2022年07月25日

【 Pelikan 500 14K-F 分解する・・・ 】アーカイブ 2013年2月

下記は刈谷の巨匠から修理依頼のあった唯一の万年筆。

なんでも修理できる巨匠がさじを投げた一本の修理への道筋を作ることの出来た拙者にとって歴史的な一本。

修理に当たって最初にすることは、不具合の状態と、不具合に至った原因を解明すること。

その両方に成功すれば再発防止策を含めた修理が可能となる。

この回の修理は自分でも出来たのだが、敢えて巨匠にお返ししてやっていただくことにした。当時はあまりリスクをとりたくないと考えたのだろう。

今なら最後まで自分でやらないと気が済まなくなってきている。

 Vintage物の修理は、ある意味一番楽しい作業なのじゃ。




1今回の依頼品は【刈谷の巨匠】からのもの。Pelikanが一番好きで、珍品もたくさん保持されている巨匠は、ご自宅にロクロを数台設置した萬年筆小屋を保有。

拙者も何度もご自宅にうかがっているが、その設備や修理工具にはうならされている。従って巨匠から拙者に修理依頼が入るなんてのは初めて!いったい何だろう?


32実は、このPelikan 500のピストン弁を交換したいのだが、ペン芯が抜けなくてお困りの様子。Pelikan 500の修理には尻軸を外すしかない。

昔は首軸からペン先ユニットを抜いて、そこに棒を突っ込んで尻軸をたたき出していた。

今でもその手法をとられている巨匠にとっては、ペン芯がテコでも動かないこのPelikan 500はこれ以上どうしようもない代物になってしまったのじゃ。


54首軸ユニットが回らないので、引き抜こうとしたら、ペン先だけ抜けたのであろう。太さ刻印の無いペン先が同封されていた。

太さ刻印が無く、が刻印されているものはオブリーク・・・という時代もあったのだが、今回のには忍者の手裏剣のようなマークがある。

そしてペンポイントにはオブリークを細字に研いだような形跡もある。ペンポイントの根元が斜めになっているのが、その痕跡じゃ。


6こちらはペン先の裏面。Montblancと違って、裏面に製造時の刻印は無い。それにしても艶めかしいフォルムじゃ。実に美しい!

根元の丸穴はコストカット穴ではない。想像だが、ハート穴と根元の丸穴を使って位置固定してからスリットを切り込んだのではないだろうか?

もっとも、ずーと以前に紹介した画像には、ペン先を親指と人差し指で挟んで、回転する円盤に押しつける直前のものもあったなぁ・・・

ただ、少なくとも、インクフローに関係する位置にある穴ではないので、製造時の合(生産性向上や加工精度向上目的)であるのは間違いない。


7尻軸を外す工具は何年か前に紹介した。尻軸を左図のように胴軸と離し、この隙間に工具を差し込んで、ダイヤルをグルグルと回すと・・・

ジワジワとピストンユニットが胴軸から出てくる。

気をつけなければならないのは、この作業をする直前に胴軸を80度程度のお湯に入れて1分以上かき混ぜ、胴軸後部を膨張させておくこと。

そうすれば意外なほどあっさりと尻軸は外れる。それをやらないと尻軸が傷だらけになったり、折れたりすることもある。

一手間が生死を分ける事があるのは、人間に対する医療行為と同じ・・・


8これが外れたときの画像。尻軸ユニットは見事に外れた。

こうなれば、胴軸後端から長い金属棒か、細く加工した竹製の割り箸を押し込んでペン芯をたたき出せばよい。

このピストン棒は赤っぽい色をしている。これは初めて見た!黒い樹脂製しかないと思ってたのでビックリ!はたして純正品なのか?

それはともかく、一番の疑問は何故にこれほどペン芯がきついのか?実はペン芯をたたき出して前から覗くとソケットは140や400の物と同じエボナイト製であった。

それにも関わらずビクともしない。しかも覗いてみると、何やらこの500の首軸は構造が普通の物と違う。ソケットをねじ込むネジが無い!

はは〜ん!この500の首軸先端部は、ペン先ユニットを押し込む形態のものではないかな?それに通常のネジ込み式ソケットを力ずくでねじ込んで・・・動かなくなったと判断した。

これならば全てがすっきりする。しかし、コレ以上はどうしようもない。

今後の修理は、入ったままのソケットを内部から削って径を大きくし、そこにペン先とペン芯を押し込んで止まるようにするしかなさそうじゃ。

それにはロクロを使うのが一番良い!ここから先は【刈谷の巨匠】の世界!バトンタッチするしかないな。


9巨匠がピストン弁を交換したかったわけかがこちら。現在のピストン弁はすり切れてしまっている。その一部がリングになって外れている。

これではインク吸入は出来ない。従って普通は、140や400NNにも使える交換用の弁(現在海外通販で入手可能)を取り付けるのだが、今回はやらない。

なぜなら、この弁は【刈谷の巨匠】に教えていたいたところから購入している。すなわち、巨匠はいくらでもお持ちなのじゃ。

長年修理されている方は、こういう部品を入手するルートも開拓しておられる。

後輩である我々はそういうルートを引き継いでおくのも、修理不能萬年筆を少なくするのに重要なことなのじゃ。


10こちらがたたき出したペン芯。これは400、400N、400NNに共通のペン芯。同じ径でも140用はやや短い。

また同じ時代のMontblancのペン芯と比べると、両社の科学力の差が歴然としている。Pelikanの方がはるかに優れているのは間違いない。

当時の軸の現在に於ける状態をみても両社の差は歴然。軸やキャップのクラックがあるのが当然のようなMontblancとほとんど無いPelikan。これが基本設計をした人の科学力の差じゃ!

今後、【刈谷の巨匠】が、この萬年筆をどう再生されるのかが楽しみじゃ!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 修理調整1.5h 記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 


Posted by pelikan_1931 at 23:59│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック