この記事で指摘した、〔プリミア用の首軸は先端部が樹脂のため、パチンと綺麗な音をたてては閉まらない〕という発見をすっかり忘れていた。
Parker 75の後継モデルとして発売されたプリミアが、75より短命だったのは、こういう細かい部分の不満の積み重ねだったのだろう。
新モデルを出す際に、コストカットして値段を上げるというのは常套手段だが、購入者は感じてしまうのじゃ。あ〜あ、便乗値上げ野郎め・・・と。
ただ、最近はウクライナ危機の影響で、ただの水が自販機で100円から120円に値上がりしても許してくれる時代。
基準モデルとの価格差が妥当であれば許してくれるもの。
プリミアに関しては、ペン先が18金製になったこと、軸の装飾が豪華であることが評価されていた。
ただ、今回の首軸先端部の樹脂化など、ユーザーの気持ちを考えないコストカットがボディブローのようにパーカーを弱らせたと言えるだろう。
設計開始前にどうして万年筆愛好家に聞かないのだろう?
この当時と違い今はSNSで悪い噂は一瞬で拡がっていく。
なんだか冒険をしにくい環境に万年筆メーカーが追い込まれているような気がする。
高額万年筆は愛好家との開発前のディスカッションが出来たかどうかで売れ行きが違ってしまう。
メーカーはもっと若い愛好家を開発段階から巻き込んだ方が良いと思う。
TWSBIが開発を愛好家とやりとりしながらすすめたところ、一挙にファンが増え、今でいえばバズった状態になったのも理由は愛好家巻き込み戦略と信じている。
原監督なら愛好家巻き込み大作戦と言っただろうがな・・・(駅伝監督でっせ)
今回の生贄はParker 75 マシーフじゃ。過去にここで拙者のマシーフを紹介している。それよりは擦れが激しいが紛れもないマシーフ!珍品じゃ。
ただし、首軸がParker プリミア時代初期の形状をしている。
軸もストライプ、首軸もストライプで、一見マッチするように見えるが、先の記事のとおり本来の首軸先端部は銀色であるべき。
どっかで変わってしまったのだろう。そして一番の問題はキャップがパチンと音をたてて締まらないこと。プスンという音では気持ちが落ち込んでしまう。
このモデルはキャップトップにオニキズが飾られているのが特徴。それだけでずいぶんと高級な感じが漂ってしまう。
Parker 75 の純銀軸が定価2万円で販売されていた時代に4.5万円だったマシーフ。拙者は同じ物をアメ横で8万円で購入した。その時は既に骨董価値が出ていたらしい。
首軸先端部の模様はなかなか良いのだが、ペンポイント先端部に目をやると、空間が捻られたような錯覚に陥る。
ペンポイントだけ90度ほど回転させたような形状になっている。ペン先の刻印は仏蘭西製を示しており、時代も合っている。
なぜ首軸だけプリミア用がついているのだろう?
もしこの組み合わせが正しいとすれば、プリミア初期の首軸はParker 75用と共通だったということになる。
とすればこのギザギザ金色首軸を持ったParker 75がうじゃうじゃあるはずなのだが・・・
では、ペンポイント部分がどのように捻られているのかを見てみよう。いかがかな?
ペンポイント部分が横に50度ほど捻られている。どうしたらこのように出来るのかもわからない。実に酷い。
回転式のキャップなら天冠に衝突して・・・・なんてことも考えられるが嵌合式だしな。いずれにせよ、この形で先端部だけ捻られたものを元通りにするのは不可能。
すっぱりとあきらめて、別のペン先を移植することにしよう。幸い、ペン芯が壊れてペン先だけのParker 75があったはず。
もう一つの不具合であるキャップがパチンと気持ち良く嵌まらない件については、首軸に新たなネジが胴軸によって彫られている状態を疑っていたのだが・・・
その影響はごくわずかで、むしろ首軸の先端部分が金属から樹脂に変わった事による影響の方が大きいようだ。
そういえば初めてプリミアを購入した際、キャップの締まる音がParker 75ほど気持ち良くないなぁ・・・とガッカリしたが、先端部が樹脂であった事は今の今まで気付かなかった。
左側が予備のペン先で、右側が捩れたペンポイントのもの。右側のペン先にはホールマークやメーカーマークなどごちゃごちゃと入っている。
またスリットがハート穴の中央からズレている。最近気付いた事なのだが、Parker 75のペン先には長いものと短い物がある。
今回の2個もまさにソレじゃ。首軸に挿すと相当差があるように見えるが、こうやって比べるとそれほどの差でもないなぁ。
こちらが本来のマシーフの首軸にUSA製のペン先を装着して研磨を施したもの。元々はXFのペン先を研磨したので、ペン芯の表記とは異なっている。
しかし、この萬年筆で字を書いた人は、首軸の表記を信じるだろう。当初の書き味がウソのように改善された。
スリットもごくわずがに開いているので、インクを出すために紙に押しつけるというXFにありがちな苦行は不要。
紙に当てるだけで、細字の字幅のインクがニュルニュルと出てきてすぐに乾く。といって、【いかにも調整師が処置しましたぜ!】という自己主張はしていない。
あくまでもParker 75 の書き味の特徴は残っている。素材を生かした調理としては、最高レベルに出来たのではないかな?
こちらが胴軸に正式な首軸と新しいペン先を装着したもの。やはり以前の首軸の違和感は大きかった。一方でペン先の違和感はそれほど無い。
いずれにせよニコイチなので、この状態で事情を知らない人のあいだで流通するのは困る。あくまでもニコイチと知った上で楽しんでほしい。
ボディの細工とペン先の調整は最高レベルなので必ずや楽しませてくれるでしょう!
ちなみに、このボディもシルバー・ポリッシュのお風呂に1ヶ月間入浴していた。ただしバーメイルなので汚れが落ちただけで表面変化は少なかった。
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 修理調整1h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間