2013年02月27日

水曜日の調整報告【 Delta ドルチェヴィータ オーバーサイズ 18K-M 細字化 】

1今回の依頼品はドルチェヴィータ・オーバーサイズ。実は、このオーバーサイズは日本には輸入されていない。
機構かペン芯に問題があり、輸入代理店の担当の方が取り扱わないと決めたという話を聞いたことがある。
当時は、【え〜え、勿体ない!良い萬年筆なのに〜】と残念がっていたのだが、今回、当時の担当の方が何故輸入をやめたのかが良くわかった。
もし輸入していたら、けっこう売れたはず。そしてその後のトラブル対応で、輸入代理店は七転八倒したであろう。このオーバーサイズは明らかな失敗作である。
もし、改良されないまま、海外で販売されているとしたら、メーカーとしての見識を疑う!そうでないことを祈る!
握った感じ、書いた時のバランス、感触ともすばらしく、その部分だけとればドルチェヴィータ・シリーズの最高傑作であろう。ペン芯はエボナイト製で大きく、インクを含む力も大きい。

23これが調整前のペン先。18K-Mのペン先は柔らかく、筆圧を書ければすぐに開いてここちよい。右利きの人にとっては・・・
残念ながら依頼者は左利き。この柔らかさは、押し書きする人には書きにくいだけ。
左利き用の研ぎ方は、右利き用の研ぎとは全く違う。さらにこのペン先は先端部の周囲がプラチナ鍍金されている。これでは斜面を大胆に研磨出来ない。
たとえ削ってくれとお願いされてもやらない。研磨したという記録だけが残り、残忍な壊し屋と後世の人に誤解されてしまう。それは本望ではない。
そこで、腹側のペンポイントの幅を少し狭める程度の調整にしておくことにする。またインクフローをさらに絞り、とにかくインクが乗らない筆記線を目指してみよう。いつもの調整と180度ねらいが違う。

45こちらが横顔。最近の伊太利亜製のペンポイントはどれも良く似ている。ひょっとすると同じペン先製造企業へ発注しているのかもしれない。
ペン芯はエボナイト製で、溝の数も非常に多い。従ってインク漏れの心配は通常に使用であれば、問題ない。では通常の使用ではない使用とは?
それは、胴軸内の直接インクを飲ませ、それに首軸でフタをするという方法。このためにDELTAは、新しいペン芯を使う事にしたのだろう。
すなわち、胴軸内に直接入れた3cc以上のインクに耐えるペン芯を設計した。しかし胴軸を片手で握って暖めると、ほんの数分でインクがペン芯から溢れてしまった。

6今回初めて知ったのだが、このモデルのペン先は、かなり複雑な構造になっている。こちらはソケットと首軸。これならば何の変哲もないのだが、実は恐ろしい事が起こった。
コンバーターはネジ込み式なので、ねじ込むと、首軸先端部からペン先ユニットの先端部が1ミリほどはみ出してしまう。あわててペン先ユニットを押し込もうとしてもなんともならない。
コンバーターを外してから再度ソケットをねじ込むのだが、同じ事の繰り返し。どうなっちまったんだろう。それにそもそもここでソケットが首軸から外れる必要はない。

7このように、ソケットの中には薄い金属板が組み込まれており、これがペン芯とペン先を挟んでいる。
それをさらに首軸にねじ込むという非常に複雑な構造になっているのだが、全てが雑で収拾が付かない。
金属ソケットは回転式で樹脂ソケットにねじ込むのだが、その際にはペン先とペン芯に押し込んでないとねじ込めない。
しかし、ペン先とペン芯だけを掴んで引っ張ってもペン先とペン芯は簡単に抜ける。何の為の金属ソケットか解らない。
きっとこれがあったから輸入代理店の担当の方が、オーバーサイズを取り扱うのを止めるよう会社に提言したのだろう。まさに会社を救った決断だったと言えよう。それもちゃんと分解して確認したからじゃ。
やはり輸入代理店は、分解清掃、調整が出来る人が商品に対する権限を持っていないとダメだといういい例であろう。

8910こちらはチャーチャーで横を削り、多少先端部を平たくし、押し書きに合わせて先端部を研磨した画像。
今までは、柔らかいペン先の方が押し書きには難しいと思っていた。ところが、今回、柔いけど弾力がそれほどないペン先で押し書き調整するのに、ずいぶんと手間取った。
もっとインクフローを上げれば調整は楽なのだが、絞った上での調整となると、時間がかかる。
書き味はともかく・・・美しく仕上がった!美しさだけなら沢尻エリカ様クラスかも?


 【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1h 修理調整3.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
  

Posted by pelikan_1931 at 14:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
師匠、いつも調整ありがとうございます。
私はオーバーサイズの問題点はペン芯のインクのフローが悪くよく息切れしてスキップしてしまうこととどこかで読んだ記憶があります。私のもそうでしたので少しペン芯の溝をさらってようやくスキップが無くなりました。
>胴軸内に直接入れた3cc以上のインクに耐えるペン芯を設計した。
これが問題の始まりではないかと思います。
ガラスのスポイトがついて来てなかなかおしゃれですが全然実用的ではないですね。
Posted by aki at 2013年02月28日 21:23
Mont Peli さん

たしかにAURORAのペン先もペン芯も似たようなのが他社にありませんね。
あのガチガチの書き味には賛否両論あるでしょうが、オリジナリティという面では評価出来ます。
さすがにペンポイントはヘラウス社から購入していると思いますが。
Posted by pelikan_1931 at 2013年02月28日 11:18
現在、イタリアの万年筆メーカーで自社工場でペン先を製造しているのはAURORA社だけではないでしょうか。
ネット文献(2006年6月の同社探訪記事)には、すべてのパーツが内製品で金ペン先もスチール・ニブも自社で製造しているとの記述があります。
同じ年の2月27日の読売新聞掲載のチェザーレ・ベローナ氏との社長インタビューでも「すべてのペン先を自社で作っています」と明言しています。
Posted by Mont Peli at 2013年02月28日 04:40
Mont Peli さん
すばらしい情報です!ありがとうございます。
ここに書かれている会社の全てのモデルのペン先がボック社に製造依頼しているわけではないにしても、イロイロ想像できる結果です。

ああ、あそこやここのもボック製だなぁ・・・というのはペンポイントを見れば想像がつき、おもしろいです。
Posted by pelikan_1931 at 2013年02月27日 18:43
>最近の伊太利亜製のペンポイントはどれも良く似ている。ひょっとすると同じペン先製造企業へ発注しているのかもしれない。

現時点でBock社のサイトをチェックしても、Delta社のnibは同社で受託製造していますね。
http://www.peter-bock.com/content/e417/e506/index_eng.html

公開を認めないメーカーも多いので、すべてリストアップされているわけではないですが。
Posted by Mont Peli at 2013年02月27日 15:59