拙者もとっくに書いたことを忘れていたが、非常に大事なことなので再掲する。
調整戻りは短時間で急速に曲げたところに発生する。ペン先でもペン芯でも・・・
逆に言えば、ゆっくりと曲げれば調整戻りは起こりにくいということじゃ。
今回の調整対象は、こちらの記事で紹介したもの。今年の9月に調整したM1000じゃ。
ところが、三ヶ月経過して、またインク切れが起こるようになったとの報告があり、さっそく状況を見てみた。




★ペン先のスリットがやや拡がっている
★ペン先とペン芯が再度離れてきている
とういうことがわかった。じつはこれが【調整戻り】に端を発したトラブルなのじゃ。もちろん全てが調整戻りではない。
今回の調整戻りは、ペン先を押し上げていたペン芯の調整が戻り、再びペン先とペン芯が離れてしまったこと。もちろん離れた量は以前の25%ほど。
ところが、たまにインク切れをするようになり、不安になった依頼者は、インクが出ないと感じた際に、無意識にペン先を紙に押しつけてインクを出そうとした。
これをくり返しているうちに、ペン先とペン芯がズレてさらに具合が悪くなってしまったのじゃ。

どうやらペン芯加工する際の温度が低すぎたらしい。なかなか柔らかくならなかったので、最後を力づくで曲げたのかもしれない。
ペン先を力で曲げた部分が時間と共にもどり、それがこの段差を再び作ってしまったと思われる。
実は、調整戻りの再調整は、こうやって原因がわかればすぐに直せるものなのじゃ。なぜそうできたかと言えば、前回の調整の記録がBlogに残っていたから。
この調整報告は、手強い調整をした記録なので、自分で読み返しても結構役に立つし、今回のような調整戻りの確認には必須の記録なのじゃ。
最近、日本各地で調整師候補者が現れているが、ほとんどの方が拙者のBlogだけで勉強し、それをご自分の萬年筆を素材として研究されている。しかもなかなかの腕じゃ。
先人の研究を改良するのは、日本人の最も得意とするところ!拙者も先人の調整を参考にして腕を磨いたが、記録は残っていなかったので、ずいぶんとお金と時間がかかった。
拙者のBlogを読んだうえで調整すれば、お金と時間は10%以下になるはずじゃよ。がんばってな!

いかがかな?段差は一切無い事がわかる。すなわち、筆圧でペン先を曲げたのではなく、ペン先とペン芯をズラしただけ。真の原因はペン芯の調整戻りということになる。
ペン芯を少し高い温度で暖め、ペン芯が指でくにゃっと曲げられるようになる直前ぐらいのタイミングで、ペン芯のセンターをしかるべき状態にして、直ぐに水で冷やして固める。
どれほど曲げるかは、勘だけが頼りだが、今回は前回の記録があったので勘の範囲が小さく、一発で決まった!


相互に干渉しない程度に密着させるということかな。密着というより、接触といった方が良いかもしれない。
この微妙な感じが理解出来れば、あなたは調整師一直線!
ペン先のスリットはやや狭めて置いた。従ってプラチナカーボンインク以外では、多少インクフローが悪いと感じるかもしれない。
しかし、スリット調整は約5秒もあればどの調整師でも完璧に出来るので、今回はカーボンブラック対策を施しておくことにする。


しかもペン芯は十分に暖めてから加工し、すぐに冷水で冷やして固めた。力を入れていないので、調整戻りは少ないはず。
今回、調整戻りをシゲシゲと観察し、金属がもどるという調整戻りではなくて、ペン芯を力尽くで加工したり曲げたりした部分が戻る影響の方がはるかに大きいと感じた。
段差調整には、ペン芯の歪みに原因がある場合も多いので、萬年筆研究会【WAGNER】の調整師の方々は注意して下され。
ペン先を曲げてもペン芯の調整戻りでダメになる可能性もありま〜す!
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間