2017年01月13日

金曜日の調整報告 【 Pelikan 400 茶縞 14K-M ピストン弁不良 】

1今回の依頼品は先日の神戸大会で引き受けたもの。ピストンがスカスカでインクがピストンの裏側にまわるとのこと。
発生する原因は、度重なるピストンの上下により、ピストンの表面が胴軸内部との摩擦ですり減ったため。
その際に発生した削れカスがピストン弁と胴軸内部をさらに削って傷を大きくしてしまうのじゃ。
修理には、ピストン弁自体を交換するしか無いのだが、不安が一つある。そして、その不安が見事に的中してしまったのじゃ!

23ペン先はものすごく綺麗!きっとご自分で磨き上げられているのだろう。
皆がこれくらいペン先を清掃してくれれば、ペン先の劣化も少なくなるだろうになぁ。
ペンポイントの腹の部分に不自然な研磨痕がある。ただ下手では無い。依頼者の筆記角度で書く場合、左下から右上にはねる線を書く際に少しカリカリする程度じゃ。
インクをつけないで紙の上を滑らせてみると、ところどころでピーピーと鳴く。
きっとインクを吸わせて筆記すれば、アチコチにインクを飛び散らしながら筆記させることが可能じゃ。
ピーピー鳴くペン先は、一部の例外を除いてたいていは書き味が良いので、それはそのまま残しておこう。

45現行のPelikan M400やM600は、尻軸を胴軸から引っ張り出したら、その段階で、”ハイ、それまぁでぇよぅ〜”ですからお忘れなく。
ただしVintageの400系や140系は、特別の専用工具があれば、尻軸を簡単に抜き出すことは可能じゃ。
これは、らすとるむさんなどと一緒に、あるところで作って貰った尻軸外し工具。Vintageの400系や140系を修理する際には非常に便利な道具じゃ。
ヒートガンで胴軸後部を暖めて少し膨張させた後、この器具を尻軸と胴軸の間に出来た隙間に入れてからダイヤルを回す。
ピッタリと作られているわけでは無いから、胴軸に少しだけ引っ掛かるようにするのがコツで、けっこう難しい。
失敗するとピストン軸を削ったり、胴軸を割ったりする。
拙者はベテランなのですんなりと外せる。ただこの器具無しでやろうとすると、25%程度の確率で首軸を割ってしまうかも?

67外したピストン(左側)を見て、”アチャパー”と唸った。薄くて小さい弁が使われていた!
この弁の代わりに海外で市販されている弁を取り付けたのが右側画像なのだが・・・
この状態でピストンに押し込んでも、弁は簡単に外れてしまう。どうやら小さなピストン弁用のピストン軸と、通常のピストン軸とでは先端部の構造が違うらしい。

交換部品として(海外で)売られているピストン軸には、白いピストンはキッチリと嵌まるが、今回のピストン軸に白いピストン弁を取り付けても、胴軸内ですぐに外れてしまう。

8そこで別売りのピストン軸を使い、そこに白いピストン弁を取り付けたところ、うまく上下するようになった。
もちろん、それに際してはピストン弁に十分なシリコングリースを塗っておいた。
左画像の状態が、一番大量のインクが吸える位置なのじゃ。
この位置に持ってくるには、慎重な試行錯誤が必要。なかなか一筋縄ではいかない。
依頼者にはピストン弁の交換ですむ・・・と伝えていたのだが、ピストン軸も交換せねばならなくなった。
なんとか元のピストン軸を再利用しようとして液体プラスティックなども使って固定しようとしたが無駄だったな・・・

9こちらが、ピストンが正しくセットされて、胴軸に押し込まれた状態のピストン機構。
テストしてみたが、ピストン弁が胴軸内残ることなく、尻軸の回転に合わせてきちんと上下してくれるようになった。
もちろん、インクが後ろに回ることも無くなったはずじゃ。

独逸がすごいのは、こういう昔の製品の修理部品がいまだに売られていると言うこと。
ただ、独逸だけではなく、米国でもParkerの修理部品や修理工具はいまだに売られている。こちらも立派じゃ。

翻って日本はどうか?昔はやっていたが、最近では部品の単体販売などは(一部の例外を除いて)絶対にしない。
自社以外で修理した物には責任を持たないのは結構だが、社外でも上手に修理出来る人はいくらでもいまっせ!
保証期限が切れた萬年筆は、部品自体や修理部品を流通させて、市場で修理する体制を作ってはどうだろう・・・その方が楽だと思うのだがな。


【 今回執筆時間:2.5時間 】 画像準備1h 修理調整0.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 

Posted by pelikan_1931 at 22:18│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック