2020年12月22日

【 1950年代 Montblanc No.144G 尻軸からインク漏れ・・・ 】(アーカイブ 2012年3月)

このBlogを書いたころには、まだVintage万年筆を使っていたらしいなぁ。

今では使うよりも修理する方が楽しくなってきている。

人の心をパッと明るく出来る仕事はいろいろあるが、修理や調整の仕事もそのひとつ。

3日やったらやめられない!



 @01今回の依頼品は1950年代のMontblanc No.144G。1950年代のNo.14Xシリーズの中では、拙者が最も気に入っているモデル。

フェンテのでべそ会長も同じような事をおっしゃっていた記憶がある。

既に1950年代No.149は大型なるがゆえのセルロイドの変形によって、コルク交換不能状態に陥っているものが多い。

またNo.146に関しても首軸が外れない状態や、内径が円ではなく楕円に変形しているものも見かけるようになってきた。径が大きいほど劣化も激しくなるのじゃ。

その点、No.144は萬年筆としてのバランスが取れているのか、修理不能状態のブツはほとんど見かけない。問題は交換用のコルク供給だけ。

優秀なドイツ製コルクの有力供給者が日本へのコルク供給を一部の販売店以外へはストップしたという噂を聞いた。

そのことに不安を覚えている方も多いが、それも考え方しだい。棺桶に片足突っ込んだような萬年筆を酷使する蛮行から脱却する良いチャンスだと考えませんかな?


@02@03ペン先はややひっかかるという事だったが、斜面が醜い形状をしている。

発売当初からこのような形状で出荷したとは思われないので、60年近くの歴史のどこかで削られてしまったのだろう。

その時にはベストだと思われ絶賛された行為が、後世では邪道と評価される。

我々調整師も過去に数々の蛮行をしてきたが、これからは美観を大切にした修理にも目を向けなければならないと感じている。


@04@05横顔を見ると、ペンポイント先端部が尖っている。どうやらペンポイントが上に盛り上がっていた部分を砥石で研磨したと思われる。

横線を糸のように細くするために研磨したのであろう。ただ横顔だけ見ていたのではわからないほど綺麗に研磨されている。

実際、拙者も三枚目の画像でペンポイントの背中側が異常に光っているのを見るまで気付かなかった。

実は背中を揃えるように研磨すると、腹側の調整が狂い、腹側も研磨しなければならないのだが、それをやった形跡は無い。

そのせいで引っ掛かりが目立つ状態になっているのであろう。これは他人の求めるままに萬年筆調整をやった人が一度は陥る失敗。

調整のやり方について素人の求めに応じて研磨する削り屋ではいかん!ということを感づかせてくれる。

調整師は【どういう書き味の要望があるのか?】を良く聞き、削り方に関しては自分で考えなければならないのじゃ。


@06こちらはテレスコープ吸入式のピスを縮めた時と伸ばした時の長さの差。可動部分は4倍程度に伸び縮みする。

すばらしく凝った仕組みなのだが、この複雑性が引き起こすトラブルも多い。

そもそも強酸性のインクに触れるリスクが高いにもかかわらず金属製部品を使うという発想が理解出来ない。

MontblancやSheafferの当時の設計陣の専門分野を調べてみたい。おそらくは化学系の人がいなくて、機械系出身者ばかりだったのであろうな。


@071950年代のNo.14Xは首軸を外さないとコルク交換が出来ない。

吸入機構は左図で胴軸の左側からネジ込み、コルクはピストン機構先端部の黒いネジを外し、首軸側からコルクを押し込んでネジで固定する。

最後に首軸を胴軸にねじ込む。一番の難関は胴軸が収縮したり、ネジが接着剤で固定されており、首軸が外れないこと。無理に捻ると胴軸がネジ切れる。

最近ではお預かりする際に、まずヒートガンで胴軸と首軸を暖めて捻り、首尾良く外れた場合だけ修理を受けている。

この修理には高額の実費がかかるので、直る事を確認出来ないと修理を引受けないことにしている。

@08こちらは修理前のペン先全体図。通常なら美しい形状にうっとりするところだが、やはり斜面の曲線の途切れが残念!

この部分を円筒に巻いた耐水ペーパーで形を整えてから最終研磨に入る事にする。

@09@10こちらが修理完了したペン先。斜面については書き味に異常をもたらさない範囲で少しだけ研磨した。

またペンポイントは、主としてペンポイントの左右が書き出しで紙を削らないように研磨した。内側のエッジではなく、外側を研磨したことになる。

これでペンを80度以上に立てて書かなければ引っかかる事はなくなるであろう。

我々素人調整師は、調整直後が最高の書き味で、それ以降は書き味が劣化する程度まで追い詰める調整を基本としている。

事実、調整師認定試験ではその技術が最大の評価ポイント。

だからこそユーザも自分で微調整出来るよう腕を持たないと書き味は維持できませんよというスタンスだ。

ペンポイントの寿命の20%程度は最初の調整で飛ばしてしまうので異を唱える人もいる。しかしペンポイントの寿命は、現代人の筆記量なら、自分の寿命の2倍はある。

それほど気にせずに良い書き味を楽しむのがよいであろう。

ただし、ペンポイントが良い書き味のうちに、次世代に伝えるべく完全清掃して水を含ませて保管して欲しい。

そして水は1ヶ月に一度は交換・補給するという作業を永遠に続けるのじゃ。それが無理ならVintage萬年筆など持つ資格は無い。

従って拙者はVintage萬年筆をコレクションとしては持っていない。



【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1h 修理調整2記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間


Posted by pelikan_1931 at 23:32│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック