調整報告にペン先調整が含まれていないのもそう多くは無いはずだ。
過去の調整報告で掲載された万年筆は1500本以上。WAGNERで修理調整したものを含めれば5000本以上は修理調整している計算になる。
WAGNER創立前のも含めればもっと修理しているなぁ・・・
Blogに記載するのは、あまりに面倒な作業も多いので、Blogだけ読んでも修理が全部出来るようになるわけではない。
コロナ下で萬年筆研究会【WAGNER】の開催もままならないが、修理調整は遠隔でも出来ま〜す。
ご要望があれば、このblogの一番上の記事に書かれているLichtopeか万年筆談話室にまずはメールでお申し込み下さい。
症状をうかがってから対応策(+料金)をご提案します。

惜しいなぁ・・・まぁ、この大きさの萬年筆は現在ではヒットしない。M300やモーツアルトもそれほどヒットはしなかったしな。
その割に製造が難しいので割に合わなかったのかも?
萬年筆としての丈夫さは、1950年代No.14Xは小さいほど優れている。ボディがセルロイドなので太くて長い軸ほど狂いが生じやすいのじゃ。
No.149やNo.146では首軸がねじ切れるトラブルに遭遇したことは何度もあるが、No.142では一度も無い。非常に丈夫な軸と言えよう。


ペン先が首軸に押し込まれている量はバッチリでしょう。"585"の刻印がギリギリ見える位置というのが一番美しい。
スリットもハート穴やペン先刻印(山型)の頂上に入っている。いわば完璧な状態といえる。これで左右のペンポイントの高さが揃っていれば問題はないのになぁ・・・
ま、そちらは、この萬年筆の所有者がスリスリすればすぐに直ってしまうだろう。今回はペン先はいじらないので、調整講座も楽じゃな。


そしてペンポイントの頭(かしら)から腹に至る稜線の部分に少しだけ書き癖が残っている。曲線の途中に直線部分が見える。
これでは、その直線と曲線が一体化する時のコーナーが少しだけ紙に引っ掛かる可能性がある。
この平面をうまく丸めればスイートスポットになる。すなわちスイートスポットを作る際には、書き癖をペンポイントにいったん刻み込んでから丸めるのじゃ。
その刻み込みは本人がやるのが一番良い。拙者のペンクリでは【320番の耐水ペーパーの上での強筆圧筆記】を強制することがあるが、これはスイートスポット作りなのじゃ。

暖めても暖めてもネジが緩くならず、何度も何度も温め直した。
ただ、力を入れて回しても、軸が変形することがないのがNo.142の良いところ。とにかく丈夫なのじゃ!
胴軸から覗いているピストン弁は樹脂製に替えられている。従って耐久性はコルクよりははるかに高いが、弾力性は劣るので、内部のインク漏れチェックが必要。


テレスコープ機構がまったくインクで汚れていないので、インクがピストンより後ろに回った形跡はない。
ただし、右側画像のようにピストンを固定するネジの内部にはインク滓が大量に残っているので、時間とともにそれが後ろに回らないとは限らない。

そこで、念のためにピストン弁の後ろに、中軸に密着するOリングを入れて絶対にインクが後ろに回らないようにしておこう。ま、予防措置じゃ。

ピストン弁とOリングは強く密着しているのでそこからインクが漏れる事は当分は考えられない。
さらには、ピストン弁の内部や、個々の部品の接点にはシリコングリースを塗っている。従ってさらにインクは通過しにくくなっている。
また将来のメンテナンスに備えて、首軸と胴軸のねじ込み部分やピストン機構を固定するネジにも、シェラックではなく、シリコングリースを塗っている。これは外れやすくするため。
Vintage品は火であぶったり、大きな力で捻ったりすれば、いつ何時ポロっと逝くかもわからない。
従って、きっちりと固定するよりも修理のために外しやすくすることの方が重要と考えている。
それに、今回はわけあってペン先調整はやっていない。今後、依頼人が自分でペン先調整をする際には、当然ながら首軸を外してペン先とペン芯を叩き出す必要がある。
その際、ヒートガン無しでも無理なく首軸を回せるようにするために、首軸ネジにシリコングリースを塗ってからねじ込んであるのじゃ。
ちなみに依頼人は【親方】。ペン先調整が不要なのはそのためでした!
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間