この萬年筆には正式名称があったはず。アマゾネスだったかな?ただ、依頼主がモデル名を【カエルちゃん?】としていたので、プラチナ・ケロリンと呼ぶことにした。
たしかにカエルの皮のように見える。似たようなので緑の軸を持っていたはずだが、とっくに行方不明。
この軸、とにかく握りやすい。滑らず、ピシーっと握ることが出来バランスも良い。これまで気付かなかったがこれは名品ですな!
首軸にもプラチナ・プラチナもどきの象眼があり実に麗しい形状をしている。しかもペン先は細軟ときた。なんでも近所の時計屋さんで売ってたらしい。
そういえば昔は時計屋さんやタバコ屋さんでも萬年筆を売っていた。そういう店が地方には残っているんだろうなぁ・・・うらやましい!
よく見ると、スリットの両側が醜く盛り上がっている。こういうのはナイフでスリットをこじ開けようとして失敗した場合に発生する。
調整内容記入用紙にも、正直にイラスト付きで説明が入っている。カートリッジを装填して書いている際、インクが出なくなるということらしい。
こういう場合はスリットではなく、空気の経路に問題があるケースが多い。インクフローの向上=ペン先スリット巾拡大ではありませんぞ!
ペン芯とペン先を分離しないまま、ナイフを上から差し込んでガシガシ擦ると、ペン芯を傷つけてよけいにインクが出なくなることがあるので絶対にやらないようにな。
昔はたまにペンクリでやっているのを見かけたが、さすがに今では誰もやらないはずじゃよ。
このようにペン先はペン芯に食いつき、ペン芯はしっかりと首軸に固定されているので、ペン先が分離できないように見えるが、そんなことはない。
昔の萬年筆は分解して修理しながら使うべく設計されていたので、かならず分解は出来る。少なくとも日本製はできるはず。最近の物にはダメなのもあるが、昔のモノならまず大丈夫じゃ。
首軸を固定して、金属部分を左回しで捻れば、左画像のように分解できる。この金色の金具が行方不明になりやすいので気を付けるように!
またペン先はペン芯を挟んでいるだけなので、後端部のポッチを爪で前に押すようにすれば、スポっと外れる。
それにしてもずいぶんと粗悪?な樹脂を使ったペン芯だなぁ・・・。実は考えに考え抜かれた設計のペン芯らしいが、加工が難しく、ムラも多かったのであろう。この事例のように・・・
こちらは、外したペン先のスリットを拡げ、サンドペーパーでスリットの両側の盛り上がりを取り、最後に銅磨き布で擦って表面をピカピカに磨き上げたもの。
ペン先の根元に小さなJISマークがある。こういう見えない所にJISマークを刻印する意味は何だったのだろうか?
さらに・・・こんなペン先ごときをJISで標準化する必要性があったのだろうか?規制過剰時代だったのかな?現場を知らない人が作った標準に何の意味があったのだろう?
樹脂製半透明のペン芯を眺めているうちに、筒の中にエボナイト製の棒が入っていることがわかった。しかもスリットが入っている。
しかもそのスリットが異常に浅い。そしてそのエボナイト製棒の外側に空間があり、ここを空気が通っていることがわかった。
どうやら、エボナイト製の棒の溝が浅く、インクがうまく流れないのであろう、なんと空気穴ではなく、インク通路の問題であった。(空気穴という)決めうちはいかんなぁ・・・。
そこで、苦労してエボナイト製の棒を引っぱり出し、溝を深く彫った上で、再度筒に押し込み、カートリッジを装填して試し書き。
左はWAGNERのB5原稿用紙いっぱいに絶え間なく線を引き続けた結果。
これだけ連続して線を引いてもインク途切れは無かったので、少なくとも、プラチナの黒のカートリッジであれば、問題なく書けることがわかった。
それにしても、この細軟のペン先の書き味はいいなぁ・・・
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整2h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間