2022年10月31日

【 Montblanc No.146 14C-F インクは漏れるが書き味は超絶! 】 アーカイブ 2011年12月

モンブランという単語を日本語に訳すと・・・〔インク漏れ〕と言う小話を作ったのは拙者だが、みなさん大なり小なりそう思っていたはずだ。

特に1980年代のNo.146は漏れまくり。その理由は・・・首軸先端部がすぐに割れてしまうこと。

実は何本かインク漏れ修理依頼のNo.146をお預かりしている。

このインク漏れは直す方法と延命処置をとる方法がある。

今回の記事はで紹介しているのは・・・延命処置にほかならない。




2011-12-26 01左画像は修理・洗浄・軸磨きが終了した患者さんの画像。それにしても持ち込まれたときの姿は・・・無残というより汚かった。

プラスティックのケースに入れられたNo.146がさらにジップケースに入れられて郵送で我が家にやってきた。

中身を出してみるとピストン側から壮大なインク漏れ。そもそもピストンを少しでも動かそうとすると、前か後ろかにインクが噴き出す状態。

インクはブルーブラック。電話で伝えられたメッセージでは、30年間かけて書き味をここまでにしたので、ペン先はいじらないで欲しい・・・と。


2011-12-26 02しかたなくペン先は胴軸から外さないで修理することにした。ここから先がまた大騒動。

左記のカニ目を挿し込もうとしたのだが穴が固まったインクで塞がれており空回りする。

熱湯で洗い流したあとでカニ目を入れて左に回そうとしたがビクともしない。そこで軸の後端をヒートガンで熱して軸を十分に膨張させたあとで捻ると・・・はずれた!

と、同時にツブツブであふれたインク滓がどっと出てきた。お湯で洗い流してもそう簡単にはとれない。

そこで熱湯にアスコルビン酸を大量に入れた液を超音波洗浄機に入れ、中で各部品を洗浄した。途中で4回ほど液を交換した。

金属部分は画像のように赤銅色に変わったがあれほどこびりついていたブルーブラックの滓?はほとんど無くなった。

その後、ボーグルーペで見ながら、歯科用先端工具で溝にこびりついたインク滓を取り除いた。ピストン先端部の白い弁は今回交換したもの。


2011-12-26 032011-12-26 042011-12-26 05もともと付いていた弁は黄色っぽいもの。

最初は黒い弁かとおもうほど汚れていた。洗浄後に表面をよく見るとインク滓が胴体との間で擦られて弁を削っている様がよくわかる。

このえぐられた部分から(長い間に)少しずつインクが後ろへ押し出されていつしかピストン部分全体を滓で充満させたのだろう。

インクは上下するピストンとピストンがスライドする空間の部分から尻軸を通ってネジまで逆流しているものがほとんどだった。

従ってスライドしようにもピストンがスムーズに動かない・・・というような状態だった。

ワセリンとシェラックとシリコングリースと、傷の無いピストン弁によって見事によみがえったNo.146。

ただし軸も傷だらけだったので、サンエーパールで少しだけ磨いておいた。ぱっと目には新品同様になったかな?


2011-12-26 062011-12-26 07分解も研磨もいっさいしていないが、このNo.146についているペン先の書き味はすばらしい。

Mから研ぎ出してFのような書き味にしたのかと思ったが、30年かけてこの書き味にまで・・・研ぎ上げたといことらしい。

いままで完璧に調整されたといわれるMontblanc No.146を数多く触ってきたが、書き味では間違いなく最上位クラス。

ひょっとするとトップかもしれない。

この書き味を調整しないで実現したとなると・・・調整師としては自信喪失。

画像のように非常に美しい形状をしているペンポイント部分のとんがり方もすばらしい。本当にこういう形状をしていたのかなぁ?

ペンポイントが紙との摩擦で表面に傷が付き、書き出し掠れは一切発生しない。ペンポイント先端部は密着しているのに書き出し時、筆記時のインク供給は問題ない。

もしこれがオリジナルの状態から使い込んで実現できたのだとすれば・・・・

【Montblancが日本市場で突出したのは利幅が大きいので販売店が積極的にお客様にお薦めしたから】という従来から言われてきた仮説がひっくり返ってしまう。

書き味が(国産を含めた)他社製と比べて秀逸だったから・・・と歴史評価を変えなければなるまい。

またこの時代のNo.146のペン先は柔らかい。少し筆圧をかけるとすんなりとスリットが拡がる。


2011-12-26 082011-12-26 09エイリアンのかぶり物を脱がせたら、中からオードリー・ペプバーンが出てきたかのような美しいペン先。

ペンポイント先端部は若干上に反っているように見える。Montblanc得意の円盤&鉈研ぎではなく、流麗な日本刀の先端部のような綺麗な形状。

長刀よりもさらに鋭敏な尖り方。それでいてシャリシャリ感もなければ、引っ掛かりも無い。

筆圧に反応して字幅は広くなるが、ある一定以上の字幅になると、それを戻そうという力が働く。

極細文字を書こうと思えばペンを立てて筆記すれば良い。ただこの尖り方だとひっくり返しては書けまいな。

表面の荒れ方を高倍率のルーペでみて、自分ならもう少し研磨したいとか、スリットを少し拡げたい気持ちはあるが・・・

それをすると依頼者の30年の苦労を踏みにじることにもなるのでやめておいた。


2011-12-26 10こちらが正面から見たペンポイントの拡大図。

上から見た画像、横から見た画像、そして前から見た画像を見比べて、どうしてもどこかで研磨をうけているような気がしてならない。

同じ筆記角度で書き続ければかならずやその痕跡(スイートスポット)が残るものだが、削られた平面がどこにもない。

あるのは綺麗な曲面、しかも一切破綻の無い曲面のみ。あるいみ数学的ですらある美しさじゃ。

今回何枚かペンポイントのアップ画像を掲載しているが、これは今後の拙者の細字調整・細字演出の資料とするためというのが本音。

特に円盤研ぎ前のMontblancのペンポイント調整には非常に重要な資料となる。

それにしてもこれが未調整のまま30年間で研ぎ上がった萬年筆・・・というのが未だに信じられない。

たまたまルービックキューブが6面揃ったというに等しい確率のような気がする。それほど美しく、かつまた、書き味の良いペン先であった。

もっとも、この研ぎをサクサクっと出来る人がいるとしたら、シャッポを脱いで降参するしかないがな・・・



【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 修理調整2.5記事執筆1h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間
 


Posted by pelikan_1931 at 23:59│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック