2012年10月10日

水曜日の調整報告 【 Sailor 島桑 21K-M なんとなく書き味に不満・・・ 】

1今回の依頼品は、金沢でお預かりした島桑。なんとなく書き味がしっくりこないので調整出来るものなら・・・ということでお預かりした。
実は島桑は非常にバランスが良い萬年筆で、目下のところ拙者の一番のお気に入りじゃ。
ところが非常に繊細で、ある日突然書き味が悪くなったりする。少しスリスリすれば、以前よりグッと良くなったりもする。書き味の持続力が乏しい不思議な萬年筆。
また他人による筆記への耐久性も低く、相当筆圧の低い人に試し書きしていただいても、てきめんに書き味が劣化するほど。
なんていうか【ガラスの顎を持つ天才ボクサー】のような感じ。また数日使わないと書き出しのインクが相当濃かったり乾燥していたりする。
そういう意味では雨の日には雨漏りのしないベンツに乗れと言われた1970年代のフェラーリに近いかも?
相馬屋の原稿用紙に書くと得も言われぬ上品な書き味だが、SOLAのバンクペーパーに書くとジョリジョリの書き味になる。【切れる寸前の中森明菜】のようなドキドキさせる魅力を持つ萬年筆なのじゃ。

刻印は違うものの、通常の21金ペン先なのに、この書き味のキレ具合は何故だろう?今まで調整した島桑は5本くらいだが、全部こういう感じだった。

23調整前のペンポイントは少し寄りが強い。ただ筆圧を少しかければすぐにスリットは開く。問題は書き出し時にインクが紙につくかどうか。
少しスリットを開くことによって書き出しのインク切れの確率を減じておこう。
それにしても凝った模様の刻印!たった1000本ほどの限定品なのに、レーザー刻印ではなくプレスで模様を出している。お金かかっただろうなぁ・・・

45こちらは調整前の横顔。セーラー独特の中字の研ぎじゃ。今回は中字しか製造されなかったのでしようがないが、多少癖のある調整になっている。
萬年筆のヘビーユーザでない人には問題ない書き味。問題を感じられない書き味といった方が良いかもしれない。
しかし、萬年筆研究会【WAGNER】会員に代表される萬年筆を寝かせて書く人にとっては・・・筆記時にペンポイントの腹がジョリジョリとひっかかる感じがする。
これはセーラーに限ったわけではなく、パイロットの742でも同じ。要するにメーカー調整の設定を越えて寝かせて書く人が萬年筆愛好家には多いということ。
742は入手以来1年以上、ほとんど毎日使用しているが、いっこうにひっかかる感じはなくならない。ただし立てて書くと問題なくすらすらと書け、調整の必要性は感じない。

6こちらはペン芯の裏表。通常の21金の大型ペン先に使われているのと同様の定評のあるペン芯で、古山画伯の評価も非常に高い。
超高速で線を引く画家にとって筆記線が途中で途切れる事は耐えがたいものだが、このペン芯を使う限りはその心配は皆無だとか。
ペン芯の左右の非対称さがポイントだと川口先生から聞いた記憶がある。たしかに連続筆記していても、いわゆる息切れ状態が発生しない。

7こちらが首軸からペン芯とともに引き抜いたペン先。実は段差がなければこのような事はやらない方が良い。
セーラーのペン芯の素材は柔らかいので、繰り返し抜いているとグスグスに緩くなってしまう。
パイロットのペン芯素材は多少は硬いが、首軸内に入っているペン先の長さが極端に短いので、一旦抜くと緩くなりがち。また抜くと保証対象外となるのは覚悟しておくようにな。
拙者は交換用のペン芯を、セーラーが部品販売をまだやっていた頃に大量に購入しているのでこういう暴挙が出来るだけ。緩くなったらペン芯を新品と交換するのじゃ。
多少スリットを拡げた状態にしてある。ところで根本の【103】という刻印は何を意味するのだろう?手元にあるキングプロフィットのペン先には【612】の刻印があるのだが・・・
創業が1911年なので100周年は2011年。とすれば【103】は2010年3月に製造したペン先という意味かな?


89左が調整前、右が調整後のペン先じゃ。調整に当たってペン先を横書きに適するようにStubに研ぐことにした。セーラーのMの研ぎは縦書きに適した形状に研がれている。
それをさらに縦書き向きに研ぐと・・・拙者が愛用している島桑の研ぎになるが、【切れる寸前の中森明菜】の書き味になってしまう。恐妻家の依頼者には耐えられまい・・・
そこで安定した書き味を実現できるStub調のMに研いでみた。平凡な書き味ではあるが安定した横書きが出来るようになった。

10こちらが横顔。5枚目の画像と比べればどのように研いだかが良くわかろう。ペンポイントの腹の部分をかなり丸めている。こうすれば寝かせて書いても腹がひっかかる事は無い。
萬年筆を立てて書く人にとってはまったく無意味な調整。メーカーや販売店での検品が厳しい国産メーカーの萬年筆に限っては、【調整】は必須なものではない。
書き癖にどうしても合わない時だけ、パーソナライズの一環としてチョコチョコっとやるだけで良好な書き味になる。
そこから絶妙な書き味にするには、さらに小一時間の調整が必要になる。ここだけは自分で調整出来るようになるのが早道。書き味の判断を他人に委ねるのは遠慮もあって難しいのでな。


【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 10:10│Comments(24) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
あらためて製造年月の刻印ルールと思われるものを整理してみました。
1.刻印桁数を極力減らして3桁化するため、年号または月を「ゼロ・サプレス(ZERO SUPPRESS)」する。
Z999(Zはゼロのときスペースに置換。9はゼロであってもスペース化しない。)
2.下2桁(固定桁)を年号にするか、月にするかはメーカー次第。
Posted by Mont Peli at 2012年11月09日 05:07
在庫投資の目安金額についてですが、おおまかに試算してみました。
1.金相場は変動するので製造当時の相場はわかりませんが、本日の日経紙「M&I クローズアップ」に記載されている相場「1キログラム地金価格500万円弱」を基準に計算します。(1グラム5千円で試算)
2.100周年記念ニブの単体重量はわかりませんが、Montblanc#149やフルハルター10周年(特大)ニブ等から推計すると1.2−1.5gの範囲内だと思いますので、下限値をとります。
3.21金ペン先なので金含有量は875/1000ですが、残りの125/1000も銀を主成分とする貴金属であり、ペンポイントもそれなりの品質のものと考えれば、ペン先の原価計算上は1gあたり5千円の計算で良いと思います。
4.仮に、一年前に1000本全量を製造した場合の在庫投資額は、大づかみですが600万円と推計されます。(1.2gx5000円x1000本)
Posted by Mont Peli at 2012年10月24日 08:06
たかださん

納得していただけましたか。
エンドユーザーに告知する目的の記号ではないので、メーカーは、自分でわかる範囲で極力刻印桁数を減らすのだと思います。
1.単純明快な表記-----------西暦年号4桁+月2桁(201103と200612)
2.セカンドベストの表記--------西暦下2桁+月2桁(1103と0612)
3.さらに縮約した表記---------西暦下1桁+月2桁(103と612)
今回は上の3.で読んで、[103]と[612]のそれぞれについて前後10年の可能性を判断すれば良いと思いました。
他社には当てはまりませんし、何が正しいかはわかりませんが。
Posted by Mont Peli at 2012年10月19日 09:18
なるほど、刻印と合わせれば判りますね。
他のペン先にも同様に刻印されているので共通だろうという先入観がありました。
Posted by たかだ at 2012年10月19日 07:27
>103を2011年3月と読むと2001年と2011年の区別が付かなくなり、こちらの弊害の方が大きいのではないでしょうか。

100thと刻印された100周年モデル専用ニブなので2001年の可能性はゼロです。
Posted by Mont Peli at 2012年10月18日 02:52
セーラーがどういう会計制度を採用しているかまでは存じませんが、注文を受け付けた時点で売上を計上するということも商法上は認められています。この場合、予約を受け付けている数量までは売れてなくても作った分は売上として計上できます。
103を2010年3月と読むと10月11月12月に困るという問題は、パイロットと同様に4桁にするという手もあります。103を2011年3月と読むと2001年と2011年の区別が付かなくなり、こちらの弊害の方が大きいのではないでしょうか。
数量についても1,000本を発売日にすべて揃える必要は無いと思いますが、それなりの数量は揃える必要があると思います。100本では少なすぎ、300本程度でしょうか。極端な品切れという話は存じ上げてませんのでかなりの数量を用意したのではないでしょうか。
プラチナの精進も数量3,776本として7月に発売しましたが、7月の発売日では全量出荷ではありませんでした。9月26日に1000本の追加を行ったそうです。7月の初期販売から二次出荷9月26日までの間、約3か月で1000本作った計算になります。精進のニブは生産ラインの使い回しが利きそうなので簡単に比較できませんが月当たり300本くらい作れることになります。
島桑は字幅が中字のみということもあって使えるラインが中字用のみかもしれず、刻印のプレス機は専用なので生産量はもっと少ないと思います。
在庫として計上するといえば軸もそうです。漆塗り仕上げですから乾燥までそれなりの時間を要すると思われ、少なくとも軸は一年前から作ると思います。軸を作るならそれに合わせてニブも作るのではないでしょうか。
Posted by たかだ at 2012年10月17日 23:50
2010年12月に決算が締まったとすれば、2010年3月に製造したペン先は半製品在庫なので、完成品在庫ほどには決算に金額インパクトは与えないでしょう。
また、2011年5月27日に販売開始なら、それまでに問屋を経由して販売店に届く。
その為には見本品はずっと前に出来ていなければならない。またペン先紋様は打刻で日付はレーザーらしい。
打刻する際は、一挙に製造した方が効率的だし、レーザーも一々プログラミングすることを考えれば一挙に作るはず。
特注品を頼んだ経験からいえば、セーラーではペン先の製造はかなり早く始めているように思う。デザインの締めが厳しいのじゃ。
ということは、2010年3月にペン先製造していてもおかしくは無い。

萬年筆メーカーの決算期を話題にして盛り上がるBlogというのは世界中でココだけかもしれないなぁ(笑
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月17日 23:35
たかださん

もう一つ。私の素直に読むという意味は、西暦の下一桁+月二桁という意図でした。
【103】を2010年3月と読むということは、「10月から12月に掛けては製造できない」ということを意味しませんか?
本当に一年も前からペン先を作っておく必要があるとお考えでしょうか?過去記事に、【102】の刻印を持つニブ写真もあります。
高価ですし、一挙に千本を売り捌く訳ではなく、2011年の年明けから予約状況をにらみながら何回かに分けて作っても遅くはないと私は思いました。
メーカーが決めた記号なので本当は何が正しいかはわかりませんが。
Posted by Mont Peli at 2012年10月17日 12:35
たかださん

島桑のペン先(100周年専用)は2011年5月27日以降にならないと販売が出来ない製品ですから、決算期を跨ぐ作り置き分は100%製品在庫になると思います。
仮に3月決算だとすると、2010年3月に製造したペン先は、2010年3月期と2011年3月期の2年度にわたりコストのみ計上することになりますから、在庫投資ということになると思います。
同じように、12月決算でも2010年12月期の決算では在庫投資ということになりませんか。
Posted by Mont Peli at 2012年10月17日 12:02
3月決算なら3月中に製品にして売上を計上してしまうというのも経理上の都合としてはあるので2011年3月製造のペン先ということもあるのでしょうが、12月決算だと在庫かどうかは関係ないことになります。
数値を素直に読んで2010年3月と読んで差し支えないのではないでしょうか。

以前店頭で見たインペリアルブラック細字がこのニブのように斜めに裁ち落とされたような研ぎでした。
滑りは良いのですが太目の字幅になっていたので購入は見合わせました。
Posted by たかだ at 2012年10月17日 06:52
たかださん

セーラーの決算は1/1〜12/31です。あたり!
それと今回の話題との関係はなんでしょう?
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月15日 23:04
セーラーの決算は12月じゃないでしょうか。
Posted by たかだ at 2012年10月15日 22:48
Amulorさん
セーラー自慢のペン芯とインクの相性も理由だとは思います。
構造が複雑なだけに、ペン芯とインクの相性も一筋縄ではいかないようです。
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月14日 09:52
太字さん
日本での英語の使い方は想像を超えている部分があり、おもろいですよね。
以前の会社に転職した直後、BJ会というのに参加するように言われて参加したら、部長と次長だけの決裁会議でした。
部長と次長の頭文字をとてBJ会。目が点になりました。
ま、次長課長のJK会でなくてよかったですが(笑
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月14日 09:49
Mont Peli さん

ペン先一個が2000円としても期をまたいで在庫となれば1000本分で200万円。財務的には得策ではありませんね。
工場側も会社決算のB/Sをを意識していればですが。
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月14日 09:45
クマサン

軽いプロフィット用に設計し、その思想で研がれたペン先形状を、長くて重心位置がうしろよりの島桑にそのまま適用したので、通常なら問題とならないペンポイントの腹の部分が紙に擦れるからだと思います。
別物にしてさしあげますが、多少時間はかかります。
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月14日 09:38
しまみゅーらさん

萬年筆の不機嫌な真実を追究するのが調整師の使命です(笑
Posted by pelikan_1931 at 2012年10月14日 09:35
pelikan_1931 師匠が【103】=2010年3月と判断したのは、創業100周年に入ってからペン先の製造をしていたのでは準備が間に合わないという理由だろうと思いますが、セーラー社の沿革を見ると「島桑」発売は5月になっているので、同年3月はぎりぎりセーフという感じもします。
金ペンですし、作り置きしておくと在庫投資が嵩むので、【103】=2011年3月にもチャンスありと。
Posted by Mont Peli at 2012年10月11日 10:01
あの島桑、カーボンインクで
腰が抜けるぐらいとろけましたが、
もったいないので、あのまま洗浄し保管中(^O^)
そうですか、それほど過敏なんですね。
プロフィット21も、すぐ書き味が変化したような。
気のせいかな?( ̄▽ ̄)
セーラー21K共通?島桑用だけ?
気になります。
プロフィット21は、やりすぎて鉄ペン一歩手前です( ̄▽ ̄)
Posted by Amulor at 2012年10月11日 08:47
 正しい読み方はわかりませんが、セーラーさんの場合、103(2010年3月)、612(2006年12月)という読み方が素直な気はしますね。パイロットのB697(1997年6月)のように年号を後ろに置いたりしない、と。
 セーラーの場合英語風の表記になっていても、日本語読みしないと分からないことが良くありますので。
 パイロットならFM、セーラーならMF。Fine Medium(中字で細いもの)、Medium Fine(細字の中くらいの? それって細字そのものじゃない?) 「中細」何だ、日本語だったのか。
 Profit(「利益」会社視点のすごい商品名だなあ)。兄弟関係にあるProfessional Gearから想像すると「プロにフィットする」おお、文筆家向けの本格的なペンなのか。そしてそれが「稼ぎ」になる。使用者にとっても、セーラーにとっても。
 しかし、海外ではおそらく理解してもらえない。かろうじて韓国なら、日本語と語順が同じようだから、ある程度理解してもらえるかも。

 新しい情報は何もなくて、失礼しました。
Posted by 太字 at 2012年10月11日 08:33
>判読の仕方 どなたか ご存じありませんか?

正しいかどうかはわかりませんが、「103」との整合性を考えず素直に読むと
「612」 → 2006年12月 
と読めます。
なお、キングプロフィット発売は2003年なので、1996年12月の可能性はないと思います。
Posted by Mont Peli at 2012年10月11日 08:06
>>【103】という刻印は何を意味するのだろう?
手元にあるキングプロフィットのペン先には【612】の刻印があるのだが・・・
創業が1911年なので100周年は2011年。とすれば
【103】は2010年3月に製造したペン・・・<<

パイロットと同様に セーラーも 製造刻印あるようですが
判読できません。

「103」 → 2010年 3月 これは 理解できますが
「612」 → 1961年 2月 ?? わかりません。

判読の仕方 どなたか ご存じありませんか?
Posted by 紙様 at 2012年10月11日 07:34
私の島桑も書き味がやや不満です。そんな訳で、使用頻度が下がっています。何かザラザラした書き味なんです。何時か調整してください。
Posted by クマサン at 2012年10月11日 07:11
・中森明菜

 島桑もそんな感じなんですね。私の持っている18K-HMも、「これが万年筆の書き味ですよね!」という機嫌のいい時もあれば、ヒゲソリのごとくジョリジョリしてる時もあります。まぁ機嫌がいい時のほうが多いのであまり気にしたことはありませんが。
Posted by しまみゅーら at 2012年10月10日 12:43