2012年10月05日

金曜日の調整報告 【 Pelikan M320 パールホワイト 14C-M コテ研ぎ 】

1今回の依頼品はPelikan M320 パールホワイト。過去に拙者が美しい!と絶賛した萬年筆。それの書き味改善という要望を得て、金沢でお預かりしたもの。
以前にも指摘したが、M300はM400の弟分と言うよりは、M1000の弟分。実際、独逸でM300が売り出されたときにはM400よりも値段が高かった。
ペン先とペン芯を固定するソケットの素材・形状ともM1000と同じで、M400系のソケットよりも高級感がある。
ただし金の値段がここまで高騰すると、ペン先の大きさによる製造コストは相当違うので、M300系の方が利幅は大きいような気もするのだが・・・むしろM300系は縮小傾向にある。

23きっとM300はそれほど売れていないはず。日本人にはペン先が小さいのにM400と値段が同じというのは受け入れがたいと思われる・・・
このペン先の刻印を見ると子ペリカンは一羽になっていない。ひょっとするとこのままシリーズごと姿を消すかもしれないなぁ・・・

ペン先先端付近に深い傷があるが、これは自己調整途中でついたものであろう。ペン芯先端部から先のスリットがやや太くなっている。またペンポイント先端部が開くように研磨されている。
これは明らかに耐水ペーパーをスリットに挟んでゴシゴシと擦ったせいだ。このゴシゴシはかならずペン先をペン芯から外してから行わないと先端部が削れすぎたり、O脚スリットになったりする。

45今回の研ぎで一番問題なのが、このコテ研ぎ状態からの復活じゃ。ここまで見事なコテ研ぎは、以前、神戸の鞄屋さんの自己調整を見て以来!
どうも最近はコテ研ぎがはやっているのかもしれない?萬年筆研究会【WAGNER】会場でも、プロ・アマ問わずコテ研ぎにしたペンポイントによく出会う。

筆記角度が微塵もブレないようなヘビーライターならコテ研ぎでも問題はない。しかし筆記する紙の位置によって筆記角度や捻りがばらつくような人にはコテ研ぎは使いこなせない。
コテ研ぎになる理由は、机の上に耐水ペーパーを敷いて、その上でゴシゴシと文字を書いてペンポイントを研ぐからじゃ。
スイートスポットを見つける際にはこの方法を用いるが、そこから先は手に耐水ペーパーを持って研ぐのがWAGNER流。

プロは会社によって、また個人によって様々な研ぎをするが萬年筆研究会【WAGNER】の調整師は一人を除いて(おおむね)この方式じゃ。
この方式は調整に時間がかかるが微調整がしやすい。またエッジの落としが完璧に出来る反面、馬尻になりやすい。そこからが技の見せどころ。みなさん四苦八苦して編み出した手法で微調整されている。

6こちらはマイクロスコープで撮影したペンポイントの正面画像。この画像から読み取れる事は2つある。
一つは、ペンポイントが背開きになっていること。これはPelikanのペン先の最近の傾向で、猫背ペン先になってから非常に背開きになりやすい。
この背開きはペン先をお辞儀させれば直るのだが、ペン芯はペン先のお辞儀が少ない時代と一緒なので、どうしても背開き気味になる。萬年筆を頻繁に使わない人が全体設計をしているとしか思われない。

もう一つは、コテ研ぎに研磨した後で、ペンポイントを丸めている痕跡がある。これは字幅を太くし、インクドバドバを狙うならば逆効果。せっかく研ぎ出した平面を丸く研磨したら字幅が減って書き味が悪化する。
研磨するなら平面の周囲だけを面取りする方が良いのだが・・・ここまで削られると既に手遅れ!別の形状に削って書き味を改善するしかなかろう。

7まずはペン芯からペン先を分離し、スリット幅を揃え、先端部の傷を耐水ペーで削り落とした後金磨き布で磨いて傷を目立たなくする。
次に先端部を角研ぎにして書き出し時のピントのズレを補正する。コテ研ぎを丸めると必ずピントのズレが発生するのじゃ。
最後にスリットを少し開いてからペン先をお辞儀させ背開きを矯正する。

8かなりお辞儀させるのでスキャナーで読み込ませるとオレンジ色変位して気持ち悪いので黒白画像とした。
実は画像で見て下側の部分はかなり曲がって削られていたが、左右対称になるように綺麗に再研磨した。今回は形状を整えているだけなので、書き癖に合わせた微調整は対面で行う必要がある。

910こちらが調整後の横顔。実に綺麗なペンポイントになった。ことペンポイントに関して言えば、形状が美しければ書き味がすばらしいとは言えない。
ただし書き味がすばらしいペンポイントはすべからく美しい形状をしている。そういう意味では醜いペンポイントの萬年筆を積極的に選ぶ必然性はない。
可能ならば、出来るだけ美しいペンポイントを選ぶべき。もし自分で研磨して楽しもうと考えているのでない限りは・・・

書き味は見違えるように滑らかになった。Stub気味の書き味は気品がある。時が上手な人が書けば、さぞや美しい筆跡になるであろう!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
 私も同じのを持っているのでペン先を見てみたら、ヒナは一羽でした。M300は個人的にはこれからも継続して欲しいです。小さくて可愛らしいです。
Posted by Mike at 2012年10月08日 21:36
 命名者でありながら「うぉーっ!」と声を上げてしまうほどに見事なコテ研ぎでした。調整できない私にとって、調整前の状態を見て無責任に騒ぐのが楽しみです。失礼しました。
Posted by つきみそう at 2012年10月05日 07:33