2016年06月23日

書き手に合わせる調整という作業

ペン先調整という言葉が一般的に使われるようになってから20年と経過していないように思う。

不思議なことに【ペン先調整】 という作業の明確な定義も未だにない。少なくとも拙者は聞いたことは無い。

ずーっと以前、浜松町駅にあったモンブラン・サービスセンターで行われていた【ペン先調整】 では、二つの作業が行われていたと思う。
★製品の緩みやガタを直し、本来あるべき姿に戻す(修理)。たまに過去に問題があった部品を最新の部品と交換する事もあった。
 また曲がったペン先を延ばしたりする修理も含まれていた。
★ひっかかる、掠れる等の個人の書き癖に合わせてペンポイントを研磨したり、スリットを調整する。 
★作業は有料であり、保証期間が数ヶ月付く。もちろん、モンブラン製品だけが対象。
★研磨は限定的で、あくまでも必要最小限の(書き味改善も含めた)修理をするというスタンス。

神田の金ペン堂は、調整済み万年筆を売る店として有名だった。 
★握る位置を数カ所想定し、その位置に合わせて自店で調整した万年筆を数本ずつ在庫する。
★その万年筆の潜在能力が最も発揮できる位置にペン先とペン芯を揃える。(ペン先とペン芯との結婚)
★顧客に万年筆の持ち方から指導する。そしてその位置に合わせて調整した万年筆を差し出す。
★調整料は商品価格に含まれている。(定価販売)
★数ある調整済み万年筆の中からご主人が手に合う物を選んでくれるというサービス。昔は試し書きはさせてもらえなかった。 

大井町のフルハルターは、ペン先の調整を売り物にした店。
★書き味やインクフローや重心位置の異なった万年筆を何本か顧客に試筆して貰う。
★その時に書き癖や書く速度を把握し、顧客の好みと書く個性に合わせてペンポイントを研磨する。
★新規購入の場合は調整料は商品価格に含まれている。研磨だけなら別料金。 
★数週間の後、店まで受取に行って試し書きし、必要なら微調整を依頼する。 

では販売店でやっているペンクリニックはどうか?
★大半はインクを乾かして書けなくなった萬年筆の掃除だと聞いたことがあるが、実際にはひん曲がったペン先の延ばしやインナーキャップの交換などの修理もあるはずだ。
★ペンポイントをスリスリするだけですむのは、手入れの行き届いた万年筆愛好家の持ち物だけであろう。 
★店舗の顧客サービスという位置付けなので修理や部品交換がなければ無料。

萬年筆研究会【WAGNER】のペンクリはどうか?
★修理が50%で書き味調整が50%。
★書き味調整50%のうち20%ほどが追い込み調整希望(さらにその半分ほどはペンクリ行脚の末に持ち込まれた物) 
★修理も販売店やメーカーで断られた/断られる事が確実なものが50%のうち25%ほどある。
★すなわち萬年筆研究会【WAGNER】は萬年筆の駆け込み寺となっている。 
★料金は作業によって異なるが有料!

萬年筆研究会【WAGNER】での調整の特徴は、調整師と依頼者がお互いをよく知っているケースが多い事。
従って数本をまとめて調整依頼し、受取は後日・・・というのも可能。ただし新規の方は個別に書き味を見なければならない。

1こちらは、拙者が週に2〜3回使っているM805 ヴァイブラントブルーじゃ。
キャップをとってすぐに紙に当てても、掠れることは皆無。
縦書き横書き自由自在。まさに自分用に追い込み調整した萬年筆なのじゃ。
ところが、先日、この萬年筆を著名な女性書家の方に使っていただいたところ、書き出しでインクが出ないとか、筆記中にインクが切れる事が頻発した。
そしてその方用に(その場で)調整したM1000で書いていただくと、書き出しも完璧だし、ものすごい速度で英語や日本語(縦書き横書き)を書いても掠れないでインクが追随した。
この調整では追い込みしたわけでは無い。ペン先とペン芯の位置合わせ、背開き解消、スリット調整した後、書き癖(右倒し)に合わせて少し研磨しただけ。
それだけでプロの書家も舌を巻く書き味に変わった。誰にでも完璧な萬年筆など無い。あなたにピッタリの萬年筆は作り込める。それが現在のあなたであっても、将来のあなたであっても!

一本の萬年筆を、依頼者の最高の書き味にするのは難しくない。根性を入れて楽しみながらやれば可能じゃ。
ただし、10本の同じ萬年筆をそれと同じ書き味に揃えて・・・と言われるととたんにやる気を無くしてしまう。

創造性の無い作業を10回繰り返すのは退屈な苦行でしかない。アマチュアの調整師はいつも刺激的な調整を求めているのじゃ。 

Posted by pelikan_1931 at 23:55│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック