今回の生贄はkugel_149さんからのもの。ペン先に pf 刻印があった時代の18C-3Bニブ。拙者には柔らかすぎて使いこなせなかったが、軟筆好きにはたまらない書き味であろう。
今回持ち込まれた理由は、筆記時にまったくインクが出ないということ。といっても空気が入らなくて出ないわけではなく、ペン先とペン芯との間に広い隙間が出来て、それでインクが途切れてしまう。
こうなってしまった理由は、未調整のまま3Bのペン先を使おうとしたから。ペンを寝かせて持つ人には、3Bニブは未調整では使えない。特にM1000の3Bは絶対に無理!
書き出しでインクがうまく紙に乗らないので、ついイラっとして筆圧が高くなってしまう・・・そういう事をくり返していてペン先とペン芯の間が開いてしまった・・・といった理由であろう。
M1000ではソケットにペン芯を押し込む位置は一箇所しかない。そしてM800と違ってソケット穴の一番奥までペン芯を押し込んでおかないとペン先とペン芯が離れやすくなる。
実は、コストカット穴が出来てからのM800のペン先にもこの傾向がある。M800にはソケットに浅い穴と深い穴があり、拙者は浅い穴にペン芯を押し込んでいた。
ところがM800茶縞で、そのような改造を施したモデルに今回と同じようなトラブルが頻発したため、現在では浅い方の穴へはペン芯を押し込まないようにしている。
右側画像を見ると、スリットはやや開きすぎている。まぁ、普通なら問題ない程度なのだが、ここまで柔らかいペン先の場合はもう少し開きが弱い方が書き出し時のインク切れ確率は減る。
こちらは横顔。これをみれば何故インクがまったく出ないのかわかるであろう。ペン先とペン芯が大きく離れており、ペン芯先端部に導かれたインクがペン先に導かれない。
この隙間は筆圧によって出来てしまったものなので、ペン先の反りを減じる必要がある。それには当然ペン先とペン芯をソケットから取り出しての修理となる。
そしてペン先を曲げるのに使う工具は・・・親指と人差し指。こんな柔らかいペン先にツボ押し棒など使ったら、取り返しが付かないほど曲がってしまう。
それに加えて、ペンポイントを前から見ると、これほど大きな段差が出来ている。これでは書き出しが縦線であれ横線であれ、インクは紙に誘導されない。
まずはペン先を指で曲げ、ペン芯先端部はバランス良くペン先と密着するよう、ペン芯の先端部を平たくした。
スリットは少しだけ閉じる必要がある。そしてペン先が腹開き気味になるまで、少しずつペン先を左右に反らせていく。この作業には非常に神経を使う。
こちらがソケットから外し、ペン芯と分離したペン先。先ほど述べた手による調整を施した後の画像。
M800ではPF刻印付の方が姿形が美しいが、M1000ではどうなのかなぁ?このM1000はPF刻印付で美しい。PF刻印なしのM1000のペン先は多少猫背?
もしそうだとすれば、このペン先とペン芯が離れる現象を防止する目的で(猫背に)変わったのかもしれない。
こちらが調整後のペン先先端部。調整前より若干ペン芯を前進させた。これはペン先が反るのを押さえるのも目的のひとつ。
スリットは若干細くするものの、十分な書き出し時のインク吸入が保証される程度に拡げてある。
また、わからない程度に角張ったペン先のコーナーも丸めてある。これは(想定内の)どのような筆記角度で書き出しても、ペンポイント先端部のスリットが紙に当たるようにするため。
こちらが横顔。ごらんのようにペン先とペン芯との間の隙間は消えた。pelikanのペン芯設計では、ペン先とペン芯とはソケット部分と先端部でしかペン先と密着していない。
これで大丈夫なのかと不安になるほどペン先とペン芯はハート穴当たりでは離れている。これは空気をハート穴部分から取り込む設計だからであろう。
Watermanなどでは空気吸入にハート穴を利用しない(というかハート穴自体が無い)モデルもある。
先端部は依頼者の筆記角度に合わせて大きく削りこんだ。仕上げ前の状態でインクを含ませて書いてみる。もはや【完璧】という以外に言いようのない書き味になった。あとは、これがどこまで調整戻りするかがポイントかな?
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間