以下は10年以上前の投稿だが感慨深い。昔と今と拙者のスタンスが変わってないのにびっくりじゃ!
調整は依頼人と、萬年筆とを相互に歩み寄らせる仲人のようなもの。どちらか一方の肩だけ持つのではない。
相互に妥協を求めて、お互いを歩み寄らせるのが調整師の仕事。使用者と萬年筆の結婚において、妥協の総和を最小化するのが努めじゃ。
いま、考えてもその通りだと思う。
ぬらぬらシリーズの4回目は、Pelikan M805のブルー軸。この軸色は実に綺麗。いつも気になっているのだが、なかなか購入に踏み切れない。
NORD/LBを持っているせいなのだが、あちらは金色トリムで、やや色が濃い。こちらのM805の方が綺麗で良いのだが天冠がなぁと逡巡していた。
ただ実際に手にとって書いてみると、銀色トリムの場合は、天冠の平たいマークがさほど気にならない。またグッと心が動かされてしまった。
ペン先は18CのO3B。依頼人はキャップをしないで、尻軸が親指と人差し指の股に当たるようにペンを持って書く。
筆記角度が非常に低いのだが、多少左に捻って書く。従ってO3Bでも特に問題なく書ける。
極太ヌラヌラが好きであれば、3BよりもO3Bの方が接紙面積が広いので、より楽しめるであろう。筆記角度さえ合っていれば・・・
このペン先の根元を見ると、右側にPFマーク、左側にホールマークが入っている。
しかもO3Bとなれば、マニア垂涎!Pelikan M800 のニブ・コレクター?の拙者も持っていない。
どこかで発見したら確保をお奨めする。拙者が持っているPF-O3Bはホールマーク無しじゃ・・・
そしてホールマークが下にずれている。これが貴重!今後、新品で発見される可能性はほとんど無い。といってもほとんどの人は興味ないであろうがな。
かなり寝かせて書く上に、ヌラヌラが好きとなれば、問題はインクフロー。そして何よりスイートスポットが面でなければドクドクとはインクが出ない。
非常に良く位置調整されたペン先であるが、いかんせんスイートスポットが狭い。
それにしても本国から直で取り寄せると、未使用でここまで完璧なのかとビックリ!
Pelikanの弱点はペン先ユニットが取り外せる事。一見便利なのだが、取り外す際には渾身の力で挟んで、ゆっくりと回し、ねじ込みは軽く終わらせる必要がある。
これを軽くつまんで力一杯ねじったりすると段差が出来る。店員さんが軽い気持ちで取り替えている店などは、かなりの高確率でずれているはず。
店頭にルーペ持参で確認する方がよいですぞ。通販やオークションは、ほぼ全滅に近いのではないかな・・・
ドクドク化にあたっては、まずはペン先のスリットを拡げた。これによって書き出し時の超低筆圧状態でもインクが紙につくであろう。
これでも掠れるときには、全ての調整が終了したあとで、ペンポイントの表面を1200番程度の粗い耐水ペーパーで軽く擦れば、書き出し掠れが消える。
筆圧を書けるとザラザラと筆記音がするが、筆圧が低ければ表面のざらつきは感じない。エッジの引っ掛かりだけ気をつければよい。
スイートスポットの作り込みは、320番の耐水ペーパーの上で、ジョリジョリと字を書いて、筆記角度の見当をつけ・・・
それと同じ角度で8の字旋回をしながら、これでもか!と言うほどにペンポイントを削る!
最後にエッジを丸めて出来上がり・・・と口で言うのは簡単だが、経験が浅い人がやると、100%失敗する。
本人は成功したと思う場合もあるが、経験者から見ると悲惨な状態!というケースがほとんど。
まずは、これが究極!というような研磨を実際にルーペで確認して、その形状を頭に入れ、それで書いてみることが調整の第一歩じゃ。
拙者も、金ペン堂調整物、フルハルター調整物、長原調整物、川口調整物、大橋堂調整物、万年筆博士調整物・・・
など多数を購入し、真似てみて確認し、ペン先を飛ばし・・・ということを繰り返してここまで来た。
調整は依頼人と、萬年筆とを相互に歩み寄らせる仲人のようなもの。どちらか一方の肩だけ持つのではない。
相互に妥協を求めて、お互いを歩み寄らせるのが調整師の仕事。使用者と萬年筆の結婚において、妥協の総和を最小化するのが努めじゃ。
そういう意味で、書き方の指導をする金ペン堂方式は、もっと評価されて良いと思う。
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.5h 修理調整1h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間