ペリカンはペン先を外注したり、自社生産したりしているが、もし自社生産に切り替えるとすれば、1にコスト削減、2に設計の自由度向上だろう。
この記事以降、ペリカンのペン先については何度も書いているが、重要なことを忘れていると気づいた。
コストカット穴などについては何度も話題にしたのだが、それで何グラム金の量を減らせられたのかは書いてなかったような気がする。
もっとも効果的なコストカットは、根元の穴開けと、ペン先を薄くすること。
最近のフレックス全盛には、コストカットに最適というメーカー側の戦略もある。
金型代が巨額なので、なんとかブームが続いて欲しいというのが願いでもあろうが、見落としてはならないこともある。
フレックスのペン先の方が、ペン先とペン芯の結婚(金ペン堂初代店主)が難しいということ。
そう金の量は少なくてすむが、人件費が増えてしまう可能性もある。プラチナが定番ラインナップにSM(中軟)を加えないのもその理由らしい。
逆に言えば、そういう限定品は出たら買い! ということになる。
今回は拙者のM800のペン先交換だが、いろいろおもしろい仮説が出てきた。
現行のM800のMニブは【PF】時代のMニブよりも良いといわれているが、今回その謎の一端が見えた気がする。
M800のペン先は14C、18C-EN、18C-PF、20C、18C(現行)に分けられる。
硬い柔らかいといった意見は多数あったがどれも個体差の範囲に近いような気がしていた。
目で見て違うのは、18C-PF以外はB以上のニブのペンポイントの厚みが薄いこと。
PFだけが(特に3Bなど)巨大なペンポイントが付いている。調整師にとっては調整の幅が拡がるので歓迎!というだけ・・・・
それを何故に現行のメタボペン先に換えたのかがわからなかった・・・
たぶんコストカットかなぁ・・・と思っていたのだが、ひょっとすると違っていたかも?と不安になるような発見をした。それはあとで・・・
左の画像は、キャップ、尻軸付きピストン。いずれも旧型の軸のパーツである。やはり刻印のある天冠は良いなぁ。
このセットがあれば現行軸が旧軸に変わるわけだがペン先は現行のままになる。それが気にならない人は【書き味重視派】で、気になる人は【見映え重視派】。
実は拙者は意外にも【書き味重視派】であり、旧軸に現行18C-Mニブを【インクフロー調整済 but 未研磨】の状態で使っていた。
なかなか手にはなじまないが、それも一興と割り切って使っていたのだが・・・・
どうしてもメタボな形状が気になって仕方ない。左が現行のMニブで、右がPFのBBニブ。
刻印の深さなどの細かい違いは気にならないが、旧ニブの方が腰回りが締まっていて見映えがよい。
やはり書いている際に見映えが悪いのは気になる・・・
そこに朗報がはいった。たまたま入手した現行M800の中古になんとPFニブが付いていた。
そりゃ交換するしか無いでしょ!ということでイソイソと現物を確認してみた。
なかなか状態が悪いペン先である。ペンポイントは未使用に近い。まったく摩耗していない。しかしペン先の表面には数多くの擦り傷がある。
どうやらインク滓を取り除こうと無謀にもサンドペーパーで擦ったらしい。
いくら表面を金磨きクロスで擦っても相当時間がかかるし、100%傷はとれない。またバイカラーは汚くなってしまう。
元々バイカラーが好きではないので、ここは金一色に鍍金することにした。
鍍金はざらついた面には綺麗にかからない。表面を鏡面にしておく必要がある。
そこでルーターで表面の凸凹を直し、金磨き布でバフをかけてから20金を鍍金した。
18金より20金の方が色がドギツイので拙者の趣味には合っている。
鍍金作業は、準備10分、鍍金1分、片付け10分で終了!
左から現行ニブ、18C-PFニブ・オリジナル、18C-PFニブ・20金鍍金じゃ。
同じプラチナ鍍金なのに現行ニブの方が輝きがないのは、おそらくは下地に鍍金したニッケルのせい。
ニッケルを下地に鍍金すると、ロジウムをその上に鍍金しても輝きが失われて鈍い色になった。おそらくはプラチナも・・・と想像・・・
ペン先単体で見るとバイカラーのペン先には惚れてしまうが、胴体にまったく銀色部分が無い萬年筆にバイカラーのペン先を付けることにはかなり抵抗がある。やはり金一色でしょう!
そしてインクはウォーターマンの昔のブラック。趣味文Vol.11のテストでも取り上げて貰ったが、なかなか粘度が高くて好ましい書き味を提供してくれる。
もちろん強烈な薬品臭もある!
なによりこの瓶のかわいさに参ってしまう。薄っぺらで場所をとらないのも良い。
どうしてこういうインク瓶をやめたのかな?インクがキャップに付着する量も口径が小さい分少ないだろうし・・・
さて意気揚々とインクを入れて書いてみたのだが、全然良くない。たまに掠れるし・・・。
現行18C-Mの方が未調整同士なら数段上じゃん・・・とブツブツ言っていてわかった。
旧18C-B(PF)のスイートスポットで書くためには、萬年筆を起こし筆記角度80度程度にし、首軸先端の金属部分と胴体のネジの間を握り、キャップをはずして書く必要がある。
一方で現行18C-Mなら、キャップを後に嵌めて、かなり後を持ってもまったく気にならないで書ける・・・
ひょっとすると現行ニブのお辞儀は萬年筆の後を持っても書けるようにする改良だったのかも知れない。
長原先生のコンコルドは長い萬年筆の後を持っても気持ちよく書けるが、その効果をペン先をお辞儀させて出そうとしたのが現行M800ニブかな?
いろんな啓蒙メディアのおかげで、最近では萬年筆の後を持って書く人が世界的に増えたのかも・・・
それに対してPFニブはマッチしなかったため、新たに設計したお辞儀ニブを投入した。
お辞儀させるにはウェストを絞っていてはうまくいかない。そこで形状もメタボになった・・・という必然かも?
なぜか急に現行ニブが好きになってきた。PFやEN二ブは見ている分には良いが、調整無しでは不細工な持ち方しか出来ない。さて真相はどうなのかな?
【 今回執筆時間:6時間 】 画像準備2.5h 修理調整2h 記事執筆1.5h
画像準備とは画像をスキャナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間