ただ、太字系の調整では、どういう字を書くかによって調整方法が大きく異なる。
さらには実現するための手段も一杯あるので、実は奥が深い。
この当時はだめといわれていた調整方法が今では最先端であったりもする。いやぁ、調整の世界も実に変化が激しく、面白い。

太字という意味なのだろうが、実際には極太。SheafferのBとともに、拙者の最も好きな字巾じゃ。Pelikanでいえば極めて3Bに近い字巾と言える。
しかも多少は捻って書いても掠れは少ない。調整無しで書いても【普通に】書けるという逸品ペンポイントじゃ。
軸はル・マン200と同じNASAプラスティック。非常に丈夫な樹脂で傷もつきにくい。
後にパトリシアンが出てくるまで、(金属軸を除いて)平凡な黒色のボディだったので、あまり目立った存在ではなかったが、拙者の萬年筆の原点でもある。
アメ横の今は無き萬年筆店でNo.146と書き比べて、迷わずこちらを選択したほど絶妙の筆記感があった。
その後、多発するインク掠れ(スリットにインクが下りてこない現象)に苦しめられたが、それが無ければここまで萬年筆に嵌ることはなかったはず。
そして、このBlogを見て萬年筆に嵌った方々も煩悩に悩まされる事はなかったかもしれない。罪作りな萬年筆と言えよう。

そしてスリットがあまりにも詰まっているということじゃな。
拙者の最初のル・マン100の場合には、ペンポイントだけが衝突しており、スリットはO脚のように中央が広くなっていた。
そのため、毛細管現象が働かず、インクが下りてこないという状態になっていた。この個体ではそういう問題はなさそうだが、スリット中央の幅が必要以上に広いのは似ている・・・


これは見映えが悪いので、部品箱にあった正規品のペン芯と交換しておこう。ペンポイント付近と、ハート穴付近とで金の厚みが相当違う。
後方は極端に薄い!この厚さの大きな差が、柔らかい弾力を演出しているのじゃ。

書き出しの筆圧が高い人には問題はないが、書き出し筆圧の低い依頼者にとっては、最初がどうしても掠れてしまう・・・
これはスリットを開き、段差を調整してからペン芯に載せる。もしペン芯に載せた段階で新たに段差が出るようなら・・・
ペン先内側の曲率とペン芯の形状を慎重に見極めながら、ペン先の形状を変えたり、ペン芯を削ったりすることになる。今回はそれほど手はかからなかった。

従って、これは第二世代のニブであろう。この後はハート穴が無くなって単なる切れ込みに変わる。と同時にペン芯にも改良が施されたと記憶している。
今回装着したのは第三世代のペン先を載せていたペン芯。外側から見れば変化はわからないが、内側はずいぶんと変化している。

上側はPelikan M800のENニブの左側に刻印されている物と似ているが、下側は何かな?
独逸製のPelikanはホールマークを表面に出し、仏蘭西製のWatrmanがホールマークをペン芯の中に隠す奥ゆかしさを出しているのが面白い。
おそらくデザイン上見せない方が得策と判断したのであろう。国民性の差かな?

個別萬年筆の持つ【設計に起因する不具合】をごまかしながら性能を上げるのも調整じゃ。これは拙者が最初に購入した萬年筆店でも言っていた。
【これはNTカッターの刃を隙間に入れて広げれば直るよ】と言いながら修理しようとする店主を【メーカー送りにせんかい!】と怒鳴りつけた自分が今では恥ずかしい・・・
しかし、カッターの刃は無いよな。スリットの両側が醜く盛り上がってしまう。


心眼が無いと判別は出来ないが、書いてみると差は歴然としている。もちろん当初あった左右の段差は解消している。
もしオークションなどで、このLニブ付きのWatermanを見つけたら、一本は試してみることをお奨めする。
そして不具合があれば、遠慮無く萬年筆研究会【WAGNER】に持ち込まれたし。これの調整は全調整師が得意じゃよ。
今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間