2015年05月20日

水曜日の調整報告【 Waterman Red Ripple No.52 14K-F 吸入不良修理とインクフロー改善 】

1今回の依頼品は、(今度こそ)Waterman の Red Ripple。まさに赤いエボナイトに黒いエボナイトが波紋のように浮かび上がっている。実に綺麗!
調整票によれば、2008年1月に購入し、しばらくは吸入していたが、最近インク吸入しなくなったのと、ボタ落ちが激しくなったとのこと。
この症状は明らかにゴムサックが劣化して破れた時の物。インクを入れたままで長期間放置すると必ずこうなってしまう。
もっともゴムサックもエボナイトもゴムから出来ているので、ひっついていれば同化してしまう事が多い。根本的に直すのなら、ゴムサックはやめてシリコンのサックに交換するのがよかろう。

2345ペン先の寄りは強烈でそう簡単にはインクが出ない。
これは見てもわかるようにペン先が異様にお辞儀しており、そのせいでペン先が内側に強烈な力で寄っているのじゃ。
この強烈な寄りを直すには、ペン先のお辞儀を弱め、スリットを少し開くしかないだろう。

6こちらは苦労して胴軸から首軸を抜いたところ。サックはベトベトに溶けており胴軸内部にこびり付いたゴム破片を取り除くのに2時間以上かかった。
熱湯に浸ければゴムが硬化して取りやすいのだが、そうすれば軸のエボナイトも強烈に変色してしまうのでそうはいかない。
このねっとりとしたゴムが接着剤の働きをしており、胴軸から首軸を抜き出すのにも、30分以上かかった。これほどヒートガンを長時間使ったことはないなぁ。

7寄りの状態を正面からTG-3の深度合成で撮影した物。スリットはたしかに詰まっているが、あれほどお辞儀させていても腹開きにはなっていない。
ということは、ペン先のエラを寄せた上で先端部をお辞儀させたのだろう。ということは目的はただ一つ、インクフローを絞って紙に滲まないようにすること。
すなわち、インクフローを良くして欲しいという依頼者と正反対の調整がなされているのじゃ。

8こちらがペン先を首軸から抜き取り、綺麗に清掃してからお辞儀を直し、スリットを少しだけ拡げた状態。
お辞儀を直す方法は、堀切の久保さんの真似をして小鎚で背中側をコンコンと叩いて直す。力加減がわかれば大体は成功する。
それにしても往年のペン先ってのは刻印だらけだなぁ・・・。刻印が多いとペン先は硬くなりがちなので、最近は刻印を少なめにするメーカーが多い。
しかし、それはある程度の肉厚のペン先に対してやる加工で、この時代の薄いペン先を無刻印にしたらフニャフニャ過ぎて困るかも知れないな。
それを考えた上で文字刻印だらけにしたのなら脱帽するが・・・どうなんだろう?
まぁ、過去に拙者の新説だぁ!・・・とはしゃいだ事が戦前の萬年筆と科学に掲載されていたという笑い話もあるので無いとはいえない。

910こちらが調整後のペン先。お辞儀を弱め、スリットを少しだけ開いて抜群のインクフローになった。
ペンポイントの粒子はかなり粗いので、絶品の書き味とはならないが、インクフローがカバーしてくれるので、Vintageらしいシャキシャキとした書き味になった。
ちなみに、インクサックはシリコン製に変えるべく、米国に発注した。あと数日で届く・・・すなわち、今回Blogには間にあわなかった。


【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5h 記事執筆1
h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
  

Posted by pelikan_1931 at 23:45│Comments(1) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
5
『萬年筆と科學』って何が書いてあるんだろう? だいぶ以前に復刊リクエストを出してたのを思い出しました––『萬年筆と科學 全4巻、インキと科學(渡部 旭)』 復刊リクエスト投票 http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=50782
Posted by tohru at 2015年05月21日 23:03