2013年02月04日

月曜日の調整報告【 Parker 75 バーメイル 14K-B 球玉研磨・・・ 】

1今回の依頼品は、萬年筆研究会【WAGNER】で人気上昇中のParker 75。しかもバーメイルの未使用品。20年ほど前、アメ横で35,000円で販売されていた。
当時でもとっくに廃版になっていたはずだが、箱の中にはうじゃうじゃとあった。一本しか買わなかったのが悔やまれるが、そのバーメイル軸は今でも持っている。
おそらくは拙者のコレクションの中でもっとも古い部類に入るだろう。最近Vintageにほとんど興味が無くなったので、Parker 75ですら古い方になってしまった。
頻繁に使用しているとバーメイルはすぐに剥がれてしまう。特にクロスハッチのようなギザギザ軸に施したバーメイルは弱い。ところがこの個体では劣化が一切無い。真の未使用品じゃ。
うらやましい・・・・Parker 75のバーメイルは地味なので写真では純銀軸との区別が難しい。だからこそために掘り出し物に遭遇するのじゃ。

23ペン先はB。しかも球形の丸玉が付いている。溶着している部分を見ると電気溶接のようなので、1960年代のペンポイントではないのであろう。
真ん丸で実に綺麗なのだが、あまりにスリットが詰まりすぎていてインクがほとんど出ない。また球の一点でしか紙に接しないので、書き味も非常に悪い。
それにしてもペンポイントを真上から見た時の球面の破綻の無さは実に見事!球状のペンポイントを金のペン先に溶着したあと、切り割りを入れ、ペン芯に差し込んだままの状態であろう。
これほど美しいペンポイントは初めて。

45なんと横から見ても球状!この球状のペンポイントはどうやって作るのかな?そういえば以前久保工業所で見せて頂いた細字用のペンポイントは全て球状だった。
ひょとすると水銀のように溶けるとまん丸になる性質があるのかな?1980年代のペンポイントはちゃんと研がれていた一方で、1970年代に父が購入したMニブも球型のペンポイントだった。
また【0】マーク付きの首軸がある時代のペンポイントも研いであったように思う。途中の時代だけ、生産性向上のために研ぐプロセスを止めたのかもしれない。
ペンポイントだけ見ると、実に美しくて何時までも眺めていたくなるのだが・・・書き味悪いんだなぁ、これが! ちなみに、拙者ならこういうペンポイントに出遭ったら研がないで保存しておき、別のペン先を購入して使うな。

6こちらがペンポイントを正面から撮影した画像。惚れ惚れするほど美しい。ただし若干切り割りが向かって右にずれている。従って左から右に線を引くと引っ掛かる。
また表面に小さなクレーターのような凸凹が見える。こちらは書き味にはさほど影響を及ぼさないので心配は無い。
以前、デュポン・クラシックのBニブを書いたとき、あまりにザラザラの書き味なので高倍率ルーペで確認したことがある。その時に見えたのは、表面を320番の耐水ペーパーで荒らしたような紋様。
流石に超ザラザラですぐに丸めてしまったのだが、あの時、スリットを開いて書き出し時のインクフローを確保する手法を知っていれば、ひょっとすると丸めないでも使えたかもしれない。
ペンポイント表面のザラザラ感は、インクフローとインクの粘り具合によって消すことが出来る。ドバドバのインクフローの萬年筆にプラチナ・カーボンインクを入れるのであれば、1200番の耐水ペーパーで仕上げた状態でもOK!

7ペンポイントのスリットを開くにはペン先をペン芯から外す必要がある。その場合は、120度くらいのヒートガンでペン先側を2分間ほど炙る。
そしてペン芯とペンポイントの間を、ビニールテープで巻いた先端が極細のペンチで引っ張ると抜ける。ペン先は左画像の赤丸のようにシェラック?で貼ってある。
シェラックは熱すると柔らかくなる性質があるので、それを利用して外す。押し込む際に新たにシェラックを塗る必要は無い。一度外せば次からは引っ張れば抜けるので清掃時に非常に楽!

8こちらが綺麗な球を研磨しまくったペンポイントの正面画像。今回は3方向から見ないとどのように調整したかがわからないのでこの画像を出した。
スリットは0.15ミリの隙間ゲージを強引に押し込むことによって開く。あとでスリットの両側に盛り上がった部分を耐水ペーパーで削り取り、金磨き布でサンドペーパーの痕を消し去る。
また今回は背中側は研磨しないで残して置いた。これは将来別の書き味が欲しくなった場合に、そちらを研磨出来るようにとの意図でそうした。従って桃のような形状をしている。
チャーチャーの粗研ぎした後で、320番、1200番の耐水ペーパーで形状を整え、チャーチャーの仕上げ研ぎ(緑)で研ぎ、その後さらに10000番のラッピングフィルムでエッジを丸めた。
そして、そのあと、TWSBIのクッション用スポンジの上に2500番の耐水ペーパーを置き、筆圧をかけて【永】の字を三個書く。最後に5000番の耐水ペーパーで軽くなぞった状態が左の画像じゃ!

910真上から見ると、ペンポイント先端部が平たく研がれている。これは筆記時のピントのズレ(見た時の書き出し位置と、インクが付く位置の差)を防ぐため。
また横顔ではスイートスポットを削り込み、腹を大きく削り取った。これは球形のペンポイントだと腹のエッジが引っ掛かりやすいからじゃ。
またスイートスポットから左右に多少角度が変わってもペンポイントの外側が引っ掛からないように研磨した。エッジの内側ではなく、ペンポイントの外側研磨じゃ。
これは太字調整では必須のワザ。その究極形が森山スペシャル!筆記角度が変化してもどこもひっかからない・・・でも字幅は若干狭くなる。
今回は、縦書きをする場合と横書きをする場合の両方に合わせてペンポイントを研磨しておいた。この研ぎ方であれば、よほど変な書き方をしない限りはインクがヌラヌラと出てくるであろう。
時間はかかったが良い状態に仕上がった。でも、球型のペンポイントをこの状態に研ぐのは今回が最後にしよう。あまりにもったいない!出来れば球状のまま保存した方が良いと思うなぁ。


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 11:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
Mikeさん

今度、丸玉を見せて下さいね。
Posted by pelikan_1931 at 2013年02月07日 04:50
さにうさん

引っ掛かりは紙に当てたときの上下のしなりとも関係します。
筆圧で左右にスリットが拡がる場合と、上下にしなる場合、その両方の組み合わせによって感じ方が違います。

上下撓りの大きいMontblanc No.14などでは引っ掛かりをほとんど感じません。引っ掛かり部分が逃げていくような感じです。

またインクフローが多ければ筆圧が下がり引っ掛かりは感じません。

どうも歯科のかみ合わせの世界と言うよりも、心理学の世界に近いと思います。
Posted by pelikan_1931 at 2013年02月07日 04:49
 球形になるのは、表面張力が働くからです。物理的には当然のことだと思います。半田も溶けたら球形になりますし。Hgが球形になるのも全く同じです。

 ペン先が球形のものは、B、M、XFと持っていますが、どれも使わず取ってあります。XFは数があるので、調整してもらって使ってもいいかなと思っていますが。確かに見た目はいいんですけどね。このゴリゴリした感じがいかにもパーカー75って感じもするんですが。
Posted by Mike at 2013年02月06日 20:16
正面から見たペンポイントは実に美しいですね。

これを見ていると、切り割りがズレていない場合でも、右に書いても左に書いても引っかかるように思えるのですが、そんなことはないのでしょうか。
Posted by さにう(8771) at 2013年02月06日 16:00
Xantosさん

現在、タッチダウンやスノーケルのサック交換はやってません。細いサックが手元に無いので・・・
Posted by pelikan_1931 at 2013年02月04日 16:47
お手数をおかけしありがとうございました。10日の元町大会の折に頂戴いたしたく、以前お願いしました「茶軸」のほうと合わせてよろしくお願いします。
楽しみにしています。
また当日シェーファーのタッチダウン・インクサックの交換をお願いしたくよろしくお願いします。
Posted by Xantos at 2013年02月04日 13:24