2019年06月16日

ペン先調整の基本は・・・・

ここでいうペン先調整には、いわゆる無料のペンクリニックや萬年筆研究会【WAGNER】で行われているペンクリニックは含まない。

あくまでも、気が済むまで追い込んでいく自分用の調整、あるいは、有料で請け負うペン先調整についてじゃ。

ペン先調整の勉強を始めるのに一番必要なことは、各メーカーのペン先の研ぎの標準形を頭にたたき込むこと。それが無理なら写真撮影すること。

注意すべきは、時代と共に各メーカーの研ぎ方も変化している。従って可能であればペン先の研ぎ方を時代別に整理出来れば最高なのだが・・・

拙者は作っていないし、作ったという人も知らない。これがあれば、調整師養成の虎の巻が作れるはずだ。

国産3社の現行品に限っても、各字幅によっては研ぎ方が大幅に違うこともある。これを整理し、記憶しておけば調整は非常に早くなる。

もちろん、各メーカーの調整師は、自社の研ぎ方については100%理解しているはずだ。

しかし、各社の万年筆の書き味調整を行わなければならない現場(ペンクリ)では、かなりの妥協をせまられる。

それは時間との闘い!一人で1日(10-17時)に50人さばくには、1人にかけられる時間は飲まず食わずでやっても1本8分ほどしかない。

書き味の悪い万年筆を8分で直すには、インクフローを良くし、ひっかかりを出来る範囲で取るしか出来ない。

もし、インクを抜いて調整に持ち込まれたら、調整後の試し書きをした後で、そのインクを完全に拭き取り、洗浄しなければならない。

だから無料のペンクリニックでは、インクを入れたままお持ち下さい・・・と言われるのだろう。

もし本格的に書き味調整を行うとしたら、1本あたり30分以上かかることは珍しくない。

対面調整なら相手が〔これでけっこうです、良くなりました!〕と言えば、たいていの場合終了する。

これは萬年筆研究会【WAGNER】のペンクリでも同じ。しかし、万年筆談話室での調整がそこで終わることはあまりない。

むしろ、そこから本格的に始まることが多いのじゃ。

実は昨日の小倉のペンクリニックで、Montblancの90周年記念のNo.146の調整を依頼された。

現在のEFの研ぎとは違い、円盤研ぎなので、グリグリした書き味で気持ちよくないので出番が無い・・・というもの。

最初にやったのは、円盤研ぎを現行のEFと同じ形状に研磨すること。この段階ではエッジは一切取らない。形状を変更するだけなのじゃ。

従って、現行のNo.146のEFニブの形状が頭に入っていないと研ぐことは出来ない。

正確にいうと、現行のNo.146のEFニブの正しい形状・・・といった方が良いだろう。Pelikan M800の場合などは、正しい形状はPF刻印時代に遡る必要のある字幅もあるからな。

その段階で残り時間5分だったので、まずは字幅の確認をして貰ったのだが、多少は不満はあるものの、こんなんでいいかなぁ?という反応だった。

しかし、拙者の気持ちはそれでは収まらないので、住所を聞いてお預かりし、本日、万年筆談話室の空き時間で徐々に形状とひっかかりを正常化していった。

最終的に大満足!の書き味(拙者にとって)になるのに必要だった時間は、本日だけで120分!

対面のペンクリニックだと、依頼者側が妥協してしまうので、万年筆の書き味を最高レベルにするのは難しい。

拙者が、依頼者から〔これで良くなりました、ありがとうございました!〕と言われた万年筆を再度取り戻して追い込むケースは少なくない。

相手に試筆してもらう段階は出来にして95%程度の時。そこから98%程度まで追い込むには約10分ほどかかる。

そこから99.9%にまで向上させるにはさらに60分〜120分かかるのじゃ。

依頼者よりも筆記感覚が鋭敏な調整師が満足がいく仕上がりになって初めて、その万年筆は99.9%の書き味になる。100%になるのは依頼者と最期の微調整をしたときだ。

何故、フルハルターが万年筆を預かっての調整しかしないのか?それは自分で100%納得できていないペン先を依頼者に返したくないからだろうと想像している。

弟子のたこ娘さんの調整を見ていて心をうたれた。彼女は絶対に妥協しないのじゃ。その分、調整結果に満足出来ず落ち込むことも少なくないだろう。

しかし、妥協を覚えた調整師ほど頼りにならないものはない。調整師はギブアップはしかたないにしても、妥協はしてはいけない・・・と信じている。

(1)まずはあるべき形を覚え、その形に忠実にペンポイントの形を整えていく
(2)依頼者の好みのインクフローになるようスリットを調節する
(3)依頼者の筆記角度で絶対に引っかからない超絶調整を施す
(4)ひっかかりが好きな人用には少しひっかかりを作る

個々人の好みに合わせるパーソナライズ調整においては、時間に余裕がある限りは、上記を完全実施したい。

少なくとも、万年筆談話室で依頼される〔追い込み調整〕については、上記(1)〜(4)を完全実施している。

というか(5)経過観察(調整戻りチェック)もやっておる。

ちなみに、無料ペンクリで出来る範囲は、人数が多ければ上記の(2)と(3)の一部だけ!

昨日預かったMontblancの90周年記念のNo.146には、(1)〜(3)の完全実施と(5)を実施してからお返しする予定じゃ。

あまりに出来が良かったので、本日は実に気分が良い!


Posted by pelikan_1931 at 23:17│Comments(3) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
師匠 小倉ではお世話になりました。
ダウンな気分でいましたが、3人の調整士の方々の手元を見てますと癒され、幸せな気持ちになりました。

たこ娘様 調整有り難う御座いました。
手放す不安は霧散し お気に入りです。良かったぁ!
Posted by クスオ at 2019年06月19日 00:12
たこ爺になるか、たこGになるかは、たこ和尚さんの気持ち一つですが、小倉での歓待ありがとうございました。

博多で萬年筆研究会【WAGNER】やっても17人しか集まらないのに、小倉で25人集まるというのは、たこ爺-たこGさんの魅力のおかげです。

たこ一族のオジキとしてご指導のほどよろしくお願いします。。
Posted by pelikan_1931 at 2019年06月17日 15:48
コメントしたくなりましたよ😃
ここまでの思いでの調整であるのなら、そりゃふんとにもう♥️ですね。
お知り合いになれて、また一族に加えていただけて最良です。
(たこ爺- たこG)
Posted by たこ爺- たこG at 2019年06月17日 06:48