2012年10月24日

水曜日の調整報告 【 Omas Gentleman 14C-M 書き味改善 】

1これは懐かしい!おそらくは1980年代のOmas Gentleman。拙者が最初に購入した本格的回転吸入式萬年筆と同じもの。
素材はたしか硬質セルロイドと輸入筆記具カタログには記載されていたと思う。
軸痩せが他社の物より激しく、尻軸を回すのに怪力が必要であったり、ペン芯がスカスカになったりと苦労させられたが、それでも独特の書き味は魅力的であった。

23依頼者は、カリカリした書き味がどうしても好きになれないので直して欲しいとのこと。
調べて見ると、左右で段差が出来ており、また少し背開きでもあった。柔らかいペン先ならば段差は気にならないが、背開きは書き味を大きく落としてしまう。
また右側画像でわかるようにペン先先端部の左右の幅が違う。これも書き味に微妙な影響を与えるし、何より見栄えが悪い。見栄え第一の拙者としては許せないので、少しだけ削っておこう。
それにしてもペン先前面の模様刻印の内側まで削っている。この削り方がこの時代のOmasの特徴かもしれない。これ結構好き!

45Omasの高級モデルのペン芯は、今でもエボナイト製だ。もちろんこの時代もエボナイト製。ほとんど設計変更無しというのもすごい!
ペンポイントはある程度研磨されているが、前から眺めると紙に当たる部分の下部が狭められている。せっかくの大きな玉なのにもったいない。平べったく研ぐか・・・とも考えたが止めた。
Vintageは出来るだけその時代に研ぎの特徴を残しながら調整するのが、このBlogでの主張なのを思い出した。時々忘れて研いでしまうのだが・・・
方針としては、腹の引っ掛かりやすい部分を研磨してほんの少し形を整える程度に抑えることにした。

6こちらはペン先をペン芯と分離し、清掃した上で、スリットを少し開いた状態。このままでは下品なインクフローになるので、ペン芯に乗せて首軸に突っ込んだ後でスリットを狭める。
ペン先の形状だけを眺めると、MontblancやPelikanのそれと比べて、妙にエロっぽい。ペン先の根本が微妙に拡がって見えるなどペン先単体のデザインにも手抜きが無い。
というか、無駄に凝っている?こういうところが伊太利亜製の真骨頂。おそらくはコストカット穴など考えた事も無かろう。

7こちらがエボナイト製ペン芯。しっかりと溝が3本ある。しかも内部の溝の上部は削られており、そこは空気が通るようになっている。
インクが下部のスリットを毛細管現象で通って紙に染みこんで出た分だけ、上部の空気の通り道を通って空気が胴軸内に入ってバランスを取るおかげでインクが掠れない。
それにしてもこの程度の細さの溝でも毛細管現象が効くんだなぁ・・・

8これが分解したOmas Gentlemanの全部品。たったこれだけで回転吸入式萬年筆が出来ている。これなら自分でも作れそう?
いやいや、Omasの真骨頂は、胴軸内の加工。
ピストン軸が真っ直ぐに上下するための凸が取り付けられている。その加工をどうやっているのか見当も付かないほど難しいと思う。
今回は首軸を外すのに異様に手こずった。シェラックで固定してあるだけだったのだが、首軸痩せのせいか、10分以上胴軸をヒートガンで暖めてやっと外れた。
それも普通の人の握力では外れなかったかもしれない。外す工具もあるのだが、力を入れすぎて首軸を割ったことがあるので、最近は手でやっている。必要以上に握力が強いのも意味無し芳一? 

9こちらが研磨後のペンポイント。左右の形状を揃え、開いていたスリットを最小限まで狭めた。筆圧をかけるとすぐに横に開くペン先なのでこの程度で十分。
ただしスリットを開いていないと書き出しで掠れるリスクがあるので、この程度は開いておくべきだろう。

10腹の研磨はこの程度。ただし仕上げには時間がかかった。現行の国産や独逸製萬年筆のペンポイントは研磨が終了した段階で90%の書き味にはなっている。
従ってスリスリと仕上げをするだけで完璧な書き味になるのだが、こいつは、形状が整ってからが勝負だった。いやはや苦労しました。
ペンポイントの合金がそれほど上等ではないのもしれないが、研いでも磨いても書き味がそれほど向上しない。M800のpf刻印付きニブのように紙に当てた瞬間にため息が出るような書き味にはならない。
う〜ん、やはりスイートスポットを作り込まないと望む書き味にはならないのかもしれないなぁ・・・。でも残存数の少ないOmas Gentlemanにスイートスポットは(拙者の手では)削り込みたくはない。
オリジナルはこういう書き味だったんだということを記録として残したいので、満足度95%程度の書き味で調整を終わらせることにした。


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整2記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 07:30│Comments(3) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
師匠、私のOmas Gentlemanもよろしくお願いいたします(笑)
Posted by 赤ずきん半 at 2012年10月25日 12:28
 師匠
 誠にありがとうございます。  このブログに魅せられて、それまで10本位だったものが、今や…むにゃむにゃ…。  ただ、どういうものが本当に
良い書き味なのかという指針となるものがどうしても知りたくて無理を聞いていただいております。   原稿用紙に書く日が本当に楽しみです。

 watarowさん
 ご声援ありがとうございます。  昔からモンブラン、パーカーが憧れで、今もそれは変わっていないのですが、今、なぜか、なぜかオマスには惹かれまくっております。 私の書き方では、仰るとおりペン先の長さが大きく合わないのですが、逆にペンに合わせたくなってしまうのがオマスの(イタリアの?)怖いところです…。  大事にしつつ日常で使って参りたいと思います。  オマス党立ち上げの際には、微力ながら票を入れさせていただきます。
 P.S. 最近のがっくり…A.M.87が(も)好きなのですが、大きさが2種類あったとは知らず、手頃な値段で手に入れたと思ったら、小さい細い仕様でした。
Posted by Parker45 at 2012年10月25日 03:32
ご無沙汰しています。
OMASの愛好家がおられるのは、うれしいです。
ペン先のペン軸からの出(露出度)とその形状、モンブランやペリカンに比べると大きいですが、文字を書いていて、目に入るそのたっぷりとした感じを気に入っています。
むろんそれだけではないのですが、軟筆好みの小生としては、結局インクを入れて身の回りに使える状態になっているのは、OMASです。
師匠のトレイから入手した、緑軸の一本からです。
この度の生け贄提供者が、永くOMASを愛好されること願います。
Posted by watarow at 2012年10月24日 18:16