2022年04月18日

【 Parker 75 赤漆 14K-F 生贄 】(アーカイブ 2012年6月)

この時の記事のように、たまに修理に異様に手間取る個体がある。

それは、単に個体の状態が悪いだけではなく、修理する方の精神状態の影響もある。

いまと違って、この当時は翌日掲載分のBlogを書いていたので、調整時間に追いかけられることはなかったのだが・・・

この回は、翌朝早くに予定が入っているのに、修理が終わらず、なかなか寝られなくてイライラしていたようだ。

拙者が本気でやる調整では、物音ひとつしない静かな部屋で、ペンポイントと研磨紙が擦れる音でペンポイントの状態を聞き分けている。

万年筆談話室で拙者の調整を受けられる方は、くだらん話をしながら研磨していた拙者が、突然黙って、座頭市のようにペン先に耳を近づけるのに驚かれる。

あまりの静かな状態に耐えかねて話しかけられる方が少なくないが、それはご法度。

拙者が無口の間は、音を立てないでくださると仕上がりが良くなりまーす。

物音の激しい環境での調整(WAGNERの定例会など)では、耳が使えないので、手の感触での調整となる。従って、精度は一段落ちます!

書き味に過敏な方は万年筆談話室での調整をおすすめします。




1本日の依頼品はParker 75のかなり終盤のモデル。ペン芯が変更になる直前のものかな?

このあと、デザイン上の大きな変化があり、首軸先端部の金属リングの幅が極端に細くなった。

またペン芯の形状が大幅に変化したので、同じParker 75といっても、ペン先の互換性はなくなってしまった。

不具合に対する改良と、コストカットの両方を達成するための変更だったのだろうが、どうもなじめなかったなぁ。

このモデルも、それ以前のモデルと比べると、金一色で装飾のない首軸のリングが相当に違和感を覚える。

これが最初に市場に投入されたとき、【またぶっさいくなデザインにしたなぁ〜】と呆れたものだった。

書き味含めて【どうにでもして〜】という生贄扱いだが、今回は途中で本気で【ぶっ壊そうか!】と何度も考えたほど手こずった。


23ペン先は仏蘭西製の14金ペン先。仏蘭西製ニブとしては、後続のプリミアの18金ペン先が好きなのだが、今回のモデルは、ペン芯がプリミアと同じもの。

これにはビックリした。

Parker 75のペン芯は表面がツルっとしており、プリミアのペン芯は表面が凸凹加工されているが、今回のペン芯はその凸凹加工付きで14金ペン先。

手持ちのParker 75のペン先で仏蘭西製のものを確認したところ、凸凹加工付きとツルっとしたものが混在していたが、凸凹加工付きの方が比率は低かった。

どうやら明確な意図があるわけではなく、順次入れ換えていったので、プリミアのころには全てが凸凹加工付き担っていたというだけなのだろう。

おかげで凸凹加工のペン芯だったらプリミア用と思い込んでいたのが間違いだと気付かされた。

自分で発見したり、仲間に指摘されたりしながら、少しづつ真実に近づいていくのはうれしい。


45一見するとペン先に多少段差がある・・・程度の不具合しか見つけられなかったが、このペン先は酷かった。

今までに出会った全てのParker 75のペン先の中でも、最悪中の最悪。調整途中で何度も発狂しそうになった。

何が問題化と言えば、ペン先の寄りが強すぎること。そのためにインクがほとんど出てこない。

そこで以前にもペン先のスリットを力ずくで開こうとした痕跡もあるが、ビクともしなかったはずじゃ。


6もうひとつは、コンバーターが古いこと。この個体には真ん中のコンバーターが付いていた。

これは古い時代のParker 75についていたもの。

プリミアの時代には一番上の回転式のコンバーターに変わった。そして通常のParker 75に使われていたのが一番下のもの。

先端部の形状は上と中が似ているように思われる。事実、拙者も先日まではそう考えていた。しかし・・・


7各コンバーターの内径画像を見て気付いた。一番左が回転式、真ん中が今回のコンバーターで、右端がParker 75の標準コンバーター。

真ん中のコンバーターは内径が大きい。内径が大きくて先端部が短ければインク漏れのリスクは高い。

それもあってParker 75の後期コンバーターは先端部を長くし、内径も小さくしたのであろうか?

あるいは、カートリッジの押し込みに力がいる!という苦情があり、首軸内のカートリッジに押し込む筒状の部分の径を小さくしたのかもしれない。

それによるインク漏れのリスクを回避するために、コンバーターの内径を小さくしたのかもしれない。同様の事をプラチナは2008年前後にやったはずだしな。


8スリットを開くにはペン先をペン芯から外さなければならない。通常はヒートガンで1分ほど熱すればスポっと抜ける。

ところが今回はペン芯が溶けるのではないかというほど熱してもビクともしない!途中で何度もペン芯を燃やしてペン先を取り出そうと考えたほど・・・

なんとか外せた時には、ヒートガンがオーバーヒートしそうになっていた。接着剤の痕跡がまったくないのに、これほどの力でペン芯とペン先が密着していたとは驚きじゃ。

この時点で危険を察知し、調整をやめていればどんなに精神衛生上良かったことだろう・・・

少なくともこのあとの数時間で、脳の毛細血管が怒りのために何本かは切れたはずじゃ。

友人に【今日は歩幅が狭いなぁ】・・・と言われたが、それはおそらく多発性脳梗塞の仕業で、その原因は紛れもなくこのペン先じゃ!(笑 


9数時間かけてやっと拡げられたスリット。

スキマゲージでコネコネしても微動だにしなかったので、まずはニブの厚みを削って変形しやすくしたうえで、剛力によって、やっとスリットを開くことが出来た。

同時にペン先先端部のめちゃくちゃな段差を直した。左右のペンポイントの高さがあまりにも違っていたので、まともな筆記が出来るような状態ではなかった。


10こちらは横顔、こういう形も試行錯誤の末出てきたもの。

通常のペン先であれば、調整前にイメージをFixさせてから研磨に入るのだが、今回はイメージを作れないほど酷い状態だった。

個体差の範疇だとは思うが、今後は凸凹加工付きペン芯に乗った仏蘭西製14金ペン先付きのParker 75が生贄としてやってきたら・・・

(勉強のためと称して)別の調整師にやってもらおうと決心した!



【 今回執筆時間:6時間 】 画像準備1.5h 修理調整3.5記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 


Posted by pelikan_1931 at 23:59│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック