Pelikanは部品の仕様をあまり変えない会社なので、現行品の部品をVintage部品の代用として使えることが多い。
ただ、微妙に仕様が異なる場合もある。
本日、Pelikan 120 のスチール製ペン先のSt.(ステノグラフ)を修理したのだが、例の割れやすい透明ソケットが使われており案の定割れてた。
そこでM200のソケットを探し出して、それにペン先とペン芯を押し込もうとしたのだが、どうしても押し込めない。
スチール製ペン先の方が金製ペン先よりも少しだけ厚いので押し込めないのじゃ。
現行品のソケット内部を棒ヤスリで削って、少し内径を拡げてから押し込む必要があった。
では金ペン先付きモデルとスチール製ペン先付きモデルとで、ソケットに内径を変えていたのだろうか?
うーん、昔の製造本数を考えればそれもありかも? でもわからん・・・
今回の依頼品はPelikan 400の茶縞だが、右側画像のように尻軸を締めても、胴軸から浮き上がった状態で止まる。
これは内部のピストン軸と尻軸内部から伸びる回転棒の噛み合わせがズレていることによって起きる。
ではズレた原因は何か?これを特定するのは難しいが、どうやらインクが接着剤の働きをして、ピストン弁が胴軸内部に密着してしまっているようだ。
このせいで尻軸を回すと、尻軸が胴軸から伸びたネジを空回りしながら登ってしまった・・・というところだろう。
ペン先は見事なBBのペンポイントが付いている。ペン先の刻印は擦れて消えかかっているが、ペンポイント自体はほとんど摩耗していない。
それにしても美しすぎる。ひょっとすると今までに調整された経験があるのかも知れない。
スリットは詰まっているので書き出しで掠れることがあるが、いったん書き出せばインクは切れることなく幅広の線を描いてくれる。StubよりもItalicに近いかも?
横顔を見ると残念な部分が見つかった。ペン芯のフィンは4本あるのだが、外側の2本は一部が欠けている。ま、筆記には影響は無いがな。
右側画像でペンポイントを見ると、実に綺麗なカーブを描いている。やはり調整されているのではないかなぁ・・・
ペン先のお辞儀の度合いが当時のPelikanの特徴。これが独特の書き味を提供してくれた。
ふにゃっとした軟らかさではなく、かといってガチガチというわけでもない。
なんとも表現が難しいペン先ではあるが、やはりBBは素晴らしい線を描いてくれる。太字好きとしてはたまらんな!
若干ペンポイント先端部に段差があるように見えるが、これはペンポイントの寄りが強いために多少ずれただけ。上下を揃えればその状態で止まる。
しかしインクフローのこともあるので、少しだけスリットを拡げ、その状態で段差が無いように微調整しておこう。
綺麗だ、綺麗すぎる。やはり調整してるでしょうに!ひょっとするとスリットは開いていたのが調整戻りで閉まっただけかも?
こちらは清掃後のペン先拡大画像。画像でオレンジ色に見える部分はペン先のお辞儀を示している。
かなり長い時間、金磨き布で擦ったのでずいぶんと綺麗になった。それでも取れていない傷は、ナイフのように鋭利なものでついた傷じゃ。
子ペリカンと親ペリカンのくちばしの先の間の傷はなんだろう?同じような傷が入ったペン先を何度か見た記憶がある。
まさか調整師が着けたサイン代わりの傷ではあるまいな?
ペン先とペン芯先端部はきっちりと密着しており、インクのボタ落ちは皆無。ただ、ペン先ユニットは専用工具が無いとひねり出せなかった。
ペン芯のフィンが折れていたのは、専用工具無しでペン先ユニットをひねり出そうとした際に誤って折ったのだろうな。
通常は尻軸外し工具に尻軸と胴軸をセットし、ダイヤルを回せば尻軸ユニット自体が胴軸から抜き出せる。
ところが、今回はそのようにセットしても、ダイヤルを回すと尻軸ユニットだけがネジをスキップしながら外れるだけ。
どうやら尻軸ユニットとピストン弁が強烈に胴軸に貼りついているらしい。
そこで、尻軸後部を熱湯で十分に暖めた後、首軸側からセーム皮の破片を押し込み、先端部を平らにした五寸釘を入れて、ハンマーで叩き出した。
この手法は最後の手段。素人がやると高い確率で首軸を割ってしまうので注意!
やはりピストン弁に真っ黒いインクがヘドロのようにひっついていた。もしかしてファウントインディアか?
ピストン弁を互換性のある白い弁と交換し、ペン先を調整して取り付けたのが左画像。
無理しないで左右に回すだけなら尻軸はなんともないが、限度を超えて回そうとすると、2番目の画像のように尻軸が胴軸から離れてしまう可能性がある。
絶対にピストンを強く回しすぎない・・・のであれば、この萬年筆は使用に耐える形に変身したと言えよう。
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナー/カメラからPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間