2022年06月14日

【 1960年代 Montblanc No.149 14C-K3B インクが途中で掠れる・・・ 】 アーカイブ 2011年9月

この記事は【万年筆は刃物】理論を実例を見ながら証明しているようだ。実にわかりやすい。

いくら最善の位置に合わせていても使っていれば調整は狂ってくる。萬年筆とは定期点検と微調整を繰り返しながら使っていくものじゃ。

また、最高状態に研がれた萬年筆は、そのまま使えば書き味は劣化し続ける。なぜなら調整直後が最高の書き味だから!

だからこそ定期的に微調整を繰り返し、書き味の劣化を補正する必要がある。

これこそが【万年筆は刃物】で言いたかったことなのじゃ!




2011-09-28 01今回の依頼品は1960年代のNo.149 14C-K3Bじゃ。1960年のNo.149はそれ以降の時代の胴軸より内径が大きい。

外径が同じということからわかるように胴軸が薄いということ。インクの吸入量の多さは魅力的だが、軸が華奢でトラブルも多い。

一番多いトラブルは尻軸と弁を繋ぐらせんネジが捩れて切れてしまうこと。

原因は胴軸内のインクが乾いて内壁と弁の間で固まり摩擦係数が大きくなるため。捻っても動かないのだが、それを無理に捻るとオシャカに!

この尻軸は、まず絶対に部品では出て来ないのであきらめるしかない。No.149の部品の中で最も貴重なものが尻軸!

この頻発するトラブルが原因で1970年以降のNo.149は内径が小さくなったと考えているが本当かどうかは怪しい。

実は1970年以降のNo.149はNo.146と内径は同じでありピストンリングなどは共通化されている。

ひょっとすると部品共有化によるコストダウンを狙ったのかもしれないが、これは歓迎すべき標準化じゃ。

No.146では胴軸厚みが薄い分、相対的に尻軸が重くなり、重心も後ろに移動した。

キャップを後ろに挿した状態ではNo.146の方がリアヘビーとなっており、拙者の好みに近いバランスになっている。


2011-09-28 022011-09-28 03今回のペン先はクーゲルの3Bであるが、明らかな森山スペシャル。

ものすごくエラがはった異様な姿をしているが書き味はさすが!書き出し掠れもないし、タッチは柔らかいし言うこと無し。

このセッティング位置は、拙者の好みの位置と同じなので、過去に拙者が分解清掃したはずじゃ。

いくら最善の位置に合わせていても使っていれば調整は狂ってくる。萬年筆とは定期点検と微調整を繰り返しながら使っていくものじゃ。

また、最高状態に研がれた萬年筆は、そのまま使えば書き味は劣化し続ける。なぜなら調整直後が最高の書き味だから!

だからこそ定期的に微調整を繰り返し、書き味の劣化を補正する必要がある。


2011-09-28 042011-09-28 05依頼者のような低筆圧の人が、このような大きな球のペンポイントで書いている場合、3年ぶりに見てもペンポイント自体の劣化は無い。

ただしペン先とペン芯との間に若干の隙間があいている。これが経年変化で出来ものか、洗浄途中で出来たものか、元々あったものかはわからない。

依頼者の言葉を借りれば、インクフローが安定せず、筆記途中でインクが切れたりする・・・ということなので、直せる部分としてはこの隙間をなくすことしか思いあたらない。

Montblancといえばインク漏れ!というレッテルを貼られているが、確かに昔の品から限定品までインク漏れには悩まされた。

キャップを開けただけで手が汚れるというのは萎えてしまう・・・最近Montblancを使わないので、今ではありえない事なのかもしれないが、記憶には強く刻みこまれている。

かなり国産萬年筆にシフトしている拙者が持ち歩く外国製萬年筆はPelikanとSenatorだけで、これらはインク漏れリスクが比較的少ないように思う。


2011-09-28 06この隙間をなくす方法として今回は2つの細工をした。一つはペン芯先端部をヒートガンで暖めて上に反らせること。

Montblancのエボナイト製ペン芯はごっつい割に、いとも簡単に曲がってくれるので非常に助かる。

一方でPelikanの3本ヒダの400NNのペン芯はなかなか曲がってくれない。

もうひとつの細工は画像のとおり、ペン先の根元の曲率をペン芯と合わせるようにツボ押し棒で拡げたこと(わかんないかも?)。

以前の状態ではペン芯の上にペン先を乗せると、曲率の違いからペン先がペン芯の上に浮く状態になっていた。

この状態であってもペン先とペン芯を重ねて首軸に押し込むので問題は無いようにも思えるのだが、過去の経験ではこの状態を放置すれば隙間が発生するリスクが高いように記憶している。


2011-09-28 072011-09-28 08こちらが隙間を無くすように加工した状態。今回の調整では研磨は一切行っていない。ペン先とペン芯の位置も大きくは変えていない。

ペン芯先端部を反らせ、ペン先根元の曲率を変えただけ。これで本当に不安定なインクフローが戻るかどうかはわからない。

なんせ不安定なインクフローという状態を体験していないので、想像で修理しているだけ。

調整師を目指すならいろんな萬年筆を使い込み、いろんな不具合を体験しないと一流にはなれないな・・・と感じた。

友人が堀切の久保さんの所にル・マン100を持込み、【あのぅ〜】と言った瞬間、【キャップが緩いんでしょう】と症状を言い当てられた!と感心していた事がある。これがプロじゃ!


【 今回執筆時間:2.5時間 】 画像準備1修理調整0.5記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 


Posted by pelikan_1931 at 23:59│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック