という〔萬年筆は刃物〕理論を理解しやすくなるのではないかな?

インクがピストンの裏側まで回っている。このまま放置すれば、ピストン操作する度にインクが尻軸の隙間から吹き出す状態になるのも近い。
これまではピストン内部にグリースを塗るなどの応急処置しか出来なかったが、ピストンだけを交換部品として入手したので本格修理することにした。


エラを張らせればペン先がカモメの飛行時のように、中央が凹んでしまう。苦労して開いたとしても調整戻りが激しいので、すぐにまた詰まってしまう。
多少猫背を矯正しながらスリットが開く状態にするのだが、そうするとペン芯も上に反らせる必要がある。
ところがこのペン芯が上下には曲がりにくい構造になっているし、柔らかくなる温度が比較的高い。
ヒートガンを入手するまではかなり苦労したが、パワー調整機能付きのヒートガンを購入してからは作業が簡単になった。
ある温度を超えてペン芯を暖めれば、非常に曲がりやすくなるのじゃ。


粒度が粗く、いくら細かいペーパーで磨いても、ペーパーよりも粒度がはるかに粗いので滑面には永久にならない。
MontblancでもPelikanでも、一時期の製品で、これと同じ粒度の粗いペンポイントに出会う事がある。
両社ともペンポイントの自社生産はしていなかったはずなので、ペンポイント製造会社が仕入れる原料に問題があった時期のものだった可能性もある。
この粗い粒度の改善は不可能なので、スイートスポットの作り込みと、インクフロー改善、猫背改善によって相対筆圧を下げ、ニュルニュルのインクフローに近づける努力をした。

表面研磨すると、この時代のペン先の美しさに感動する。上から2番目の画像と比べると、表面研磨がいかに人相(ペン相?)を変えるかがわかろう。

ピストン部は押し込んでいるだけで、胴体との摩擦力で止まっている。しかし、尻軸を引っ張っても抜けるようなことはない。
抜くためには専用工具を使うか、首軸側からたたき出すしかない。
拙者は専用工具を持っているので尻軸を引っかけて、じわじわと抜き出した。
たたき出す方法は現行M400などに応用すると、かなりの高確率(75%以上)で壊れるので止めた方がよいが、この時代のモデルであれば、確率は1/3程度に低下する。
やむにやまれぬ場合には、尻軸側胴体を熱湯に入れて十分あたため、首軸側から鹿皮の破片を入れてピストン弁を守り・・・
先端部を切り落とした五寸釘を押し込んで、トンカチ一発か二発でたたき出すのじゃ。
失敗すると、ピストン軸が尻軸を突き破るか、釘が左右にぶれて首軸が割れる。何度も経験しているので、最近は専用工具に任せている。

このあたりの標準化(単に形状だけではなく、螺旋のピッチとかまで)はPelikanの独壇場。【大義がなければ仕様を変えない】という企業姿勢は立派じゃ!

そのとおり!調整直後は開いていたスリットが時間と共に元に戻ろうとする事を、このBlogでは【調整もどり】と呼んでいるが、まさにこれが発生した結果じゃ。
実は、この調整戻りを予測して、最初に拡げるスリット量を加減する。コレが的中すれば調整後が最大の書き味になるとうことじゃ。
それから時間が経過すると共に、書き味は劣化の一歩を辿る・・・というのが完璧に調整されたペン先が辿る運命。

多少は改善されたという程度。特にインクフローはペン先がくたびれてくればスリットが開き気味になり良くはなる。
もうひとつは、萬年筆の一番おいしいところを使うように持ち方が変わること。実はこちらのファクターの方が大きい。
従ってまだ筆記角度が不安定な初心者は、筆記角度が安定するまでは使い込んでみる方が無駄に萬年筆を買わないですむという意見もあるが・・・
実際には筆記用具というよりも、身の回りのアクセサリーとして(ネクタイやジュエリーのように)萬年筆を着替えるのがトレンド。
だとするならば、現在の書き癖に合わせて調整し、筆記角度が変わったら研ぎ直し、あるいは、他の人へバトンタッチする方が無駄に不愉快な時間をすごさないですむのにな・・・
というのが合理主義者の拙者の見解じゃ。
【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1h 修理調整3.5h 記事執筆1h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間