稿の執筆に常用していたのは鉛筆のようです。

第一次世界大戦の時に赤十字の輸送部隊に志願兵として参加し、野戦病院の運転手をしてモンテグラッパ市内に短期間滞在していたようですが、そこの工場製の万年筆を使っていたかどうかは創造の域を出ないようです。
第一次世界大戦?野戦病院の運転手?---え?アメリカ人が?と思われるかもしれませんが、マッカーサーも義勇軍を率いてヨーロッパの戦場で戦っていました。
Posted by Mont Peli at 2012年10月23日 07:38
そういえば、ヘミングウェイが愛用した萬年筆はモンテグラッパだった・・・という説を唱えていた広告を見たこともありました。
実際、縦書きの原稿用紙を埋めるような作業でなければ、萬年筆の必然性は無いようにも思います。
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月23日 05:19
どこで読んだだろうかと微かな記憶を辿り、探し当てました。
中央公論社「別冊暮しの設計No.6」(文房具の研究)の23頁に「鉛筆が原点にあった」という見出しの記事があり、その中に
「ヘミングウエイ、ウルフ、オニールなどの作家達はタイプライター恐怖症で、万年筆もにが手だったから、その原稿は鉛筆の手書きだった」
と書かれています。
他にも、FPNのスレッドなどでも裏付けはとれますが。
Posted by Mont Peli at 2012年10月22日 08:22
Faber-Castell 社は、1975年に万年筆の製造から手を引いた後、金属キャップや軸の加工はどこでやっているのでしょうね。
ペン先やペン芯のOEM先は大体見当が付きますけど。
自社工場で万年筆製造しているメーカーも、貴金属軸・銘木軸や金属トリムは外注が主流だと思います。
それにしても、万年筆やボールペンをほとんど使わず、鉛筆で原稿を書いていたとされるヘミングウエイのモンブラン社WEモデルにはペンシルが用意されていなかったり、250年前には鉛筆しか作ってなかった会社が250周年記念と銘打った万年筆を売り出すのは「何かが違う」気がします。(笑)
Posted by Mont Peli at 2012年10月08日 11:10