2013年03月08日

金曜日の調整報告【 いちばん美味しい時代のMontblanc No.146 14K-M 】

1今回の依頼品はMontblanc No.146で1980年代のものと思われる。14Kのペン先でラッパ型首軸と素通しインク窓に樹脂製ピストン軸。実に筆記バランスが良い。
あまり撓るニブでの筆記が苦手な拙者にとっては一番好きなモデル。すぐに最高の調整に持って行けるので、すぐに飽きてしまい、自分の所有期間は極めて短い・・・
このBlogのせいでもあるのだが、最近ではMontblanc No.146やNo.149では部品交換した物が多くなってきた。
オークション市場に出回るものには、ニコイチで完全な組み合わせにした残りの部品を組み合わせたものもある。
拙者はそういうのを狙って落札し、部品取りして完全な一本にするのを楽しみにしている。
何が正しい組み合わせかを知っているから出来るワザだが、正しい組み合わせが良いかどうかは別問題。自分で使うなら金属製ピストン受けは樹脂製に交換している。その方がペンに振られることがない。

23書き味がなんとなくしっくり来ないが、どこが悪いのかはわからない・・・ということでやってきた。
こういう人はもうすぐ発売の趣味文Vol.25の103頁に掲載してある長原幸夫さんの台詞を反芻してみると良いだろう。
自分に合っているかどうか不安だからペンクリに出す。良い萬年筆かどうかの判断を調整師に任せているわけだ。
どういう萬年筆が良いかは自分の経験で決めるしかない。まわりに萬年筆を使っている人が少なくてベンチマーキング出来ないのなら、万年筆カフェやフェンテの集いや萬年筆研究会【WAGNER】に参加すれば良い。
みなさん喜んで自慢の品を試筆させてくれるし、その万年筆にあう持ち方も教えてくれる。基本的には絶滅種に近い人々なので、仲間が増えれば嬉しくなり、いろいろ面倒を見てくれまっせ!

45この萬年筆は調整されている。ただし時間をかけてアジャストメントされているわけではない。スリットは詰まっているが、丸め調整は出来ている。
また左画像のように、ペンポイントの腹が無くなるほど研磨されている。う〜ん、No.146って一般的にこういう調整だったかなぁ?
元の持ち主はかなり寝かせて書く人だったはず。それにあわせてペンポイントの腹だけを削られた。ところが次の持ち主の筆記角度では美味しくない・・・ということで持ち込まれたのだろう。
悪い書き味では無い。ひっかかりもなくインクフローも良いのだが、依頼者の筆記角度では書き味がガサツに感じる。ペン先の美しさと書き味を比較すると不満が生まれる。

6こんなに端正で美しいペン先が、この程度の書き味とは思われない。もっと良い感じに仕上がるのではないか?という期待があるのだろう。
このガサツさはスイートスポットの位置が依頼主と合っていないということにつきる。マイクロスイートスポットを削り込めばすぐに直る。
しかし、この懐かしい書き味を殺してしまっていいのか?最近は美人からの依頼で執刀する美容整形外科医のような心境に陥ることがある。やるの・・・本当に?・・・もったいない!
こんなに綺麗なペン先なら、書き味なんて悪くていいじゃん!ほかに萬年筆いっぱいあるでしょ・・・てな感じ。
自身が持っている萬年筆の全てを書き味の良い萬年筆にするために調整を始めた・・・と豪語していた記憶もあるのだが、人は変節する。拙者も朝令朝改の変節漢。言うこと、書くこと、コロコロ変わる。それを進歩と介錯して下され。

7ビックリしたのがペン先裏側の処理。ペンポイントの根元が抉られている。こういうペン先はVintage萬年筆ではよく見かけるが近代物で見るとは思わなかった。
これまでこの部分を注視していなかったので気づかなかっただけかもしれない。
研磨の結果こうなたとすれば、ペン先先端部の下に垂れ下がったペンポイントと一緒に金も削り取ったと考えられる。とすれば回転式のヤスリか、リューターを使ったはず。
かなり直径が細いもので削った痕跡があるので、おそらくは後者。リューターで削ったのだろう。ということは素人調整。それにしてもかなり上手い。市井の調整人はまだまだ数多くいそうじゃな。

8先端部が丸っこくなっていたので角研ぎに変更した。この方が書き出しの視覚誤差(ピントのズレ)がない。そういえばこの言葉を初めて使ったのは、stand-talkerさんだったが元気にしているのだろうか?
ペン先は少し前に出した。それにしても美しいペン先!No.146とM800のペン先はいつ見ても艶めかしい。良いペン先はすべからく美しいというのは間違いではないなぁ。

10拙者の好みからすれば、ペンポイントの横顔はここまで斜めである必要は無い。しかし元々のペンポイントが研がれ過ぎていたので、この角度にするのが限度。
う〜ん、何だかなぁ・・・と思いながらインクを含ませた萬年筆を紙に落としてみる・・・・完璧!
想像していた以上に滑らかでここちよい書き味!また絶品萬年筆が増えたのは良いのだが・・・
最近、ペンポイントの仕上がりを見ても書き味が想像できなくなったなぁ。老化か、調整本数不足か、根性散逸か・・・きっとボケの影響じゃな。


【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 

Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック