
機構かペン芯に問題があり、輸入代理店の担当の方が取り扱わないと決めたという話を聞いたことがある。
当時は、【え〜え、勿体ない!良い萬年筆なのに〜】と残念がっていたのだが、今回、当時の担当の方が何故輸入をやめたのかが良くわかった。
もし輸入していたら、けっこう売れたはず。そしてその後のトラブル対応で、輸入代理店は七転八倒したであろう。このオーバーサイズは明らかな失敗作である。
もし、改良されないまま、海外で販売されているとしたら、メーカーとしての見識を疑う!そうでないことを祈る!
握った感じ、書いた時のバランス、感触ともすばらしく、その部分だけとればドルチェヴィータ・シリーズの最高傑作であろう。ペン芯はエボナイト製で大きく、インクを含む力も大きい。


残念ながら依頼者は左利き。この柔らかさは、押し書きする人には書きにくいだけ。
左利き用の研ぎ方は、右利き用の研ぎとは全く違う。さらにこのペン先は先端部の周囲がプラチナ鍍金されている。これでは斜面を大胆に研磨出来ない。
たとえ削ってくれとお願いされてもやらない。研磨したという記録だけが残り、残忍な壊し屋と後世の人に誤解されてしまう。それは本望ではない。
そこで、腹側のペンポイントの幅を少し狭める程度の調整にしておくことにする。またインクフローをさらに絞り、とにかくインクが乗らない筆記線を目指してみよう。いつもの調整と180度ねらいが違う。


ペン芯はエボナイト製で、溝の数も非常に多い。従ってインク漏れの心配は通常に使用であれば、問題ない。では通常の使用ではない使用とは?
それは、胴軸内の直接インクを飲ませ、それに首軸でフタをするという方法。このためにDELTAは、新しいペン芯を使う事にしたのだろう。
すなわち、胴軸内に直接入れた3cc以上のインクに耐えるペン芯を設計した。しかし胴軸を片手で握って暖めると、ほんの数分でインクがペン芯から溢れてしまった。

コンバーターはネジ込み式なので、ねじ込むと、首軸先端部からペン先ユニットの先端部が1ミリほどはみ出してしまう。あわててペン先ユニットを押し込もうとしてもなんともならない。
コンバーターを外してから再度ソケットをねじ込むのだが、同じ事の繰り返し。どうなっちまったんだろう。それにそもそもここでソケットが首軸から外れる必要はない。

それをさらに首軸にねじ込むという非常に複雑な構造になっているのだが、全てが雑で収拾が付かない。
金属ソケットは回転式で樹脂ソケットにねじ込むのだが、その際にはペン先とペン芯に押し込んでないとねじ込めない。
しかし、ペン先とペン芯だけを掴んで引っ張ってもペン先とペン芯は簡単に抜ける。何の為の金属ソケットか解らない。
きっとこれがあったから輸入代理店の担当の方が、オーバーサイズを取り扱うのを止めるよう会社に提言したのだろう。まさに会社を救った決断だったと言えよう。それもちゃんと分解して確認したからじゃ。
やはり輸入代理店は、分解清掃、調整が出来る人が商品に対する権限を持っていないとダメだといういい例であろう。



今までは、柔らかいペン先の方が押し書きには難しいと思っていた。ところが、今回、柔いけど弾力がそれほどないペン先で押し書き調整するのに、ずいぶんと手間取った。
もっとインクフローを上げれば調整は楽なのだが、絞った上での調整となると、時間がかかる。
書き味はともかく・・・美しく仕上がった!美しさだけなら沢尻エリカ様クラスかも?
【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1h 修理調整3.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間