2013年08月30日

金曜日の調整報告【 1950年代 Montblanc No.144 14C-F 吸入不良 】

1今回の依頼品はフェンテでべそ会長からのもの。ペン先調整は以前に拙者がやったのだが、今回は吸入不良の修理依頼。
1950年代のMontblancが大好物なでべそ会長だが、とりわけNo.144がお好きと聞いたことがある。実は拙者も同意見。No.144 > No.146 > No.142 > No.149 というのが現在の序列。
ただし修理の観点からは問題もある。今回はそこを掘り下げてみたい。いずれにせよ持ったときのバランスがNo.14Xの歴史上最高なのは1950年代No.144じゃな。

2345ペン先は以前に拙者が調整したときとほとんど変わっていない。そういえばでべそ会長は絶対にペン先を自分ではいじらない。
しかしこうやってずいぶん以前に調整したペン先を見ると、少し恥ずかしくなってくる。
今ならこういう仕上げにはしないなぁ・・・という部分も多い。見栄えだけなら左から2番目画像のペンポイント先端部は、もうすこし揃えておきたい。
でべそ会長は縦書きされる際に独特の握り方をされる。1行目、2行目、3行目を書く時の萬年筆を持つ位置が異なっている。
でべそ会長はインクが紙に盛り上がるようなインクフローが好み。従ってなかなかインクが乾かないため、(紙を擦らないように)だんだんと萬年筆を握る位置を後退させながら書くのじゃ。
この場合、マイクロスイートスポットを三点埋め込む必要があり、独特の調整が要求される。拙者はフルハルター森山さんでべそ会長用に編み出した調整方法を参考にしている。
でべそ会長は、この状態に大変満足されているようなので、極力書き味は変えないように、少しだけ見栄えを良く調整しておこう。この状態が拙者の今の実力と思われるのはちと癪なので・・・

6No.144の首軸は少しだけヒートガンで炙れば直ぐに外れる。No.146やNo.149のように四苦八苦しなくてもよいのは助かる。
外して見ると、ああこりゃダメだわ・・・というくらいにインクが後ろに回っている。原因はコルクの収縮とと摩擦による劣化であろう。
なんせでべそ会長は萬年筆のヘビーユーザーなので吸入回数も飛び抜けて多い。耐久性の低いコルクでは数年で劣化してしまうのはあたりまえ。

78左側は尻軸付近の汚れ。ここが汚れるということは、コルクから後ろへ回ったインクがテレスコープの機構の中を通って尻軸の穴から出ていることを意味する。
従ってテレスコープはドロドロに汚れているはず。逆にここが汚れていなければ、インクは後ろに回っていないと考えてよい。
右側画像は胴軸から出たコルクと、それを固定するネジの状態。コルクは先端部がすり減っているし、ネジとコルクとの間に隙間が出来ている。
この場合、この隙間からインクが後ろへ回る場合もあるので、ネジはキッチリと締める必要があるが、これは仕組みを理解していないとなかなか難しい。
また、ある程度以上のトルクをかけてネジを回すと、テレスコープ機構がネジといっしょに廻り、いつまでたっても締まらない事がある。この場合はマイナス・ドライバーを使った裏技を施すのじゃ。

9こちらが修理前の胴軸内の状態を再現した画像。想像どおりテレスコープ機構はインクでドロドロ。コルクとテレスコープ機構の間にも隙間がある。
これはでインクはダダ漏れ!まずは超音波洗浄機にアスコルビン酸を溶かした75度のお湯を入れてテレスコープ機構を放り込む。
するとテレスコープ機構のあらゆる隙間からモクモクとインク滓が入道雲のように出てくる。そして最後までインクが出るのが尻軸下の穴。ここからインクが出なくなれば洗浄終了じゃ。

10こちらが洗浄終了したテレスコープ機構にOリング、コルク、ネジの順番で嵌めた状態。もちろんこの状態では胴軸には入らない。胴軸内の状態を再現しただけじゃよ。
本来ならコルクのかわりにOリングを使いたかったのだが、No.144の内径に合うOリングがJIS規格にない。
現在、いくつかの代替Oリングを発注中で、もし使える物があれば、コルクはOリングに替える予定じゃ。
それが成功すれば、No.142〜No.149までの全ての1950年代No.14Xの修理にOリングが使える。あと一週間で結果がわかるはず。楽しみじゃ!


 【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1.5h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間 


Posted by pelikan_1931 at 11:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック