2013年03月04日

月曜日の調整報告【 Pelikan Rappen 14K-F 弓折れ矢尽きた状態からの復活 】

12Pelikan Rappen はPelikanで最初に作られた安価ラインであると思われる。製造期間は1932〜1945年だがほとんどが戦前の製造のはず。
今から15年ほど前にはMintに近い状態の物が残っており、英国のサイトから一本3万円で2本購入し、一本をフェンテにカンパしたところ、
高い競争率の中で、世界のコレクター氏が購入権を得る抽選に勝ち、入手されたとか。やはりコレクターの執念は勝利を引き寄せるのじゃな。

修理したのを含めても、拙者の生涯で5〜6本しか出遭っていない萬年筆だが、Rappenのマークの残り方は今までで一番綺麗!
だが、軸の状態は最悪。普通なら捨てるよなぁ・・・という状態。軸はクラックだらけで、そこからインクが壮大に漏れる・・・というかそもそもインクが吸入出来ない。
ソケットを外し、首軸先端部を指で塞ぎ、尻軸側を口にくわえて息をを吹き込もうとすると・・・通常ならほっぺが丸くはなるが空気は吹き込めない。
ところが、今回の軸では、ストローを口にくわえているかのように、スースーと空気が抜けていく。なんじゃ、こりゃー?の世界である。まるで自然呼吸しているかのようにスムーズ?に空気が出て行く。

9良く見ると、長いクラックが尻軸のブラインドキャップのネジ部分から首軸のネジの部分まで入っている。
その他にもクラックの前兆はいっぱいあるがとりあえずは空気抜けは、このフォッサマグナただ1つ!
画像で見るとヘアラインとしか見えないが、肉眼で見ると大断層。特に首軸側ネジ部分のクラックが酷い!
普通ならご臨終として扱うのだが、過去に同じような事例で修理に成功したことがある。フェンテのでべそ会長の1950年代のNo.144だったかな?
インク窓の部分に大きなクラックが出来ており、インク吸入が出来ない状態だったのを復活させた実績が、このRappenを捨てるのを思いとどまらせてくれた。

3456ペン先の状態はそれほど悪くない。強筆圧の人に酷使されていたとみえてかなり書き癖がついている。
しかし、その昔に拙者が惚れた柔らかい書き味は健在。小さなペン先の弾力は大きなペン先のそれと違って反応が早くて小気味良い。
Swan のブラックバードも同じような感じだな。ペン先が薄くて、小さくて、柔らかくて、弾力のあるペン先は、嵌まると抜けられなくなる。

7このRappenの吸入機構は、尻軸内部の小さなゴムサックをピコピコと押すとインクがペン芯に挿した管から登ってくる方式。
これは胴軸内に大量にインクを保持する方式としては最良のもの。Pilotのコンバーター70はこの発展型だと思われる。

8こちらは抜いて清掃を施したペン先。なんだがスリットの向きの延長上に根元側の中央がこないというアンバランスというか、いい加減さ。
作られた時代の後半は第二次世界大戦。ということは後期には白ペン(CNニブ)付きのRappenがあったかもしれない。
相当柔らかいよなぁ・・・といじってみたが、ペン先単体ではそれほど柔らかくなかった。むしろ、ペンポイントの素材の悪さを指が感じ取ってしまった。
字を書いてみてわかるのは、ハート穴から先が柔らかいのではなく、ペンポイントから2〜3个世韻ピコピコと反応している感覚。
ところが筆圧に強弱をつけている状態を真横から見ると、ハート穴の直前までが筆圧に反応して上下している。
筆圧でペン先は左右にも開くが、上下の動きもかなりある。この両刀使い?が結果として面白い書き味を演出しているのかもしれない。出来ればCNニブで味わいたいなぁ。CNニブの弾力の方が面白いからな。

910右側が修理後の画像。分かりやすいように修理跡を残したままにしてある。
これは修理方法を後世に伝えるには最善の方法じゃ。
修理手順を残すという発想の修理は今まで見たことがない。世界初かな?
直し方は簡単。左側画像の状態でクラックの上に【アロンゆるみ止め】を厚く塗り、尻軸側の先端部を指で押さえて、首軸を口に加え、息を吸う。そうすればアロンゆるみ止め液がクラックにすっと入っていく。この状態で一晩経過すれば、クラック内部でクラックの両側の樹脂が溶けてクラックが塞がれる・・・と理解している。
この方式を週末の萬年筆研究会【WAGNER】で披露したら、【アロンゆるみ止めに入っている成分は猛毒】とか【発がん物質が入っている】とか非難囂々だった。
従って若くて将来のある若者は真似しないようにな。拙者のような世捨て人には、そんなの関係ねぇ!。大きなクラックを直すには一番の方法だと自画自賛している。
このあとサンドペーパーで盛り上がった接着剤を削り取れば綺麗になるが、今回は修理の痕跡を残すことを目標としたので、あえて残している。
将来他にあるクラックが深刻化したらどうするか?その場合は、クラックの上にマニキュアを塗れば良い。すぐに剥がれてしまうが、すぐに修復できる。こうやって修理しながら使うのも一興じゃよ。


【 今回執筆時間:6時間 】
 画像準備2h 修理調整3h 記事執筆1
h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 

Posted by pelikan_1931 at 11:00│Comments(7) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
手元に'The History of Montblanc'というタイトルのネット文献のプリントがあります。(調べてみたのですが、サイトのURLがわかりません)
Montbnlanc社の創業者の一人であるClaus Johannes Vossの家督を相続した令嬢Carlaがまとめたと思われる回想録仕立てのものです。
それによると、1930年代初めの頃は両社の蜜月時代で、ペン先とインクを相互に融通し合って良好な信頼関係にあったことが記されています。
この関係は、Monblanc社がPelikan社の許諾なく独自にピストン吸入機構のモデルを発売したことでこじれて長続きはしませんでしたけど。
Posted by Mont Peli at 2013年03月05日 07:49
 おぉ、ぽちさんさすが。確かに塩素系溶剤は特有の臭いがしますからね。化学屋の視点としては100%同意です。

 実験器具の洗浄にトリクレン(トリクロロエチレン)を使っていましたが、当時から法的にも使えなかったはず。洗浄力は良くても危険という諸刃の剣ですからね。

 万全を期すにはドラフト内で、しかも器具を使って皮膚暴露しないのが一番でしょうが、実際にゆるみ止めとして使う人はその辺こと考えてるとは思えないですねぇ〜。
Posted by Mike at 2013年03月05日 01:29
師匠、
いつも面倒な修理をお引受けいただき、剰え今回は危険な作業までして頂き、誠にありがとうございます。使ってみて不具合が出たらだましだまし直して使っていきます。
ちなみに私はホールピペットでホウ酸水を口の中まで吸ってしまったことがあります。
Posted by aki at 2013年03月04日 20:04
ぽち さん

ラリるほど吸ったらまずいでしょうねぇ。
力いっぱい吸入するのではなく、圧力コントロールしながら吸うし、気管支までは入れません。
ま、ガラスを吹いて作る人の逆のような・・・伝統芸能です。といっても4回くらいしかやってませんが。
Posted by pelikan_1931 at 2013年03月04日 18:29
Mont Peli さん
ズバリの画像ありがとう!
最初、Google Chrome で読もうとして断念しましたが、IEでなら読めました。
なんとIBISにはCN仕様があるが、RappenにはCN仕様がないと判明!

OEMペン先とすれば、OEM先はMontblancかな?当時のMontblancインクはPelikan製、Pelikanのペン先はMontblanc製と言われていたらしいので。
Posted by pelikan_1931 at 2013年03月04日 18:26
アロンゆるみ止めは正式に内容は公表されていません(企業秘密)が、
臭いから判断すると、たぶん、主成分としてメタクリル酸エチル、
溶剤としてジクロロエタン、トルエンが使われていると思われます。
これらは発ガン性が疑われる物質であり、吸入すると、呼吸気道及び肺を
刺激し、気道粘膜の炎症と肺水腫を起こす可能性があります。
師匠のような方法で万一、口に入ったりすると、口や食道などの
粘膜を侵してしまう可能性もあり、大変危険です。
ゴムサックのような物をくっつけて吸引するとかした方がいいですよ。
また、これらは最近の万年筆軸によく使われているアクリル樹脂を
溶かす力が強く、もともと樹脂を少し溶かして融着するものですので、
光沢のある表面が侵されてざらざらになってしまうことも考えられます。
使いすぎると樹脂が膨潤し、新たなクラックを作ってしまう可能性も
ありますので、使用は短時間で、ごく少量がよいと思います。
ご参考までに。
まー、だいたい有機溶媒、特に刺激臭のあるもので体に悪影響がないもの
はほとんどありませんw
ほら、一番身近な有機溶媒の悪影響はよくご存じでしょ?w
Posted by ぽち at 2013年03月04日 16:23
このRappen nibは、Pelikan社が自社工場でペン先を製造開始(1934年)する前の外注品で珍しいものですね。(1934年の内製品のニブからRappenの刻印が入りました。)
このニブが最初期のもの(1932年-34年製)であることの裏付け資料は、
http://www.pelikan-guide.com/Rappen.html
Posted by Mont Peli at 2013年03月04日 13:06