2012年10月26日

金曜日の調整報告 【 Parker Duofold International 18K-M 書き味改善 】

1本日の生贄はDuofold InternationalのGold Plated Model。発売された当時、純銀軸とこちらとどちらを選択するか迷ったあげく、両方とも買わなかったことを思い出した。
素材としては純銀軸の方が好きだったのだが、ペン先のバイカラーと胴体の金銀比率が気にくわなくて、どちらかというと金色軸に惹かれていた。
ペン先以外にシルバー部分が無いのと、ペン先も矢羽根だけが銀色というのが琴線に触れていたのであろう。今なら迷うことなくこちらを選ぶ!

23ペン先の形状は完璧。実に美しい機械研ぎじゃ。手研ぎではかなり時間をかけないとここまでは綺麗に研げない。ただし書き味はダメダメ!
依頼人はこのペンのシャリシャリ感がイヤで、これ以降はParkerを一切購入しなくなったといういわく付き。酷くはないが、無味乾燥で思いやりの無い書き味・・・?
なんというか、舌なめずりする感じがまるでない。普通の人ならまったく気にならないが、萬年筆の書き味を知ってしまったからこそ体験できる不幸だろう。
画像で見る限りはスリットも完璧、研磨も完璧。少なくとも上から見た画像では不具合は発見できない。

45こちらが横顔。拡大画像を見ると機械研ぎの限界がわかる。横研ぎは綺麗に出来るが、まだ縦研ぎは完璧ではない。当然ながらエッジ研磨は出来ていない。
だからこそスリットを拡げてインクフローで当たりを緩和しようとしたのだろう。ペンポイントが金に溶着される形状が完全に同じに出来ない限りは、完璧な機械研ぎは出来ないかもしれない。
ならば国産のように手仕上げと併用すれば良いのだが、残念ながらそういう人材はとっくにいなくなってしまっているだろうなぁ・・・。

調整の方針としては、先端部を少し落とし、大きなスイートスポットを削り込み、それをチャーチャーで判別不能にした後で、エッジを丸めてしまうことにした。
こうすると滑らす、引っ掛からず、ヌメっとした書き味になる。すぐに慣れっこになってしまうが、以前の書き味を覚えていれば、書き出したとたん、ゾクっとするはずじゃ。

6こちらが附属していたコンバーターS。昔は安かったはずだが現在の定価は735円!ただ高いだけのことはある。
中に金属玉が入っているので、少し振ればインクの撹拌が出来、棚吊り現象も防止できる。また上下スライドのワンアクションでインクを吸い上げられるので生産性も高い。
昔から傑作コンバーターだと思っていたが、改めて感心した。これが一個200円くらいなら50個くらいはまとめ買いしたい。

7こちらはペン先。まだWatermanと同じ会社にはなっていないころなので、Parkerを示す刻印しか首軸内部には隠れていない。
この時代の刻印がシンプルで一番好きだなぁ。パーカーのシンボルである矢羽根がディフォルメされていないのが良い。
拙者の趣味からすれば、ペン先に刻印する企業のシンボルマークはあまり簡単に変えない方が良いと思う。


8こちらが調整が終わったペンポイントを上から見た画像。実はそれほど形状に変化は無いように見える。が、かなり研磨を施している。
どうやら自動研磨機はペンポイント上下の研磨が得意ではないらしく、ペンポイント上側は尖ったまま段差が出来ていた。ペン先をひっくり返しては絶対に書けない状態!
そこでゴムブロックのコーナーに目の粗い耐水ペーパーを置き、その上でペンポイントの背中を擦って平たくした後で、チャーチャーで研磨して滑らかにした。

9こちらは横顔。少し高い筆記確度で右回り8の字、左回り8の字を各10回ずつ320番の耐水ペーパーの上で筆圧強めで書く。
しかる後に、2500番の耐水ペーパーで外側のエッジを大まかに落とし、チャーチャーで滑らかに研磨する。次に秘密のペーパーの上で8の字旋回を縦長&横長、左回り&右回りに各100回。
つまりは100回×2×2=400回の8の字旋回を実施する。その後で、10000番と20000番のラッピングフィルム(新兵器)でエッジを軽く落とす。

10そうすると正面から見て左画像のような姿に変わる。背開きだったスリットは並行となり、上に盛り上がっていたペンポイントは平たくなる。
また(見えないだろうが)スイートスポットは確実に刻み込まれているので、書き味はねっとり!まさに狙い通りの書き味になった。


【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
 棚吊り現象で悩んでいたこのコンヴァーター、いつの間にかこんな改良がなされていたとは!私も2つ3つ買います。
Posted by monolith6 at 2012年11月05日 18:27
補足します。
1.ここでの刻印は、「二つのPが矢のシャフトに平行なもの」について論じていますが、「斜めにV字状に配置されているもの」については、過去記事(2012年05月30日)でコメント済みです。
2.「旧経営陣に責任を遡及させないために」というのは、刻印変更により責任の分岐点を明確にし、Gillette社買収後に製造したものについては旧経営人に責任が及ばないようにするという意味です。
Posted by Mont Peli at 2012年10月30日 08:41
>拙者の趣味からすれば、ペン先に刻印する企業のシンボルマークはあまり簡単に変えない方が良いと思う。

maker's markは、金含有量などにごまかしがあった場合の責任追及のためフランスの貴金属法制により義務づけられたものであることから、経営母体企業が変わった場合、旧経営陣に責任を遡及させないために好むと好まざるとにかかわらず変更を余儀なくされるということではないでしょうか。
Posted by Mont Peli at 2012年10月30日 08:05
>この時代の刻印がシンプルで一番好きだなぁ。パーカーのシンボルである矢羽根がディフォルメされていないのが良い。

このParker Penのイニシャルをあしらったmaker's mark(PP刻印)はGillette社買収(1993年)以前のもので、製造工場が特定出来るように刻印に特徴があります。(フランスのassay officeに登録する刻印であることから唯一無二であることが必須条件)
18Kを例に取れば、フランス工場(Meru)製は菱形の枠囲みです。一方、英国工場(Newhaven)と米国工場(Janesville)は楕円の枠囲みで一見同じに見えますが、よく見ると矢羽根の向きが逆になっています。
Posted by Mont Peli at 2012年10月30日 08:03
>横研ぎは綺麗に出来るが、まだ縦研ぎは完璧ではない。当然ながらエッジ研磨は出来ていない。

Shepherd & Zazove:PARKER DUOFOLDの280頁にDUOFOLD nibの加工工程の図解写真があり、その中に切り割りの内側を滑らかにするSLIT SMOOTH工程があるのですが、仕上がりにご不満ということですね。
'THE 21 STAGES IN THE PRODUCTION OF THE DUOFOLD NIB'の切り割り前の工程を見ると、ペンポイントの研磨だけでも3工程ありますね。
Posted by Mont Peli at 2012年10月26日 07:22