2020年12月13日

【 Parker 75 純銀軸 Blog史上最大の修理! 】 (アーカイブ 2010年6月)

この修理の後、Parker 75ブームが一時的に来て、非常にたくさんの困った?Parker 75がたくさんWAGNERに持ち込まれた。

しかし、キャップ内部に入れるバネはまだまだたくさん残っているので、嵌合がわるいキャップがあれば万年筆談話室へおいで下され。



2012-02-29 01今回のParker 75の修理には、実に20枚の画像を使った。それほど大変な大修理であったということ。

しかも前々回の調整講座でゴミ箱に捨てた!と書いた首軸を再度拾ってこれに取り付けることになった。

一見して状態は酷くないのだが、内部構造や外装の傷みは相当であった。疲れたわぃ。

首軸先端部の擦れが気になるが、あとは銀磨きで擦ればなんとかなるかなぁ、と軽く考えていたのだが・・・・


2012-02-29 022012-02-29 0314K POINTのペン先なので、初期物ではない。事実、フラットトップの天冠でもない。

ペン先は一見普通なのだが、拡大画像で見ると、スリットがガタガタになっている。

これはカッターナイフか何かを突っ込んで、スリットを開こうとしたのだろう。ペン先が多少清掃されたあとがあることからも、誰かが直そうとしたのはたしか。

ただ、それに失敗してフリーマーケットなどに流れていたのが、サルベージされ、流れ流れて依頼人のところにたどりついたのではないかな?

このペンポイントはMの丸研ぎ。これは書いても書いても摩耗しないやっかいなペンポイントで、書き癖が付いて良い感じになるまでずいぶんと時間がかかるもの。

亡父は20年以上も使っていたが書き癖は一切付いていなかった。ま、筆圧がマイナスか?というほどそっと書く人だったが。


2012-02-29 042012-02-29 05左が天冠とクリップ、右が尻軸先端部。全てが驚くほどくたびれている。ひょっとして海から潮風が吹くところで使われたのだろうか?

こういう下手な推理をしながら修理すると、困難な修理もおもしろく感じられるから不思議。

過去にオシャカにしたParker 75は何本かあるので、首軸以外は部品がある。そこで今回は天冠、クリップ、尻軸先端金具を交換することにする。


2012-02-29 06本邦初公開・・・というか拙者も始めての試みだった尻軸先端金具の交換。

実はeBayでこの部品が販売されているのを見て、交換できると気付いた!

右側がこの尻軸(というか胴軸の端)についていた金具。長い棒で内側からたたき出すのだが、接着剤が付いていて硬いので、まずは外側を数百度の熱で暖めてからたたき出す。

やけどをしないように熱いゴム板ではさんでからたたき出すのだが、結構難しい。練習用に使った1本は壊してしまったが、本番では成功。成功確率50%!

そこに別の尻軸から取り出した綺麗な部品(真ん中)に瞬間接着剤(ゼリー状)を少し塗ってたたき込めば終了!


2012-02-29 07キャップが緩いので外してみると、画像右側のようなインナーキャップが付いていた。樹脂製なので弾力が無ければアウト!

普通は左側のようなインナーキャップのはず(羽根が1本欠損しているが)。このインナーキャップは初めて見た。

いったいどの時期に使われていたのだろう?いずれにせよ、スカスカで使い物にならないので・・・


2012-02-29 08左のようなバネだけを50個ほど入手した。いっぱいあるのでキャップが緩くなったParker 75があれば、交換して差し上げますぞ。

これをインナーキャップ画像の左側の部品にとりつければ、完璧なクリップ感がよみがえるはず。

現在、この部品は日本に向かっているはず。到着が楽しみじゃ!ただし、天冠が硬くて外れない物には使えないのであしからず。


2012-02-29 09コンバーターは左画像の中段のものが入っていた。上段は初期の物、下段は後期のものだが、その後期の物の廻りに紙を巻いて太くしてある。

たしかに初期のコンバーターでも後期のコンバーターでもスカスカ!といって紙巻きでもスカスカ!これはおかしい。


2012-02-29 10また首軸からペン先を引き抜いたら、左画像下のような部品が抜けた。なんとペン芯が途中で折れている。

折れて残った部品が首軸の中に詰まってえらいことになっている。

そこで、部品箱にあった画像上段のペンポイントの無いペン先ユニットを取り出してペン先を外してペン芯として使う事にした。

ただしXFとペン芯に書かれているので、その部分は削り取って誤解の無いように加工した。


2012-02-29 11さらに、ペン先はスリットがガタガタで使い物にならないので、左のペン先ユニット(ペン芯の溝がガタガタで使用不能)についていた14K-Mのペン先を、前述のまともなペン芯に取り付けることにした。

ここまでくるとニコイチどころではなく、一体何本のポンコツから蘇生されるのかを数えるのも面倒なほど・・・


2012-02-29 12首軸の先端部の金属は捻れば外れた。これは外れない物もある。外れる場合は接着剤が効かなくなっているケースであり、100%インク漏れが発生する。

そこで接着剤をつけて固定したのだが・・・

やはりコンバーターがスカスカ!もしやと思って中を覗いてみたら、国産でいうところのヤリが無い!

すなわち、ペン芯の後端をガードし、カートリッジの栓を破る機能を持ったヤリが折れているのじゃ。

この状態でカートリッジを無理矢理押し込んだら、ペン芯の端は折れて、部品が首軸に詰まって逝ってしまう。実は首軸はこの状態だった。

そこでゴミ箱から捨てた首軸を拾い、1時間以上かけて洗浄し、ペン芯にセットしたペン先を取り付けた。


2012-02-29 13左画像がその状態。綺麗に清掃したので、捨てるほど酷い状態だったとは思われない。やはりどんなに汚い状態であっても部品は捨てるべきではないと反省。

どういう用途に利用できるかはわからない。たとえ今は思いつかなくても、将来に技術革新、あるいは、将来身につけた技で使えるようになるかもしれない。

壊れた部品があれば、ぜひ萬年筆研究会【WAGNER】に寄付して下され、どこかで死にかけの萬年筆を蘇えさせるのに役立つかもしれないのでな。


2012-02-29 142012-02-29 15こちらはMのペン先をPelikanのBの形状に研ぎ直した状態。先端部の画像が赤色になっているのは、多少お辞儀をしているから。

普通は見栄えの観点からお辞儀はさせないのだが、書き味ならお辞儀をさせた方が上。

今回は、どうせフランケンシュタイン修理なので、書き味にこだわってみた。じつはペン先の斜面も研いで形を整えてある。

スリットは少し拡げ、インクフローが潤沢になるように加工した。


2012-02-29 162012-02-29 17上で述べたお辞儀加減はこの程度。ほんの少しだがタッチはかなり変わる。

また上から見ると角研ぎだが、横から見ると丸研ぎになっているように見える。が、違うんだなコレが!ちゃんとスイートスポットは入っている。

従ってParker 75にしてはヌルヌル感がある。こういう冒険は、フランケンちゃんでしか出来ないが、仕上がりは思った以上に良くなった!


2012-02-29 182012-02-29 19最後に燻しをかけたのだが、前回のように熱湯に燻し液を数滴落とすタイプではなく、燻し液を筆で振り付ける形式の液を使ってみた。これも実験!

非常に黒くなるのだが、変化が遅いので時間がかかるのと、ムラが多い。そこでぞうきんで拭き取っていたところ、思わぬ発見をした。

擦ると表面の黒く変色した部分のみが剥がれ、溝の黒い部分は残ってくれる。


2012-02-29 20ということは、購入当初のようなベースの黒いラインが復活したことになる。

清掃時に黒いラインも全て綺麗になり、つるっとした感じになってしまっていたのが、コントラストが上がって良い感じに復活した。

失敗から新たな発見が生まれた! エサキダイオード のようだと悦に入っている。困難な修理ほど楽しいのはこういう発見があるから!

自分ではすぐに忘れてしまうので、ここに記録として残しておく。なを使った燻し液は【銀黒】というもの。燻し液としてはイマイチだが、今回に限り大成功であった。

あ、そうそう、クリップはフラットトップのころの羽根の少ない物に変えてある。いったい何本のParker 75の部品が使われたのだろうか?

米国では今だにParker 75の修理用パーツが多数販売されている事実に遭遇し、大量浪費の代表のように思われている米国を少しだけ見直した。



【 今回執筆時間:10.5時間 】 画像準備3.5h 修理調整5記事執筆2h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 23:39│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
この記事へのコメント
トンネルダイオード懐かしいです。
昔購読していたNewtonに載っていた気がします。
しかしスゴい修理でしたね!
Posted by たーにー at 2020年12月15日 18:50
過去の記事の再掲載は 興味深く参考になります。

>>やはりどんなに汚い状態であっても部品は捨てるべきではないと反省。
どういう用途に利用できるかはわからない。たとえ今は思いつかなくても、
将来に技術革新、あるいは、将来身につけた技で
使えるようになるかもしれない。<<

分解・修理の鉄則のひとつです。
現在の自分には不要でも 
いつの日か誰かが必要になるかも知れません。

部品は勿論ですが 自分は
シリコンチューブやインクサックの切れ端・
ポンチで刳り貫きを失敗したシリコン円板
などなど 捨てずに保管しています。

Posted by 紙様 at 2020年12月14日 06:32