拙者がこのBlogでペンポイントと連呼したので、少なくともWAGNER会員はペン先先端部を【イリジウム】とは呼ばなくなった。
それにしても現在とは調整の大方針が違っていたなぁ・・・

No.146-18K金ペン先モデル(今回の依頼品)、Pelikan M800-20C モデル、カスタム型Pilot 14K モデルの3種類。
MontblancとPelikanについては、ペン先の金素材を一捻りしてあるのが丸善らしい。
依頼品は素通しインク窓だが、拙者が購入した2本のうち、1本は現行品と同じストライプのインク窓! 拙者は素通しのほうが好きじゃ。
今回の調整において頭に入れておく事は、依頼者が極端にペンを寝かせて書く癖があること。
Montblanc 60年代の2桁番代モデルをそのまま使用するとペン芯が紙に触ってしまうほど!
依頼者は既に1950年代のNo.146を所持しているので、こちらは柔らかさよりもある程度ガッシリとした書き味が良かろう。

この状態ではたまにインク切れを起こしてしまう。やはり先端は密着しておく必要がある。
次にピストンが異様に硬い。10往復もさせれば全身の筋肉が痙攣するほど。痩せていて非力そうな依頼者には酷な作業かもしれない。

上の横画像で見るとイリジウムの研ぎはややペン先を立てて書くように調整されている。それに対して依頼者はペンを極端に寝かせて筆記する。
従ってイリジウムの腹の部分の一部が紙にガリガリとエッジを当てている。

前からゴム板で挟んで引っぱるとフィンを折る確率が高い。ここは定石どおり、ピストン機構を外して後ろからペン芯とペン先を前にたたき出す方が安全じゃ。

が、回転機構が硬いのではなく、胴軸の内壁に対してピストンの外形が太すぎるのじゃ。簡単に直すにはピストンのシリコンラバー部分を交換すればよい。
趣味の文具箱で紹介したように、No.149とNo.146の内径はまったく同一。
No.149用、No.146用のシリコンラバーをいくつか試し、納まりの良いのに交換した。これで驚くほどスムーズに動くようになった。

超音波洗浄を施しても首軸内部に入っていた部分にはインクがこびりついている。これは金磨きクロスでゴシゴシやればすぐに落せる汚れじゃ。
それにしてもペン先がずいぶんと根元まで首軸の中へ入っているものじゃな。

真ん中あたりを見るとペン芯があたる部分がいっそう濃く焼けている。エボナイト製ペン芯だから起こる状態。
見た目には年代を感じさせてくれて良いのじゃが、筆記には向かない。


そして、ペン芯は逆に奥に引っ込めるような感じで位置決めをした。上から3番目の画像と比較すれば位置関係がわかるじゃろう。
このMのペン先はNo.146に搭載されたペン先の中では最も出来が良いと思う。調整の幅が大きいので楽しい!

一見ほんのわずかな調整に見えるが書き味の激変ぶりに歓喜の声が上がるじゃろう。ペン先の先端を絞ってインクフローが悪くなる調整に見える。
ところが以前にも増してインクは流れ出る。引っ掛りも解消。この時代のMontblanc No.146らしい書き味の余韻は残しつつも異次元の体験をさせてくれる。
拙者は1950年代から現在までのあらゆるNo.146を筆記してきたが、平均すればこの時代のNo.146のニブが最も好きじゃ。その中でも飛び切りの一本になった・・・・かもしれない。