月曜日の調整報告 【 Parker Duofold International 18K-M 生贄 】

こちらはチェック模様のDuofold International。最近までラインナップされていたはずだが、2012年のカタログには入っていない。
実は、今回の調整には依頼書が無い。【
よしなに〜】ということだと判断して
生贄扱いとする!
調整依頼書を書かないまま【
お預かり調整】する場合、口頭での依頼内容など100%忘れているので
生贄扱いになるので悪しからず。
非常に綺麗な個体で、特に修理が必要なところはない。強いて言えば書き味ががさつなこと。これは自動研磨機による機械研磨の場合にありがち。
すなわち、スイートスポットが無いので絶妙な書き味にはなっていないということ。普通の人なら【字幅が太い】こと以外に不満点は気付かないはず。


ペン先のへんちょこりんな刻印は欧米人の好みなのだろうか?拙者には初期の単純な矢羽根のデザインの方が好ましいと思うがなぁ・・・
インクをつけて書いてみると、それほど書き味が悪いわけではない。ただし、横線がところどころで引っ掛かるような感触はある。
ごらんのようにスリットが大胆に開いているのでインクはドバドバだが、Mにしてはインクが出過ぎで字に情緒がまったく無い。
丸研ぎを少し角研ぎにしStub化することによって、書き出し時のピントのズレを直したい。また、上記の理由から少しスリットを絞ることにする。


丸くて立派でまったく破綻の無い機械研ぎだが、筆記感は下品!書き味の悪い大玉ボールペンで書いているような感触。
機械研ぎは品質にバラツキが発生しにくいし、生産性も高いので、コスト削減には大きな効果がある。
しかし、最後の最後で手調整をやらないと、今の研磨機の性能では手研ぎを凌駕は出来ない。ほんの少し人間の手が入れば見違えるような書き味になる。

機械研磨だけの弱点は、調整戻りのような段差を直せないこと。やはり最終確認は人間がやった方が良い。
この個体では左右の段差はあるし、背開きだし・・・調整する事がいっぱいある。それが全てスキップされて市場に出たのかな?
あるいは、持ち主がいじった後遺症か?どうもペン芯が上に反りすぎているように思われる。ペン芯にペン先を乗せるとスリットが開くが、単体であれば開き方ははるかに小さい。
そしてこの段差は向かって左側のペン先をお辞儀させようとしても簡単にはいかない。もちろんペン先を外して作業しても、ペン芯に乗せると段差が出来てしまう。
こういう場合は発想を変えて、向かって右側を反らせれば良いのじゃ。

こちらはペン先の裏。オマスと同じく裏側全面にロジウム鍍金が施されている。これが施されるとインクフローが良くなると川口先生に教えていただいた。
たしかにセーラーではインクフローが良くなるような気もするが・・・パーカーではどうなんだろう?
それにしても無駄の無いペン先じゃ。ペン芯と固定するためのペン先の穴は正方形。また根本はコストカット風にえぐれている。

こちらがペン芯。セーラーとは異なり左右対称のシンプルなペン芯じゃ。この首軸内に隠れたフィンがパーカーの特徴。
どうやらフィンを外に見せるのを潔しとはしないポリシーなのかも? もっともソネットにはフィンがあったはずだがな。

今回はチャーチャーだけで調整をした。ポケッチャーではなく本格チャーチャーを使用した。
チャーチャーだけで研ぎ、ペーパーによる仕上げをしないメーカーの調整師の方がいらっしゃるが、どうしてそれが成立しうるのかさっぱりわからなかった。
自分でチャーチャーを使って研いでも、手研ぎによる微調整をしないととても満足出来る書き味にはならなかった。

ところが今回はペーペーによる最終仕上げを一切やっていないにも関わらず満足のいく書き味になっている!奇跡か?偶然か?
ペンポイントの形状は以前とまったく別物になった。書き味にも何の問題も無くなった。ペーパーを使っていないのでスリットの内側エッジは研磨出来ていない。
にも関わらず絶妙な書き味になっている。困った・・・理由が説明出来ない!
【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(10)│
mixiチェック
>また根本はコストカット風にえぐれている。
Shepherd & Zazove:PARKER DUOFOLD(297頁)に復刻Duofold nibの切り割り動作中の写真があります。
これを見ると、専用台座の円柱状突起にこの切り欠き部分を押し当てて固定しているようです。
いろいろなメーカーのペン先に固定用の切り欠きはありますが、欠落面積が他よりも少し大きいと感じます。
Mont Peliさん
まさに、Maker's markの裏写りです。
らすとるむさん
硬いペン先と柔らかいペン先、それぞれに研磨機研ぎか、手研ぎかの相性はあるようです。
時間に制約が無ければ手研ぎが良いのは明白ですが、生産性を考えれば機械研ぎで90%の出来が喜ばれる場合も有るようですね。
もっとも最後の10%は調整師の自己満足のような部分が多く、実際には書き手には書き味として変化がわからないでしょうがね。
たかださん
腹開きではエッジは紙に当たっても滑って引っ掛かりません。、
ひっかかるのは腹開きの場合です。
師匠、ご教授ありがとうございます。恥ずかしながら思い入れが悪い方向に働き、コストカット穴に見えてしまいました。冷静な確認と検証って大切ですね。猛省です。
Terryさん
両脇のコストカット穴に見えるのは光の反射です。
7枚目の写真を見て、現行DuofoldのAce模様ニブには、ペン芯に固定する穴の両脇にいわゆる「コストカット穴」が2つ付いていることに初めて気付きました。矢羽根模様のみの第一世代や、矢羽根+"Duofold"バナーの第二世代のものにはなかったものですよね。調整後の書き味こそ変化はないのでしょうけど、判明した瞬間言葉が出なくなりました(ペンの持ち主の方ごめんなさい)。
この件とは直接関係はないですが、昨今話題の「第五のペン」インジェニュイティもリフィールがドイツ製(ってことは画期的な開発なのに内製じゃなくていきなり外注?)で、軸は国表記がない=暗黙のお約束の国での製造と言うことですよね(今度出るソネットの第五のペンの軸はフランス製のようです)。製造時のコストダウンとグローバル化はどの産業でも避けられないのは重々承知してますけど、幼い頃から思い入れがあるメーカーの分、色々考えさせられます。
切り割りが狭いニブで腹開きになっていなければ内側の角はあまり紙に当たらないのではないかという気がします。
表側の刻印の凹みは、結構、光を透過するものなんですね。
うっすらでよく読み取れませんが、根本近くの楕円のマークはmaker's markの裏写りでしょうか?
確か表側のこの位置にParker/Watermanのイニシャルを配した楕円枠の刻印があったと思いましたが。
アクリル軸は、英国のCarville社製、ペン先はParkerのNewhaven工場製ですね。
師匠。
自分もポケッチャーですが機械だけで完結出来ないかと試したことがあります。実際に前回の定例会で書道家の先生のペンを調整したのですが・・・ペーパーによる仕上げをしないで完結出来ました。
自分なりに原因を考えたのですが、少し強めに砥石に当てるると柔らかいペン先ならスリットが開いてスリットの内側のエッジが研磨されてなめらかな書き味になるものと想像しておりました。
また、垂直ではなく左右に捻って当てればエッジの研磨ができるような気がします。