2014年08月18日

月曜日の調整報告【 1980年代 Montblanc No.146 14K-F ひん曲がったペン先 】

1今回の生贄は、ある一点を除いては実に状態が良い。こういう個体に巡り会うのは滅多にない。特に御陀仏寸前の物が集まりやすい当調整講座ではなおさらじゃな(笑
ブツは1980年代中盤のNo.146でペン先が14Kのもの。拙者が最も好きな時代のNo.146。柔らかいペン先は筆圧の低い者が使いこなすのは実は難しい。
ペン先がフニャフニャしなくてインクフローが良いペン先を使うのが、長時間筆記のコツ。柔らかいペン先は筆圧の強弱を付けながら芸術的な字を描く人向けだ・・・というのが拙者の意見(負け惜しみかも?)
ペンポイントの紙への当たりのことを言っているのではなく、ペン先がすぐ開く・・・という意味での柔らかさですぞ!お間違いなく。その点、この14Kの金一色ペン先は拙者にとっては最高!

23このNo.146の唯一最大の欠点は、向かって右側のペンポイントだけが大きくひん曲がっていること。しかも曲がり方がかなり複雑なのじゃ。
右に折れているようにみえて、実は上にも反っている。どうしてこういう状態になったのかを想像するのは非常に難しいなぁ・・・
狙って片側だけ曲げられる腕があるのは漫画のゴルゴ13くらいしかいまい。萬年筆研究会【WAGNER】会員番号13番のゴルゴさんでは真似出来ない。

45どうやら右側のペンポイントの腹側だけからかなり強い力を受けていると思われる。これは落下による事故ではない。
萬年筆を洗って水切りしようと思いっきり振った時に曲がったのだとしたら・・・右利きなら手に怪我をしているかもしれない。左利きなら・・あり得ないだろうな。
1950年代のNo.146なら天冠の内側に接触して捻られ、こういう状態になる事はあるが、1980年代のNo.146ではありえない。経験者はどうしてなるのか教えて欲しい。

7胴軸を分解して軽く洗っただけでここまで綺麗になった。内部は新品同様の状態。ペン先だけに問題があるだけ。
幸いなことに、14金製のペン先であれば、なんとか痕跡を残さずに直すことが出来る。18金製、特に18Kだとバイカラー鍍金が邪魔して綺麗に戻らないのだが、金一色の14Kならなんとかなる。
18Cのような柔いペン先は衝撃を受けると簡単に曲がる。そして伸ばそうとすると、かえって複雑に曲がる。結果、波打つようなぺん先になってしまいがち。最後は表面を削って平面を作るしかなくなる。

86左画像は少し汚れていたインク窓を綺麗にするために重曹を沸騰させて入れて清掃した後。重曹は茶渋除去、ポット洗浄はクエン酸だが、いわゆる汚れに関してはなんでも効きそうじゃな。
右側は曲げを直し、表面を金磨き布で拭いて光らせ、スリットを少し開いた状態にしたペン先。まだペン先調整は施していない。
最後の微調整は首軸にペン先とペン芯をセットしてから行うのが基本。
特に衝撃でゆがんだペン先の場合は、ペン芯のカーブとペン先のカーブに狂いが出て、きっちりとセットしたつもりでも、大幅な段差が出来ることもある。

910今回のペン先の曲がりを戻すには二つの方法を用いた。最初は先端が細く挟むところにギザギザの無いヤットコで左右の位置だけをそろえる。
この段階では上下の段差は残ったまま。次に豆鎚で上下の段差を直す。木のブロックにペン先を置き、小鎚でコンコンと叩きながら段差をなくすのじゃ。
以前はツボ押し棒でやっていた作業だが、小鎚でコンコンとやるコツをつかんでからはもっぱらこちら。生産性が遙かに高い。
ペンポイントを微調整し、インクをつけて書いてみる。ああ、コレコレ!これこそが1980年代中盤の14Kの書き味だと納得!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
    

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック