
今回の生贄は今までに見たこともないモデル。Montblanc No.138に純銀の鎧を着せたジュエラー・モデルらしい。
画像ではキャップを後ろに挿しているように見えるが、実際に挿す事が出来ない。撮影時の転がりを固定するためにキャップを添えているだけ。
キャップトップは変色していないが、尻軸は変色している。これは尻軸の素材がエボナイトであることの証明。これにはビックリ。
1950年代のNo.14Xはキャップトップも尻軸もセルロイド製であったはずだ。その前の世代のNo.13Xには尻軸がエボナイト製のものもあったのかな?
もし尻軸がエボナイト製のNo.13Xをお持ちの方がいらっしゃったらコメント欄に連絡をいただきたし。
キャップを後ろに挿さないで書いたときのバランスは、まるで夢のよう。ただしこの個体はまったく使える状態にはない。



まずはペン先先端部がメチャクチャに波打っている。これではインクが先端部に導かれる前に途切れてしまう。
これは画像で見るよりもはるかに大きな波打ち。しかもペン先の弾力があるので簡単には直せない。
それとペン先はNo.138の物より小さいような気もするのだが、こちらは確認のしようがない。
なんせNo.138は1939年と1940年にしか製造されなかったはず。 それのジュエラー・モデルであれば、ますます本数は少ない。その当時に作成されたのか、あるいは、戦後になって古い軸を使ってリメイクしたのか?

ペン先を外してみるとそこには【146】の刻印が!少なくともペン先は1950年代のNo.146から移植したことは解った。
問題は大きさ。拙者はNo.136とNo.138のペン先の大きさが同じか、No.138が若干大きいのかは知らない。
またNo.136とNo.146のペン先の大きさも同時に比較したことはないのでよく解らない。このあたりをご存じに方からの情報もお願いしたい。
このblogに萬年筆情報へのIndexを残したい!でも本音は自分自身の備忘録。昨日も過去記事を1時間ほど読んでいたが、既に忘れてしまっていた情報を発掘し、大喜び。
ペン先の根元の加工が手作業のように雑だが、これはNo.146のペン先を、No.138に押し込むための加工なのか?
はたまた、このベースモデルは本当にNo.138なのか?そこまで疑い始めると・・・・てな感じだが、なんせ初めて見るモデルなので興味は尽きない。

まったく吸入しないので、分解し、アスコルビン酸水溶液の中で徹底的に洗浄したのが左画像。無色のセルロイド軸を削り、そこに純銀細工の鎧を被せてある。
仕組みはNo.13X系とまったく同じで、ピストン・ユニット毎左に捻れば外れる。今回は鎧が空回りするので外すのに苦労した。
接着剤が温度変化と経年変化でまったく効かなくなっている。金属とセルロイドという性質の違うもの同志を接着剤で止めるというのはやはり無理なのかな?
この筒の内径なのだが、1950年代のNo.146よりはかなり大きいが、No.149よりは小さい。じゃ、コルクはどれを使うかなぁ・・・。
通常、1950年代のコルクは、ピストン軸に取り付けた状態では内径よりも太くなってしまう。それを丹念にペーパーで研磨してから使う。
今回、試しにNo.146用のコルクをセットしてみると、研磨無しでちょうど良いことが判明。
また胴軸と鎧の間には靴修理用の
シューグーを薄くのばし、70%くらい乾燥してから鎧を押し込んだ。これでカラ廻りはなくなるし、完全固定もされない。まさに、
グー!である。

これはピストンユニットの金属部分に刻印された925の刻印。てっきりジャーマンシルバーだと思っていたのでビックリ。
ちなみにキャップにも同じ刻印が入っているが、クリップには925の刻印はない。
第二次世界大戦直前の独逸で、このような純銀製の鎧を着たモデルを作れるわけはない。しかしクリップはまぎれもなくスネーククリップ!

まさか、Montblancの了解なしにこのクリップは作らないだろうから、クリップに関しては純正品か?
はたまたMontblancの了解を得て、戦後にジュエラーが作った物か?あるいは加工用にMontblancが製造して出荷したものか?
スターリングシルバー製のクリップでは耐久性がないので、おそらくは銀の含有率が925以外か、あるいは銀以外の金属を使っているのか?
このクリップには銀特有のくすみが一切無かった。磨いたのではなく、拙者に預けられた時からこの状態だった。
とはいえ銀鍍金でもない。クリップの裏側やエッジなど凸凹面も多く、そういう場所には鍍金がかかりにくく、剥がれやすいのだが、そこいらも完全な銀一色!このクリップも素材の見当がつかない。

まずは、シリコングリースを内部に塗り、その上にコルクの両面をペーパーで削って幅を薄くしたコルクを挟んで固定して軸に押し込み大きさを確認する。
次にイボタ蝋を削ったものを大きいスプーンにいれ、それをガズの火で炙ると溶けて液状になる。それが固まるまでの数秒の間に作業を終える必要がある。
それはテレスコープを最大に伸ばした状態で、溶けた蝋の中に、さきほどテストしたコルクを外して放り込む。
そしてしゃぶしゃぶをお湯に浸す時間程度の泳がせたらでピンセットで挟んで外す。そしてそれを再度テレスコープにセットする。
それにさらにシリコングリースを塗ったのが画像の状態。シリコングリースを内部に塗ると、それがワセリンのようにインクを防ぐので、内側の隙間からインクが後ろに回るのを防ぐことが出来る。
コルクの外側にシリコングリースを塗るのは、最初に押し込む際にコルクが軸内の凸凹と擦れて削れるのを防ぐため。また塗る塗らないでピストンの動きのスムーズさが天と地ほども違う。
日常メンテナンスとして、半年に1回くらいはコルクの表面にシリコングリースを塗っていると、インクが後ろにまわる現象はずいぶんと先延ばしできるはずじゃ。

こちらが調整したペン先先端部の状態だが、ほとんどボケている・・・。インクに浸して書いてみると、あれ、1940年代かい?という書き味。
1940年頃に作られた軸に、1950年代のペン先を付け、鎧を被せた・・・のだとすれば、1950年代の書き味のはずなのだが、書き味はNo.136にそっくりで、No.146とは明らかに違う。不思議じゃ・・・
ひょっとすると筆記時35gという重さが書き味を変えてしまったのかもしれない。
軸の重さと筆圧と握る位置と重心位置とインク粘度と接紙面積とインクフローと・・・・数多くの変数の一個が変わっただけで書き味が格段に変わってしまうことがある。
まだまだ調整術は、その入口に来ただけの状態かもしれない。これをはやく科学に仕立て上げて欲しいものじゃ。だれか論文にしないかな?
【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間