まったく違うタイミングで我が家にやってきたのに、たまたま修理する時期は重なるということはある。
しかし、先週の水曜日に修理したモデルと同じものを今週の月曜日にも修理することになろうとは!
こちらの萬年筆の持ち主は名古屋の方だが、預かりしたのは神戸大会。本来の修理順はずっと後なのだが、今週末の名古屋大会でお渡しするために本日の修理となった。
ブツはもちろんPelikan #500。ただしお預かりした時から、ついさきほどまでPelikan 400だろうと思っていた。
だから登場の順番が早まったのだ。普通は二週続けて同じモデルを登場させたりはしない。
【ああ、ピストン弁を交換すれば直りますよ!】なんて軽い口調でお引き受けしたのだが、とんでもない状態だった。
ペン先は初期の#500独特のヘロヘロに柔らかいペン先・・・のはずなのだが、妙に硬い。スリットは寄り、ペン先に少し段差があるのだが、それだけが原因ではない。
この萬年筆には、伝説のインクが入っているのかもしれない。【腐ると緑色がかって良い感じになるというMontblancのブルーブラック?】もちろん何十年前の代物なのだが・・・
それかどうかはわからないが、グリーンと黒が混ざったような不気味な色のインクが大量にペン先、ペン芯にこびり付いていた。
ペン先をアスコルビン酸水溶液に入れると、モクモクと溶け出し、あっというまに小さなビーカーは黒緑のドロドロした溶液でいっぱになった。と同時に、柔らかさが戻って来た。
どうやら固まったブルーブラックがペン先とペン芯を固着していたために、せっかくのヘロヘロニブがその能力を発揮できない状態になっていたようじゃ。こんなの初めて!
書き味も良くない。横顔を見ると多少の段差がある。非常にペン先が薄いので現行のM400よりはズレやすいので筆圧をかける人には使いこなせない。
もっともこれだけ柔らかいペン先なので、筆圧をかけるとペン先が開いてインクが切れてしまう。低筆圧筆記の練習をするにはちょうど良いかも?
我が家にやってきた主原因はこれ!ピストンを左に捻ると尻軸ユニットだけが廻り、尻軸がポロリと外れてしまうこと。
原因はブルーブラックインクが胴軸内壁とピストン弁を接着してしまい、ビクともしなくなっていること。この現象にも初めて遭遇した。
軸が痩せて内径が狭くなったわけではなく、インクによって固着されているのじゃ。いったいこのインクはなんだろう?ブルーブラックインクと緑インクが混ざったのかもしれないが・・・
そしてキャップも大変な事になっていた。#500時代のキャップは天冠リングをはずせば、クリップはすぐに外れ、それと同時にインナーキャップは内側に落ちるものだが、ビクともしない。
あれぇ?と思って、天冠を布の上に下向きに置き、キャップの口の部分をトンカチで、ガンガンガンと力を入れてたたいたら、ガコン!という感じでインナーキャップが外れた。
それを流水で洗ってからアスコルビン酸の80度溶液に入れたら、さらにモクモクと黒と緑の混ざったようなインクが溶け出し、これまたビーカーはドロドロの液で満たされた!
それを完璧に洗浄し、再度押し込む状態にまでしたのが左画像の状態。これからピストンユニットを胴軸に押し込むのだが、今回はパテは使わなかった。
かわりにシェラックの厚塗り(重ね塗り)にした。完全に乾くまでに時間はかかるが、ヒートガンで炙れば柔らかくなって外れるので、いざというときの為にはこちらが便利。
ただしシェラックで修理してあるということを覚えてもらっていなければならない。修理に出したほうも修理した方も還暦越え状態なので、どうなることやら・・・
ペン先もかなり汚れていたので、段差を無くし、スリットを多少開いた状態がこちら。実に柔らかくて美しい。
こうやってスキャナーで撮影するとヘロヘロニブかM250用の14Cニブかはすぐに見分けが付く。形状も雰囲気もまったく違うのじゃ。柔らかさを試さなくてもわかる。
見なくても柔らかさがわかるようになれば、オークションで【失敗したぁ〜、やられたぁ〜】というケースが激減するのでお試しを!
M250のニブをソケットから外して、この画像と比較すればすぐにわかる。そして、デジャブーのもう一つは・・・